健康第一、モンスタードック 3
翌朝、まず行き先である魔連の総本部クリフォト――通称魔王城に先触れの魔法術を出します。ごくごく簡単な通信術であるこれは、ごく単純に魔語を手紙形式で飛ばすだけのものです。
「面倒だな」
まだ言っているラオムさんの言葉を適度に聞き流しつつ、返信を待ちます。桃色の封筒型立体陣が消えて数秒、魔王城からのものであることを表す黒い立体陣が現れます。
一瞬だけ曲線の組み合わせの複雑な文様を描いたそれは、半透明のスクリーンに変化して文字を浮かび上がらせました。相変わらず公式陣は綺麗ですね。
『第7ゲートへの転移が可能です。補助陣が必要な場合そのまま返信してください。必要ない場合は廃棄してください』
魔力を掻き消して廃棄し、第7ですか、となんとなく感動します。
普段、本部には転移でのみ入る事が出来ます。ゲートというか転移先に指定する広場はかなりの数ありますが、1から10が1番大きく、以降数字が大きくなるごとに小さいゲートになります。
ちなみにわたしは大抵200から400番台でした。一畳分くらいのサイズですね。
「転移陣は立体か? 平面か?」
えーと、わたしはどちらでもいいですけど、やっぱりラオムさんは大きいですから立体の方が安全ですよね。立体にしましょう!
ラオムさんは頷いて、すうっと滑らかに赤い魔力光の線を描いていく。……あまり使っておられないというのに、惚れ惚れするほど素早く精密な描線です。憧れます!
何度も確認しながらのろのろ構成して更にまた確認しないと気のすまない私とは大違いで、迷い無く数秒で構成を終えて、最後の点を打つ。
「行くぞ」
わたしはラオムさんの前足の間に収まって、できるだけ体と魔力を縮こまらせる。
そして陣は恙無く発動され、ぎゅっと目を瞑った一瞬後には転移が終わって、
……って、あれ?
「うわあああ本当だったああああ!!」
悲鳴じみた声に顔を上げると、顔なじみの魔族の方でした。首が転げ落ちんばかりに仰け反ったその人は慌てて首を手で押さえる。……騎士の格好ではなく明らかに私服ですが、デュラハンのメーレさんです。
「え、予想外なんだけど。普通にドラゴンのまま?」
隣であらー、と口を開けているのがメーレさんのつがいであるパティさん。ハーピーの女性で、メーレさんの腕に絡みつきながら口元に手を当てて驚いておられました。
「ボロ負けじゃねーか……誰だよ、人型とかドヤ顔で言った奴は!」
やや涙目で地面をガスガスと叩いておられる、ケンタウロスのディールさん。ここには居られませんが、つがいはヒッポグリフのアンティさんですね。
……え、あの、待ち伏せですか?
その他大多数の魔族・魔物さん方がドアから覗いているのを唖然と見ながら、わたしはとりあえずそう言ったのでありました。
魔法術
魔力線によって構成陣を描き、術式を作り出す。魔力による直感的操作とは違い、精密な描画と集中力を要する。
用途は様々だが、戦闘にはあまり使用しない。
直線を使用する直線陣、点(円)を加えた点直線陣、点のみで描く点描陣、曲線を使う曲線陣、等に分類される。
平面での描画は勿論、平面を組み合わせる多面型、曲面を使用する曲面型等などの立体陣がある。
構成については各自によってかなり差がある。
共通規格の陣は“公式陣”と呼ばれる。改造が難しい代わりに安定しており、魔連では殆どこれが使用されている。