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食うに食えない非常食 1

●ほぼずっと獣と獣で進行しています。

●捕食者ですので、人食等の残酷描写にご注意。


というわけで、どうぞ。





 暦など持ち合わせておりませんのではっきりとはしませんが、夏のはじめ、真昼。

 わたしはどこぞの熱帯雨林を、ただひたすら駆け抜けておりました。


 短い足を必死に動かし、僅かに残るのみの魔力を身体強化に。疲労回復に向ければもう少しマシかもしれないと思いつつ今更構成を変える暇も無いですし!

 とにかく、ただひたすら走る。背後から聞こえる荒い息は止みません。ああ、わたしは、あのオオカミさん方にぺろりと! 頂かれてしまうのでしょうか。

 ……えー、できれば痛くないように死にたいのですが! 薬とかで!


 ってにゃあああ足縺れたああ!

 と、危うく顔面からスライディングしそうになったその時です。


 不意に、周囲が暗くなりました。

 ――雲でも掛かったのでしょうか、と上を見上げ。


「ギャンッ」


 オオカミさん方の悲鳴。ええ、悲鳴ですよね、上げたくなるでしょうねーと他人事のように思いながらも。圧倒的暴力にプチッと逝く(アーメン。もしくはなむなむ)彼らを見つつ、わたしはただ見上げた姿勢のまま、がちんと硬直しましていました。

 ええ、この恐怖から開放されるのであれば叫びたいですね。――けれど、口を開く事すら出来ないような、圧倒的存在感。金縛りに遭ったように、動けません。


 なんということでしょう。オオカミさんよりずっと、や、ややややばいのでは……!


 どしん、とその巨大な脚がわたしの脇に着地。ちっぽけなわたしに比べては勿論のこと、地上で最大と言っても過言ではないように思えるその巨大さ。いえ、多分まだ大きい方は居ると思うんですが、わたしからするととてつもなく巨大です。巨人と大巨人の差なんて分かりませんよ!


 鱗に覆われた黒い脚から腹を視線で辿り、更に上を見上げますと。蝙蝠に似ているけれど蝙蝠よりずっと強靭で大きく、広げた飛膜の上でジャンプしても破れなそうな羽。当たったら痛そうな太い尻尾、伸びた首の先――凶悪そうな、けれどもどこか美しく、畏怖を抱かざるを得ないその頭。


 そう、それは魔物の中でもとびきり有名かつ最強だと謳われるもの。

 ドラゴンさん、でした。


 絶体絶命。文字通り絶対に命を絶たれますよこれは! 同じランクSSSでも、いたいけなにゃんことドラゴンでは天と地の差ですから!

 ああせめて、末期の水とか良いですから毛づくろいとかしたい。走り続けたせいで、どろどろになってしまっています。自慢の、自慢のパールピンクの毛並みがっ、


 に゛ゃああぁぁぁぁ!


 ずい、と黒い鼻先が近づきます。暁のようなそのお目目だけで私の身体を丸めたくらいの大きさがあります。で、でっかい、こわい。

 すんすんと鼻を鳴らし、ドラゴンさんは更にずいと鼻を押し進めます。ついにお腹のあたりに当たり、為す術なくわたしは後ろに転げました。

 うう、もうなんとでもしてください。い、痛いのはやですよ! 優しくし……いえ、けして卑猥な意味ではなくてですね。


「……珍しい。珠猫か」


 珠猫(しゅびょう)。または宝猫、宝石猫とも言いますが、これは比較的古い呼び名です。というか思いのほか色っぽいな声が腹部を直に震わせて、思わずフニャーとかとろけたような鳴き声が。な、なんということでしょう、ストックホルム症候群!? 俗に言う吊橋効果!

 しかしドラゴンさんはどことなくサディスティックに笑うと、いえまあフィーリングですが、

 

「非常食にするか」


 と仰いまして、はむんと牙で首の後ろを銜えられました。い、いますぐ殺されるんでないのでしたらそれは幸いなのですが、怖い。ちょっと力入れたらブツンじゃないですか。しかしそこを噛まれると何故だか力を抜いてしまう猫本能が憎い!

 そしてドラゴンさ、いえドラゴン様はばさりと大きな翼を広げてばさりと羽ばたく。ああっ、また木が倒れる……動物が! あーあーあー!


「煩い猫だ」


 申し訳ございませんでしにゃうあぁぁぁあああん!

 ばっさばっさと飛び上がるドラゴン様。わたしはただ、人生初の――いえ飛行機なら乗った事もございますが――飛行に、悲鳴を上げ続けるばかり。無理です本当に。


 ――かくしてわたしは、ドラゴン様の非常食となったのでございました。







※主人公は段々馬鹿になります と予言しておく

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