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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
続編②   新たな脅威と、ふたりの剣

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ある平和な朝に

それから、また日常が戻ってきた。


薬草屋の朝。六時に起きて、掃除して、仕分けをして、配達をする。


レオンは相変わらず非番のたびに来た。最近は調合も手伝えるようになった。先日は自分で調合した頭痛薬を父に渡して、父が感激していた。


「レオンさん、器用なんですね」


「アリアが教えてくれたから」


「ありがとうございます」


「俺がお前に礼を言う立場だ」


この人はたまに、こういうことを言う。さらっと、当たり前のように。


……そういうところが、好きです。


エミリアは月に一度来て、薬草茶を飲んで、院内の変化を教えてくれた。少しずつ、制度が変わっていると言っていた。地方への派遣が増えて、聖女の待遇も改善されつつあると。


「アリアさんのおかげです」


「私は何もしていませんよ」


「いいえ。あなたが外から声を上げたことで、院内が変わる理由ができました」


「それはエミリアさんが動いたからですよ。私は外にいるだけです」


「外にいるからこそ、言えることがある」


……そうなんでしょうか。

よくわかりませんが、エミリアさんが変わったことは確かです。それは、間違いなく本人の力です。

ガイウスは相変わらず気まぐれに現れた。先日来たときは「そろそろ弟子を取ろうと思っている」と言っていた。誰のことかは言わなかった。


……私じゃないといいんですが。

「ガイウスさん、弟子とはどなたのことですか」


「まだ決めていない。候補はいるが、本人の意思が大切だから」


「候補というのは」


「さて」


「……教えてください」


「今日は教えない。ではまた」


そう言って消えた。


……まったく、この人は。


ある朝、仕分けをしながら、私は少し考えた。


前世では、平和な朝を迎えることを夢見たまま死んだ。


今世では、十二年間一人で抱えて、やっと誰かに話せた。


そして今は——父と母がいて、レオンがいて、エミリアがいて、謎のガイウスもいる。


隠さなくていい場所がある。逃げなくていい朝がある。


……これが、私が望んでいたものですね。

前世も今世も、ずっと望んでいた。

ゆっくり、平和に、誰かのそばで生きること。

扉がノックされた。


「アリア、レオンさんが来てるよ」


母の声だった。


私は薬草の束を置いて、立ち上がった。


作業場を出て、廊下を歩いて、店先に出た。


レオンが立っていた。今日は小さな包みを持っていた。


「……何ですか、それ」


「茶館で買ってきた。蜂蜜入りの焼き菓子だ」


「なぜ」


「お前が以前、美味いと言っていた」


……いつのことを覚えているんですか。

包みを受け取った。少し温かかった。買いたてらしい。


「……ありがとうございます」


「仕事が一段落したら食べろ」


「一緒に食べますか」


「……邪魔じゃなければ」


「邪魔じゃないですよ、全然」


レオンが少し口の端を上げた。


「では、手伝う」


「今日は重い配達はないですよ」


「調合を手伝う」


「……わかりました。どうぞ」


二人で作業場に入った。窓から朝の光が差し込んでいた。薬草の香りが漂っていた。


……ゆっくり、生きています。

平和に、誰かのそばで。

前世の私に教えてあげられたら、と思います。

ちゃんと、たどり着けましたよ、と。


お昼過ぎ、調合が一段落したところで、蜂蜜の焼き菓子を出した。


「温かいままではないですが」


「問題ない」


二人で、作業台の端に座って食べた。窓から午後の光が入っていた。


「……美味いか」


「美味しいです。あなたは」


「ああ」


「良かった」


しばらく、二人で黙って食べた。


「帰ってから、茶館には行きましたか」


レオンが言った。


「……まだです。一緒に行く約束でしたから」


「そうだ。覚えていたか」


「覚えていますよ、当然」


レオンが少し目を細めた。


「では、今週末に行こう」


「はい」


……塔の前でした約束を、ちゃんと覚えていてくれました。

それは嬉しいです。とても。

母が作業場の入り口に顔を覗かせた。


「二人でお茶でも飲みますか」


「「……いただきます」」


二人の声が重なった。母がくすっと笑って引っ込んだ。


……声が重なりました。

そういうことが、起きるようになりました。

ゆっくり、確かに、ここに根付いています。

お茶が来た。母が二つのカップを置いて、さらっと引っ込んだ。


「……お母さん、また聞かずに引っ込みましたね」


「聞かない方が、ここにいやすいからだろう」


「……そういう人なんです、うちの母は」


「いい人だ」


「はい」


お茶を飲んだ。薬草茶だった。母の好みの、少し甘くて香りの強いやつだった。


「今週末、茶館に行きましょう」


「ああ」


「あそこの蜂蜜のお茶が飲みたいです。また飲みたいと思っていたんです」


「覚えているか」


「あなたが初めて連れて行ってくれたので。覚えています」


レオンが少し目を細めた。


……これが、当たり前になっています。

誰かと同じ時間を積み重ねることが。

前世の私が一番欲しかったものが、今、ここにあります。

午後の光が、作業台に伸びていた。


薬草の束が半分仕分けられたまま残っていたが、今日はもういいかと思った。


「少し休みますか」


「ああ」


レオンが椅子を引いた。私も隣に座った。


「……塔の中、怖かったですか。最後に聞けていなかったので」


「怖かった。でも、隣にお前がいた」


「……それで、大丈夫でしたか」


「大丈夫だった」


……私も、同じです。

あなたが隣にいたから、大丈夫でした。

「……また、どこか遠くへ行くことがあるかもしれません。そのときも来てくれますか」


「当然だ」


「ありがとうございます」


「礼はいらない。それが俺の選択だ」


選んでくれているんですね。隣にいることを。

私も、選んでいます。あなたの隣を。

――――◆――――




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