帰り道
塔の外に出たら、夜明けだった。
ガイウスが待っていた。エミリアが傍らに立っていた。
「……終わったか」
「終わりました」
ガイウスが深く息を吐いた。目が少し潤んでいた。
「……百年間、待っていたのは私だけじゃない。ヴォルドもそうだった。長い時間、一人で抱えてきたものが、やっと終わった」
「……ヴォルドも、終わりたかったんですか」
「本人から聞いたわけじゃない。だが、あの声を聞いたとき、そう思った。解放されて、よかった」
……そういう話だったんですね。
後でもっと詳しく聞きます。絶対に。
「ガイウスさん、百年間待っていた、とはどういう意味ですか」
「長い話だ。帰りながら話そう」
「絶対話してくださいね」
「……わかった。話す」
ガイウスが歩き始めた。杖をついていたが、足取りはさっきより軽かった気がした。
◆
帰り道を歩きながら、エミリアが言った。
「……アリアさん、すごかったです」
「三人でできたことですよ」
「私は補助しかできなかった」
「補助がなければ私も動けませんでした。本当に助かりました」
「レオンさんも」
「俺は剣を振っていただけだ」
「そんなことはない」私は言った。「ヴォルドの注意を分散させてくれなかったら、もっと時間がかかっていました。あなたがいたから、動けた」
レオンが少し黙った。
「……そうか」
「そうです」
エミリアが少し黙って、それからふわっと笑った。
「……また一緒に戦いたいです」
「次はないといいですが、もし次があれば」
「はい、絶対呼んでください」
レオンが隣で聞いていた。
「俺も呼べ」
「当然です」
三人で笑った。夜明けの道の上で。
……三人で笑うことが、こんなに自然になりました。
いつの間に、こうなったんでしょう。
でも、いつの間にかでも、こうなってよかったです。
◆
ガイウスが歩きながら話し始めた。
百年前、ガイウスはヴォルドの友人だったという。均衡を守るため魔術を研究していたヴォルドが、研究の末に道を踏み外した。ガイウスはそれを止められなかった。
「……だから、百年かけてこの日を準備した。君のような存在がいつか現れると信じて」
「……ガイウスさんは、百年生きているんですか」
「魔術師は、時に長生きする」
「それは……大変でしたね」
ガイウスが少し笑った。「まあな」と言った。
……百年間、ずっと待っていた人が、ここにいます。
一人で、ずっと。
それは、どれほど長い時間だったんでしょう。
「……これからは、どうするんですか」
「弟子でも取ろうかと思っている」
「……誰のことですか」
「さて、誰だろうな」
……絶対私のことではないといいですが。
三日かけて、王都へ帰った。
帰り道は行きよりずっと軽かった。荒れた大地を抜けると、緑が戻ってきた。鳥の声が聞こえた。空気が変わった。
「……きれいですね、やっぱり」
「ああ」
「王都の方が好きですか」
「荒れた大地より、好きだ」
「……当たり前ですね」
……でも、この人が「好き」という言葉を使うのは珍しいので、少し嬉しいです。
王都の門が見えてきたとき、エミリアが小さく「あ」と言った。
「どうしましたか」
「……帰ってきた、と思って」
「そうですね」
「無事に帰れるか、少し不安だったので」
「帰れましたよ」
「はい。ちゃんと帰れました」
エミリアが少し笑った。目が赤くなっていた。
……この人も、怖かったんですね。
当たり前です。でも怖がりながら、ちゃんと動いてくれました。
「エミリアさん、ありがとうございました。本当に助かりました」
「こちらこそ。……一緒に来られてよかったです」
ガイウスが「では、私はここで失礼しよう」と言った。
「また気まぐれに来ますか」
「もちろん。退屈したら来る」
「弟子の件、教えてください」
「……それはそのうちな」
そう言って消えた。相変わらずだった。
レオンが隣で見ていた。
「……あの老人は、どこへ行くんだ」
「さあ。どこか遠いところだと思います」
「不思議な人だ」
「はい。でも、信頼できる人です」
「そうか」
レオンが歩き始めた。薬草屋の方向へ。
……自然に、薬草屋の方へ向かっています。
帰る場所が、同じになっています。
薬草屋に着いたとき、父が扉を開けた。
「……帰ったか」
「ただいまです」
「怪我は」
「私はないです。レオンさんはかすり傷です」
父がレオンを見た。レオンが「問題ない」と言った。
「……まあ、入れ。飯があるから」
「ありがとうございます」
母が奥から「早く顔見せなさい」と言った。私は少し早足になった。
母に会ったとき、何も言わずに抱きしめられた。
……あ。
これは、泣きそうです。
「……ただいま、お母さん」
「おかえり。ちゃんと帰ってきたね」
「はい」
……ちゃんと帰ってきました。
約束通り。
「……レオンさんも、手当てします。かすり傷でも」
「必要ないが、お前がするなら、してくれ」
母が台所から「夕食は一時間後よ」と声をかけてきた。
「……泊まっていきますか」
「……いいのか」
「父も母も、歓迎しますよ」
レオンが少し間を置いた。それから「では、少しだけ」と言った。
……少しだけ、と言いましたが。
こういうとき、少しだけでは済まないことを、最近わかってきました。
まあ、いいです。




