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08. 持つべきものは友

このような展開で本当に良いのだろうか? やばくないか?

もうこのあたりで幕を引いたほうが良いのでは?……

今なら まだ、酒の席の冗談にできる。


私はどこか追い込まれたような気持ちになっていたのですが、

そのまま顔色やしぐさに表れてしまっていたのか、

鈴木が心配そうに声をかけてきたのです。


「ヤベちゃん、どうした? 飲みすぎた?」


「いや、そんなことないで…… 年のせいやろか、

酔いのまわりが早うなったのかもしれんな」


もちろん私は酔っては いませんでした。


「そりゃ、おたがいさまや、年齢には勝てんよな……」


そう返してくる鈴木の顔は柔らかく、私は親友として、今宵の席を

設けたことについてはよかった、と思ったのでした。


居酒屋を出た私たちは、彼の住むベイサイドのタワーマンション経由で、

私の住む郊外のニュータウンまで、タクシーで帰路につきました。


タクシーの中では、先ほどの「私からの提案」を避けるかのように、

まるで忘れ去ったかのように、全く違う話で盛り上がっていたのです。


どこそこの温泉の泉質が良いとか、効能が、とか、

その近くに、テレビで紹介されていたうまいラーメン屋があるとか。


私としては、

(なんや、やっぱり酒の席でのジョークやったんか)くらいに

気持ちがゆるんでいきました。


(こういうのが取り越し苦労ってやつやな……)


それはそれで さっきまで胸がドキドキ、背中がヒリヒリと感じていた、

なんともいえない追い込まれたような刺激的な感覚が、

だんだんと消えていく寂しい気持ちにもなっていたのです。


私自身、なんともわがままというか、贅沢というか、

いかにも気の小さな男だとあらためて自覚をしていました。


ただ、少しでもそういう気分が味わえただけでも、

(今日は楽しかった!)そう思って、私は自分で納得していました。


やがてタクシーからもタワマン群が見えてきて、次の角を渡れば、

その先 あと少しで鈴木が下車することから、

私の気持ちもすっかり緩んでいたのでした。


「ヤマちゃん、今日はホンマにありがとう、また昔みたいに こういう席を持とうな」


「こちらこそサンキュー、トシと久しぶりに飲めてよかった、また飲もう」


すっかり上機嫌になった私は、わざわざ鈴木に手を差し出して、

なんと握手までしていたのでした。


「持つべきものは友やな……」


しみじみ返してきた彼は、握手の手をしっかり握り返してきました。


「あはは、おおげさやな! 副社長に言われると、くすぐったいで」


それでも鈴木は表情を崩さず、どこか申し訳なさそうな表情で、


「さっき提案してくれたこと…… くれぐれもよろしくたのむな」


「え? さっきの?」


「うん、奥さんに話してくれるんやろ? ホンマに何から何まで気遣ってくれて申し訳ない……」


その鈴木の言葉に、一気に動揺してしまった私でした。


が 咄嗟にそんな素振りを彼に見せてはいけない、

気づかれてはいけない、と強がっていたのと、

彼が申し訳なさそうに私に懇願するような表情にどこか優越感というか、

上から目線になっていたのかもしれません。


私は心にもない言葉を返したのでした。


「おう、そうやったな、まかせとけ! なんとかしてやるよ!」


(してやる とは、さすがに言い過ぎだったのかもしれないですね……)


「何から何まで、本当にすまん…… おやすみ! またな」


鈴木はタクシーチケットを私に握らせて、

どこか申し訳なさそうに逃げるようにして降りていきました。


(さぁ、どうしようか……)


自宅に向かうタクシーの中で、

私は色々なことを思い巡らせるしかなかったのです。


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