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04. 幸美? 誰や?

「とりあえず?」


私の何気ない言葉に、ほとんど氷しか残っていない3杯目のグラスを

口に当てながら、鈴木は私に視線を向けました。


「たとえばな、たとえば…… 幸美が相手やったら お前も楽やろ……

 ひと時を 気軽に過ごしてみるとか、どうや?」


「幸美? 誰や?」


「ウチのカミさんよ、お前も良く知ってるやろ、年齢的にも合うし」


実はその時になぜ妻の名を口に出してしまったのか、

私は、今 振り返っても、何度 振り返ってもわからないのです。


なぜ? 

強いて言えば、たまたま「奥さん」という言葉に釣られてひらめいた?

あまりにも親友の鈴木が かわいそうで、つい? 

居酒屋のにぎやかな雰囲気に乗せられた?


とにかく、妻である幸美の名を初めて出した時点では、

特に思い入れもなく、軽はずみに、と言っていいくらい、安易な思いつきで出してしまった、

そんな感じでした。


軽はずみは、鈴木も同じだったみたいで、


「オイオイ、そりゃありえんやろ~」

「だって 縛れんし、鞭で打てんし…… あはは」


これまた、おおげさな 彼独特の否定のしかたでした。

そして幸いだったのは鈴木がニッコリと笑顔で返してきたことでした。

それもそのはずですよね…… 

私がまじめに提案をしてきたとは、思っていないはずですから。


こんなジョークめいた私の提案に、鈴木もジョークで返してきたことで、

どんよりと曇りかけた二人の会話が、一気に活性化したのです。

(少なくとも私はそう思っていました。)


同時に、私が最初に提案していた、鈴木の気晴らしや気分転換のために

”女性と過ごす時間” が、どういうわけか?

”自分の妻(幸美)を他の男(鈴木)に” という形に変わったことが面白くもあり、

また 恥ずかしながら私自身の忘れかけていた欲望を大いに刺激する方向に転換してきたのです。


もちろん、さきほどの鈴木の反応からすると、私の提案が実現するとは

思ってもいません。

それでも、もしも、実現したとして幸美と鈴木が二人でデートをしたら、と思うと、

私は態度には出さないものの、どこかゾクゾクとした気分になっていたのは確かでした。


「しょんべん、行ってくるわ」と幾分か明るい表情で席を立った鈴木。


彼を見送りながら、私は、しばらくは この話題を続けてみたい、

と思ってしまったのです。


鈴木が戻ってきた時、案の定、彼の口からは全く違う話題が出たのです。


「今度、久々に温泉巡りたいなー…… ヤマちゃん おすすめ、ない?」


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