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03. 鈴木への提案

亡妻の辛さはあるとしても、平日は副社長という立場で忙しい日々を送り、

本来はリフレッシュをはかるための休日は、ゴルフの誘いに付き合ったり、

自己管理としてフィットネスジムあたりに通うなど、

私は これまでの鈴木との長い付き合いから、てっきり彼はメリハリのある

「華の独身生活」を送っているのかと思っていました。


聞けば、彼の休日は とりあえず近所を思いつきで散歩をしたり、

競馬、パチンコ、昼寝、昼から酒を飲んだり、時には風俗遊びをしたりして、

いわゆる不摂生なダラダラと時間を過ごしているよ、と。


海外で勤務をしていた時の鈴木は、多忙な日々を過ごすことで、

ある意味 彼の心は保たれていたと。

しかし帰国後に直面した見慣れた景色と静かな日常が、再び 香澄さんの不在を

リアルにさせてしまい、かつて一緒に暮らしていた家の空気、風景、街並み、

季節の匂い、すべてが「香澄さんとの日常」を呼び起こしていたのでした。


海外では封印できていた記憶が、帰国によって再び掘り起こされたことで、

彼はますます寂しさが募り、気分までもが低下してしまい、

かなり落ち込み気味になっている、ということでした。


だから私は、鈴木が抱えている寂しさや空虚感を何とか紛らわせてやりたくて

「気晴らし」や「気分転換」を提案することで、彼の心を軽くしてあげたい、

と思ったのです。


「お前の仕事はハードや、休みの日くらいは、しっかりリラックスするのも

 大事やぞ!」

「気軽に誘えるような女、誰か 宛てはないんか? お前くらい偉い人なら、

 なんとかなるやろ?」


立て続けに私が、あえて軽いトーンで 気晴らしや気分転換に「女性」を

提案したのは、今は亡き香澄さんの姿にいつまでも縛られているのは良くない、

と思ったからです。


今、振り返れば、私も単純すぎますね。

鈴木にしてみれば、おせっかいな友人だったのかもしれません。


「あはは、女か…… いやいや、もうそんな歳でもないやろ……」


鈴木は、苦笑いを浮かべて、軽すぎる私の提案に、呆れたような、

話に付き合うのが疲れたかのような、「ほっといてくれ」とでも言いたげな、

そんなトーンで返してきました。


「おい! 何 言ってるんや、オレらもまだこれからや、時間と金はあるんやし……

 あっ、俺には金 ないけどな」


そう言って私は、3杯目のレモンチューハイをグイグイ飲みながら、

鈴木を煽っていました。


アルコールの勢いもあってか、なぜかこの話題を続けたくなっていたのです。


いや、それだけではなく、ED気味の自分自身に対しても、

「まだまだ、これからや」と気持ちを奮い立たせたかったのかもしれません。


続けて私は、


「会社の女の子とか、お前のポジションやったら、なんとかなるんやろ?」


「いや、無理無理。 今、それ やっちゃうと人生そのものが 吹っ飛ぶで」


鈴木は、「4杯目はハイボールがええな」と言いながら、

注文用のタブレットに視線を落とし、指で操作しながらの返事でした。


たしかに今の時代、会社の女性を誘う、いや 女性に声を掛けることすら

難しい時代、ハラスメント時代ですよね。 

副社長という立場の鈴木だと、なおさらでしょう。


「そやな、飲み屋の女の子や風俗の子もリスクあるし、面倒やしな……

 ほかに宛て ないんか?」

 

たこわさを摘まみながら私が聞けば、


「海外勤務のブランクあるしな、宛てなんてないで。 

 まぁ、しゃーない、これも人生や、簡単にはいかんよ」 


鈴木が諦め口調で返してきた言葉から、

私は(彼はやっぱり ”奥さん” のこと 忘れられないんだな)と思いました。


(奥さんか…… 奥さんな…… 奥さん?)


ふと、頭の中にひらめいたことを、私は何も考えることなく、

ごく自然に口に出してしまったのです。


「誰も宛てがないなら…… そうやなー、じゃぁ とりあえず……」


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