20. 4本の肩紐
私は2Fに駆け上がってベランダ干している洗濯物を、せっせと部屋干しのため空いている息子の部屋に移しました。
その時に昨夜見た幸美のデカパン、シンプルな安っぽいブラジャーも目にすることになったのです。
妻も50代、歳も歳なので……
いいえ、せめてもう少しだけでも、オンナを感じさせてくれよ!
たまに手伝いで洗濯物を取り込むときも、私はそこまでは思うことはなかったのですが、その日はなぜか違っていたのです。
ふと、(そういえば、以前、プレゼントしたことのあるスリップは?)
取り憑かれたと言うと大袈裟ですが、昨夜から私の頭の中に、時々顔を出すデカパン による、小さな衝撃が、妻の寝室にある箪笥の引き出しを開けさせたのでした。
あ!! 断っておきますが、私は女性の下着に対して、収集癖や女装癖があるわけではなく、世間で言われるような下着マニアやフェチではない、とは思っています。(あくまでも自認ですが;)
しかし妻 幸美の大ファンであることからの、「彼女の」洋服や下着、ストッキング、靴、メイクやアクセサリーなどで、彼女自身が綺麗に変身して私を驚かせてほしい、他の男性から見られてほしい、という強い願望は、実はずっと持ち続けていたのです。
こういうのは妻フェチ、幸美フェチになるのでしょうか?
30年近くも前、結婚前の交際時代、百貨店で勤務していた頃の平凡でも清楚なスーツ姿、スカートとパンプスを履いたOL幸美。
思えばこの頃の幸美のイメージがピークのような気がします。
それと実際には見たことのないスナックを手伝っていた頃のおそらくホステス風な幸美、一瞬の写真でしか見たことのない、年下の元カレ君と付き合っていたころの
少しダーティでハイソな雰囲気の幸美……
せっかくいろいろな変身の「実績」があるにもかかわらず、年齢ばかりを重ねて、いまや50代のパートのオバサンに定着し微動だにしないのは、私だけではなく幸美自身も絶対に人生 損をしている気がしていたのでした。
そこで、当時から5・6年 もう少し前?に、バレンタインデーのお返し名目で、ホワイトデー当日に思い切って中年男一人が、女性用下着の専門店に、閉店間際を狙って駆け込み 購入をした、薄いピンクのスリップ。
胸まわりと膝丈の裾と背中部分にゴージャスなレースの花柄の刺繍があって、幸美が華やかに着こなしている姿、そしてブラウスの背中から薄っすらと透ける4本の肩紐とレースの模様を私は妄想したものでした。
同年代かと思われる美人の女性店員さんに「ホワイトデーに下着のお返しだなんて、素敵な旦那様ですね」とニッコリ煽てられ、気がつけば同じデザインのショーツまで購入していました。
(まさか、あんな薄い衣類が〇万円!驚きました)
そんな思いの詰まったスリップとショーツは、幸美の下着が丁寧に収まっている箪笥の引き出しの一番奥にひっそりと畳まれていました。
正直、残念な気持ちになったのと、まだ捨てずに「ベンチ入り」させてもらっていることに少し安心したのを覚えています。
と同時に、こっそり妻の箪笥を開けて、その中に並ぶ下着を奥まで覗き確認する旦那、
に なっている私の姿……
客観的に、さすがにこれは変態だなと、恥ずかしくなって、急いで「ゆっくりと」引き出しを閉め、こっそりと妻の寝室から出たのでした。
女性が浮気をすればとか、恋をすれば、下着が変わる、と言われますよね……
単純な私は、そうなってほしい、と素直に思いました。
この箪笥のシーンの時に、その言葉も、例の件の動機のひとつになった気がします。
それにしても、箪笥の中には夢が詰まっていますよね!(笑)
すみません、脇道に逸れ過ぎました。
再び、ノートPCを片手にリビングに戻り、寝取られ小説のサイトを覗こうとマウスを触っていた時にスマホが震えました。
鈴木からだったのです。
「もしもし」と電話に出た私への鈴木の第一声はよく覚えています。
「電話、くれたみたいやけど…… どした?」
私だけがそのように感じたのかもしれませんが、この時点で、鈴木のほうが立場が「上」になっている気がしたのです。
「昨日はサンキュー、タクシーまで、ありがとな」
その後は、先ほどのゲリラ豪雨の話題などを軽く交わしました。
その間、私から例の話を切り出すのは難しいと思い、咄嗟に全力で話題を探していたのです。
ちょうどPCも立ち上がっていたのもあって、スピーカー通話に切り替えて、鈴木に振ったのは、昨夜も彼と話していた温泉の話題でした。
「あ、昨日、言ってたやん、温泉行こ、って……」
こちらはPCで温泉の情報を取りながら話をしているので、鈴木の様子を探りながら
滑らかに話を繰り出せます。
それでも7-8分くらい、温泉トークをしていると、少しずつ数秒の間が広がってきたのです。
(そろそろかな?)
「○○温泉も泉質が良さそうやな、距離も手頃やし……」と私。
「たしかにそうやなー いいかもなー」
「そやろー カミさんと行ってくれば えーやん?」と私。
鈴木も待っていたのでしょうか、広がった会話の間がないままに、
「あ、そのことなんやけど……」と返してきたのです。




