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02. 鈴木俊之という男

もう少しだけ、私の親友である鈴木のことについて紹介をさせてください。


彼と私は同期入社です。

しかも入社前、就職活動の採用面接を受けている頃に知り合ってからの仲です。


二人とも温泉好きとあって、時には「秘湯」を求め、秘境まで足を伸ばしたり、

結婚後も予定を合わせ、温泉巡りはもちろん、山歩きや史跡巡りも数知れず。

またお互いの家に行っての「宅飲み」や、今回のように外食を共にすることも。

もちろん家族ぐるみでの交流もありました。


現在でも私たち二人の仲は継続していることで、

おそらく今後もこの関係は続くものと思われます。


鈴木と香澄さんの間に子供さんがいないこともあったのか、

奥さんがご在命中は、夫婦で哲学的・文学的・文化的・学術的な考えのもと、

BDSMに真摯に取り組んでいました。


このことは親友である私にだけ話をしてくれたことですが、

彼の思い入れは大変深く、伝統的な権威のある人間文化として語り始めると、

思わずこちらが引き込まれるくらいの熱量がありました。

そこには低俗で暴力的で野蛮な 巷にあふれているようなSMとは全く違う、

ある種の学問とか 文化・芸術にも通じている性嗜好であることが、

素人の私でもなんとなくわかるくらいにまで、伝わってきたのでした。

もちろん、私からは他言はしていません。


年収は1000万円くらいと教えてくれた鈴木ですが、

当時も今も、高級タワーマンション上層階で一人暮らしをしています。

(ちなみに私は郊外の分譲地「ニュータウン」に建売の一軒家ですが)

 

彼の性格は明るくて、そしてユーモアがあり、よく人を笑わせるギャグを

飛ばしまくっています。

天真爛漫で無邪気で無頓着なところもありますが、人間味、人情味もある

本当に良い奴です。


そしてなによりも、彼は努力を惜しまずに一生懸命に仕事をこなす男で、

上役からはもちろん部下からの評価も高く信頼も厚い、と聞いています。


若干小太り体形ですが身長は172㎝、私にしてみればとても羨ましい背丈です。

外見は、昔は私と同じで、「無頓着」でした。

今は、立場上、特に外見はしっかりとしたコーディネートを意識している、

というか、意識しないといけないと、本人は話していました。


当時の彼の自家用車はアウディのクーペ最上級グレード(今はベンツ)、

そして趣味は、山歩き、史跡巡りやグルメ、ウォーキング。


いかがでしょうか? 

みなさん 私の親友、鈴木をイメージしていただけましたか?


4年ぶりになる鈴木との居酒屋でのひと時は、本当に盛り上がりました。


彼も久しぶりのこの場が楽しくて、そして嬉しくて気分がノッテきたのか、

とても饒舌で今回ばかりは私は ほぼ聞き役に徹していました。


・こういった場ですから仕事の話はトラブル系エピソードが主になりますが、

 ほかにコミカルな話や、逆にシビアな話など。


・出向先の欧州での生活や休日にひとり旅をした名所や史跡のこと、

そしてBDSMに所縁のある現地の古城や洋館も訪問したこと。


・和洋かかわりなく、私たちの好きなお酒に関してのウンチク


・老後、年金、退職後のこと


・そして定番の昔話や ほかの同期社員の話題 など


時が経つのも忘れて話に夢中になると、その心地良さから酒もすすみ、

おなかが満たされます。


それでも、盛り上がりが大きければ、その反動が出始めて、

トークのペースもスローダウンするのは、みなさんもご一緒だと思います。

それぞれがお手洗いに立ち始めるタイミングになると更にそうなりますよね。


私が席に戻ると、先ほどの勢いはどこかに行ってしまったかのように、

鈴木の表情が どこか寂しそうな感じに見えたのです。


「なんや? シケた顔して…… まだ飲み足りんのか?」と私。


「いや、やっぱ 帰国すると、慣れ親しんだ場所やし 寂しい気持ちになるな」


鈴木がグラスを手に取り、少し目を伏せながら言ったのです。


彼が何を言わんとしているのか、私は察していました。


このあたりから、先ほどの再会を祝したかのような賑やかな雰囲気から一転して、

鈴木は5年前同様に、奥さんを亡くしたことについて、

寂しい・辛い・面白くない・張りがない、と親友だから話、本音や弱みをみせて、

時に彼は涙をこぼしながら語り始めたのでした。


「とにかく生き甲斐がないんや、もうオレは人生が終わってるんよ」


そう言って、寂しげな笑顔を浮かべ、まるで自虐する鈴木に、


「何、言ってるんや、お前は金もあるし、仕事だって順調やろ? 

 オレから見れば羨ましすぎるし、贅沢な悩みやな」


私は彼を慰める話題を探しながら、自分の現実を振り返っていました。

実際、我が家の住宅ローンの残りはあと3年。

リフォームとか外壁塗装もそろそろ考えないといけない状況で、

まだまだお金が必要なのは事実です。

そういえば、子供たちの結婚費用あたりも少なからず必要です。


そのことを鈴木に伝えると、


「いやいや、ヤマには、家庭がある、家族もある、奥さんもいてるし、

 それで十分やろ」


たしかに鈴木が言う通りです。返す言葉が見つかりません。

このまま続けると鈴木の寂しい気持ちが拭えないと思った私は、

話題を変えました。


「お前も、たまには、誰かどっかの女の子でも誘って、映画やドライブとか、

 楽しいひと時を過ごすとかして、気分転換してみたらどうや?」


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