15. ついに……
私が言葉を発した後、リビングが沈黙しました。 シーンと無音になったのです。
実際は(いち・に・さん)3秒程度だったと思うのですが、
私にとっては、とても長い「間」に思えました。
居た堪れなくなった私が幸美からの返事を促そうと幸美の顔を見ると、
同時に彼女も私に向いたので、目が合いました。
「?…… え? 私? デート? 私が?」
幸美は、まだ私の言ったことが理解できていないのか、
キョトンとした表情と声でした。
「うん、カアサンが鈴木と…… あいつに気晴らしとか気分転換をさせたいんやけど……」
「……」
幸美の少し表情が曇った? そんな気がしました。
「半日で良いし、鈴木とデート…… まぁ、デートごっこ…… してやってくれんかな?」
私は、切実に訴えるような 重そうなトーンで続けました。
「あいつ、このままやと精神的に病んでしまうかもしれんし……」
「絶対、危ないで……」
まず私は、今 病んでいる鈴木を助ける方法として、これが最良の解決策なんだ、と 冷静に そして一生懸命にその提案を伝えたつもりでした。
もちろん、私自身の深層的な欲望(「寝取られ」による刺激)は隠し通しながら。
幸美は、突然 私からこのような話を受けて、驚きや戸惑いを隠せない感じでした。
この後 幸美とは、皆さんが想像されている通りの問答になりました。
「なんで 私が、そんなことをしないといけない?」
「そんなことで鈴木さんが解決するとは思えないよ、絶対に」
「そもそも そんな話とか、ありえないし」
私がいくら 親友の鈴木のために、と言ってもダメでした。
やはり彼女としては、いくらなんでも 二人きりでデートすることは到底納得できなかったのでしょう。
まぁ普通に考えるとそうですよね……。
いつもの私だったら、幸美の機嫌を損ねてしまったことから、幕引きへと向かうのですが、どういうわけなのか、その時の頭の中は成人サイトの中にある「寝取られ系」チャットルームの、数々の待機メッセージが浮かんでいたのです。
そしてもうひとつ、実はその時に 私は別のことを頭の中で思っていました。
このテの会話はテレビドラマの世界でありそうだな、と。
でも実際に自分が会話をしていると、まったく周りの音がしなくて、むしろシーンという音だけが聞こえる無音の中で、感情的な声だけが響いているような現実でした。
今思うと、意外にも私は冷静だったのです。




