13. 悲劇の男、鈴木
「そういえば 鈴木さん、元気だった? 久しぶりだったんでしょ? 今日……」
「そうや 飲みに行ったのは、4年ぶり…… 久しぶりやったよ」
間髪入れずに答えた私でした。
幸美は、鈴木の奥さん(香澄さん)のご葬儀にも参列しており、それ以前も「宅飲み」の時には顔を合わせていました。
だから鈴木のことを、まったく知らないわけでもなく、私の無二の親友であることも 当然知っています。
彼のヨーロッパでの仕事のこと、副社長になったこと、アウディに乗っていることなど、私は居酒屋で鈴木と交わした 当たり障りのない話を、幸美に丁寧に伝えました。
「ふーん…… あっ、鈴木さんって、もう立ち直ってた?」
彼女も、5年前に奥さんを亡くしたことで落ち込んでいた鈴木のことは覚えていました。
飛んで火に入る とはまさにこのことで、幸美からの絶妙のスルーパスに、私は一気に上がるテンションを制御するように意識しながら、ゆっくりと返しました。
「いや、まだまだ、ぜんぜん あかん…… めっちゃ 寂しそうやったで……」
私は続けて、鈴木は休日もダラダラと過ごしていることや、帰国して余計に寂しさが増したこと、そしてそれらを語りながら、彼は涙まで流していたことなど……。
とにかく 盛りに盛った事実で鈴木を悲劇の男に仕立て上げました。
そして、その勢いに乗って、私はついに一声を発しました。
「あいつには、気晴らしとか気分転換が、絶対に必要なんよ…… そう思わん?」
「うーん、まぁ…… そうかもしれないよねー」




