村山愛―1
野村雄こと「彼」は、過去にヴェルダン要塞攻防戦で自分が戦死せずに自分が生き延びていた世界に赴いて、人生をやり直す事態が起きていました。
とはいえ、その世界は、邯鄲の夢ではありませんが、基本的に一夜の夢の世界です。
そうしたことから、野村雄を巡る4人の女性は、その間に色々と考える事態が起きました。
まずは、村山キクこと村山愛と岸忠子こと岸澪の話になります。
本当にこいつは。
そんなことを、村山愛は考えてしまっていた。
尚、こいつ呼ばわりされた相手は、村山愛に、そう考えられているとは想ってもいないようで。
「ヴェルダンのあの宿で、もし、彼、野村雄が長命した世界に行けたら、私の良さが分かると想うの」
そう無邪気に相手、岸澪は自分に言っていた。
本当に都合の良い考えだ。
更に言えば、私の娘にして曾祖母といえる村山幸恵が、岸澪の曽祖父の岸総司を異母弟として大事にし続けたのが、曾孫の岸澪にまでも結果的にだが影響を及ぼしたのではないか、と私が内心で想う程、私を頼りにしてくる。
まあ、この場に居る他の二人、土方鈴も、ジャンヌ・ダヴ―も、岸澪にしてみれば完全に宿敵だ。
だから、結果的というか、消去法的に、私しか話し合える相手がいないのだろう。
とはいえ、岸澪の楽観論に、そう自分は付き合えない。
ある程度は現実を直視して貰わない、と後々で自分は困ることになりかねないからだ。
だから、敢えてキツイことを、私は岸澪に言い放った。
「あの異世界のリスクを、本当に分かっているの。あの異世界に彼が心から満足してしまったら、私達の下に還ってこない可能性があるのよ。それが分かっていて、彼を行かせたの」
「分かっていない訳では無いわ。でも、きっと彼は私の良さが分かって、私の下に還ってくる筈よ」
私のキツイ言葉に、岸澪は言い返してきた。
ダメだこりゃ。
私は脱力する想いが浮かんで、そんな言葉が更に浮んで来た。
林忠崇侯爵が、私にしか真相を話さなかったのも、当然の気がしてきた。
それにしても、あの異世界では元は芸妓で、正妻でもない筈の私が何で、彼、野村雄が日本に残した全ての子の母、嫡母扱いされる事態になってしまったのだろう。
私が長姉、村山幸恵の曾孫というのもあるのだろうが。
それ以外にも何かあるのでは、と想わず勘繰りたくなってしまう。
考えてみたら、私の最初の人生でも、それに近い事態が起きた。
林侯爵の完全なお節介、だが、私もそれに賛同せざるを得なかった。
私の娘、幸恵を、明言はしなかったが、それとなく土方千恵子や岸総司の異母姉だと、3人の姉弟に対して林侯爵は示唆したのだ。
何故に明言せず、更に示唆するようなことをしたのか。
それは岸忠子も篠田りつも、私の娘の幸恵が、野村雄の遺児だと認める訳が無いからだ。
幸恵は長姉で、野村雄と岸忠子が正式に結納を交わす前に、私は身籠った。
更に言えば、篠田りつにしても、正式に結納等を交わした訳ではなく、周囲が事実上の婚約関係にあると見ていただけだったのだ。
だから、独身時代の子と言え、尚更に二人にとって幸恵は腹立たしい存在になる。
その一方、あの当時は第二次世界大戦が始まったばかりで、岸総司は戦場に赴こうとしていた。
だから、万が一の岸総司の戦死に備えて、3人が異母姉弟だと林侯爵は示唆したのだ。
幸恵が千恵子と共に、総司を悼むことができるように。
そして、幸いなことに総司は五体満足で還って来た。
更に総司がアラン・ダヴ―と一緒に写った写真を、幸恵に送ってきたことから。
幸恵は、アランに自分達姉弟と似たモノを感じ、私にその写真を見せたのだ。
そして、写真を見た私は一驚した。
どう見ても、野村雄が髪を染めて目の色を変えた姿にしか、アランは見えなかったのだ。
私は幸恵に、アランは異母弟らしいことを話して、千恵子や総司には秘密にするように言った。
幸恵も下手に二人に話しては、岸忠子や篠田りつに伝わり、大騒動になりかねないのが分かっている。
だから、この件は私達母娘だけの秘密になった。
更にアランと総司が知り合った経緯から、土方勇志伯爵等もこの秘密を知っている、と私は推測したのだ。
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