エンディング:作者に伝えたい思い、そして…
(舞台は静かに明転。中央には書斎風のセット。羽ペンとインク壺、少しくたびれた原稿用紙。
シェイクスピアが椅子に座っている。机の上には、演じ終えたキャラクターたちの名札が並んでいる)
(そこに、あすかが穏やかな笑顔で登場)
あすか(少し息を整えながら)
「……お疲れさまでした、シェイクスピアさん。
今日は本当に、いろんな方から、いろんな“思い”をぶつけられていましたね。」
シェイクスピア(苦笑しながら)
「いやはや……まさか自分が“登場人物たちに糾弾される夜”を経験するとは。
作家とは、時に“創造の親”であり、“罪深い神”でもあるということを痛感しました。」
あすか(くすっと)
「でも皆さん、最後はあなたの言葉に納得して、
それぞれの舞台に戻っていきました。
“作者に伝えたい思い”を、ちゃんと受け止めた証拠ですよ。」
シェイクスピア(感慨深く)
「ハムレットの苦悩も、ジュリエットとオフィーリアの涙も、
シャイロックの怒りも、フォルスタッフの嘆きも、カエサルの矜持も……
全部、私の中にある“人間”そのものだった。
それを彼ら自身に語らせたことで、初めて私自身も理解できた気がします。」
あすか(椅子を引いて、向かいに座りながら)
「どうして、こんなにも“人間の心”を深く描けたんですか?
たとえ自分が責められることになっても、書かずにはいられなかった?」
シェイクスピア(静かに頷いて)
「ええ。
私は、何者かの代弁者だったのだと思います。
笑う者、泣く者、怒る者、裏切る者、許す者――
そのすべてを、劇という“鏡”に映したかった。」
あすか(しんみりと)
「……それでも、きっとつらいときもあったでしょう。
物語の中で、人を死なせたり、悲しませたりするのは。」
シェイクスピア(少し視線を落とし、微笑して)
「ええ。
特に“描かれた者たち”が、後になってこうして私に苦情を言いに来ると、ね。」
(観客、笑い)
あすか
「でもきっと、それだけ彼らが“生きていた”ってことですね。
物語が終わっても、彼らの声は消えない。
それって、すごく素敵なことだと思います。」
シェイクスピア(にっこりと)
「ありがとうございます、あすかさん。
そして……ありがとう、私の登場人物たち。
君たちは、私の想像を超えて生きていた。
それは、何よりの誇りです。」
(舞台奥から、ハムレット、ジュリエット、オフィーリア、シャイロック、フォルスタッフ、カエサルたちがゆっくりと登場。
皆、どこか微笑を浮かべて、静かに舞台中央に集まる)
(観客、万雷の拍手)
あすか(立ち上がって)
「それでは最後に、皆さんと一緒にお別れの挨拶を。
どうか忘れないでください。
物語の中で語られた声は、いつか必ず誰かの心に届くということを。
それがたとえ、作者にぶつける“苦情”であっても――」
シェイクスピア(満面の笑みで)
「――それは、最高の“賛辞”なのですから。」
全員(舞台中央に並んで)
「ありがとうございました――!」
(カーテンコール。照明がゆっくりと落ち、音楽とともに暗転)
【FIN】