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ラウンド5:ユリウス・カエサル vs シェイクスピア

描かれた英雄、語られぬ真実


(舞台がゆっくりと明転。奥にはローマ風の円柱、黄金に輝く月桂冠のレリーフ。

 その中央に立つ男――ユリウス・カエサル。姿勢は優雅で堂々、顔には冷静な怒りと誇りをたたえている)


あすか(緊張を含んだ声で登場)

「さて――物語はいよいよ最終章へ。

 登場するのは、今回ただひとりの“実在した歴史人物”。

 シェイクスピア作品において、あまりにも劇的に、そして……ある意味“都合よく”描かれた男。」


(観客がざわめく)


あすか

「ご紹介しましょう。

 共和政末期ローマ、かつて“最も人に恐れられ、愛された英雄”――ユリウス・カエサル!」


(カエサル、堂々と一礼。観客から拍手とざわめき)


カエサル(低く、よく通る声で)

「ありがたい歓迎だ。

 だが私は、祝福のためではなく、抗議のためにここに来た。」


(観客、静まり返る)


(舞台袖からシェイクスピアが登場。やや緊張の面持ちで、カエサルの前に立つ)


シェイクスピア(やや頭を下げて)

「カエサル殿、まさかお会いできるとは……光栄に思います。

 ご気分を害されたなら、まずはお詫びを。」


カエサル(一歩前に出て)

「詫びるべきは“私の描かれ方”だ。

 なぜ、私はあなたの劇で“ただの傲慢な独裁者”にされた?」


シェイクスピア(静かに)

「……それは、“物語”として最も観客の心を揺さぶる構造だったからです。

 あなたの“死”を中心に据え、正義と裏切りのドラマを構築するには――」


カエサル(遮って)

「“Et tu, Brute?”――そしてお前もか、ブルータス。

 私はこの台詞で永遠に殺され続けている!

 それは名台詞かもしれない。だが、真実か?」


シェイクスピア(まっすぐに見つめて)

「……あの言葉は、“裏切られる者の絶望”を象徴する一文となりました。

 史実かどうかではなく、人の心に“裏切りとは何か”を刻みたかった。」


カエサル(表情を変えず)

「ならば聞こう――私の功績、ローマの政治改革、市民権の拡大、軍制の刷新、

 なぜ劇中では一言も語られなかった?

 私は“暴君”として殺された、という演出だけが残った。」


シェイクスピア(言葉を選びながら)

「あなたの人生はあまりに偉大で、あまりに多層的だった。

 私は“英雄が悲劇的に死ぬ瞬間”に焦点を当てることで、

 “権力とは何か、正義とは何か”を問う構成を選んだのです。

 それは……“あなた”そのものではなく、“あなたの象徴性”を使わせていただいた。」


カエサル(少し間を置き、重く)

「つまり……私は、“都合のいい神格”として捧げられたのか。

 生き様ではなく、“死に様”だけで語られた存在として。」


シェイクスピア(申し訳なさそうに)

「……はい。

 あなたは、演劇史上で最も“誤解された英雄”かもしれません。

 でも同時に、最も強く、深く記憶されている。

 それほどの“存在”なのです、あなたは。」


(カエサル、目を閉じて静かに息を吐く)


カエサル(ゆっくりと開眼し)

「……なるほど。

 ならば、私にも答えを出す権利があるだろう。」


(一歩、前へ)


カエサル

「私は、ローマのために生きた。

 そして、“恐れられるより愛される”道を選んだ。

 だが、お前の劇では――私は民に恐れられ、

 元老院に刺される“運命の男”にされた。」


シェイクスピア(静かに)

「……その悲劇性こそが、観客の胸を打つのです。

 あなたが死ぬからこそ、ブルータスが苦しみ、

 観る者は“正義とは何か”に苦悩する。

 あなたの死は、永遠に“問い”を残した。」


(しばしの沈黙。やがて、カエサルがゆっくりと口元をゆるめる)


カエサル

「……ならば、せめてこう言ってくれ。

 “カエサルは死んだが、彼の問いは生きている”と。」


シェイクスピア(深く頷いて)

「カエサルは死んだが、彼の問いは生きている。

 ――それが、私の舞台であなたを描いた本当の理由です。」


(カエサルはしばらくシェイクスピアを見つめ、ゆっくりと手を差し出す。シェイクスピアもその手を取る)


カエサル

「……よかろう。ならば、あなたの“作家としての勇気”に敬意を。

 私の名を、誤解のままにせず、物語として昇華させたのだから。」


(観客、大きな拍手)


あすか(感動気味に登場)

「“描かれた英雄”と“描いた作家”の、

 魂と魂のぶつかり合い――

 それは、史実を超えて人間そのものを浮かび上がらせる瞬間でした。」


あすか(笑顔で)

「さあ、物語はいよいよフィナーレへ――

 シェイクスピアと、あすかによるエンディング・トークへと続きます!」


(暗転)

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