幕間:控室トーク2
酒と誇りとすれ違いの夜に
(舞台は再び控室セット。ソファやテーブル、飲み物の入った冷蔵庫などが置かれている。
ソファにはひとり、静かに座っている男――シャイロック。背筋を伸ばしているが、どこか寂しげな目をしている)
(そこへ、陽気な笑い声と共に、フォルスタッフが登場。手にはビールの大瓶2本)
フォルスタッフ(大声で)
「おう、シャイロック!舞台、おつかれさん!
……おいおい、なんだその顔は。まるで誰かに財産取られたみたいな顔してるぞ?」
シャイロック(ジロリと睨んで)
「……実際、取られかけたことがある。」
フォルスタッフ(瓶を片手に座り込んで)
「おっと、失言だったな。
でもな、今日ぐらいは細けぇこと忘れて、ほら――ビールだ。遠慮すんなよ。」
シャイロック(ピシャリと)
「私は飲まない。酩酊を禁止する宗教に改宗させられたものでね。」
フォルスタッフ(すかさず瓶を開けて差し出しながら)
「いいから、こういうときは飲むもんなんだよ!
“善人の振り”してる役者より、酒飲んで本音言える悪役の方がよっぽど信用できるぜ!」
(シャイロック、少し口元を動かしながら――結局、ビールを受け取って一口)
シャイロック(苦笑して)
「……味は、悪くない。」
フォルスタッフ(にやり)
「だろ?こうして飲みゃあ、世界も少しはマシに見えるもんさ。」
(ふたりでカン、と軽く乾杯)
(しばらくして、フォルスタッフはふらふらと立ち上がり、入口の方を見やる)
フォルスタッフ(ニヤリとして)
「おっと、あそこにいるのは……おーい!ジュリエットちゃん!オフィーリアちゃん!
よかったら一緒にどうだい?ビールはたっぷりあるぞ〜!」
(ステージ奥から、オフィーリアとジュリエットが顔を出す。少し戸惑った様子)
オフィーリア(控えめに)
「え、あの……私たち、お酒は……」
ジュリエット(目を細めて)
「フォルスタッフさん、ちょっと酔ってるんじゃない?」
フォルスタッフ(大声)
「ちょっとじゃない!いっぱい酔ってる!
だからこそ、君たちと語り明かしたいんだよ〜、人生とか愛とか、なんかそういうやつを!」
シャイロック(赤くなった顔で小さく)
「私は……止めようとした。」
(そのとき、奥からロミオとハムレットが登場。2人は彼女たちの前にスッと立ちふさがる)
ロミオ(真顔で)
「君たちに近づかないでいただこうか、酔っ払い紳士たち。」
ハムレット(腕組みしながら)
「今、私たちは“許される男”になろうとしているんだ。
ここで君たちが笑わせに来ると、空気が壊れる。」
ジュリエット(くすっと笑いながら)
「ありがとう、ロミオ。さっきは……ちょっと怒りすぎたかも。」
オフィーリア(ハムレットを見上げて)
「……あなたなりに、いろいろ考えてくれてたんですね。」
ロミオ(真剣な顔で)
「君のことを思っていた。
その気持ちが、伝わらなかったのなら……努力するよ、次は。」
ハムレット(照れくさそうに目を逸らして)
「私の言葉はいつもまわりくどい。
だが……愛していた。それだけは……本当だ。」
(オフィーリアとジュリエットがそれぞれに笑みを浮かべ、2人の手を取る)
ジュリエット
「……まったく、しょうがないなあ。愛してるよ、ロミオ。」
オフィーリア
「ありがとう、ハムレット。あなたらしくて……嬉しい。」
(2組のカップルが控室を去っていく。舞台には酔いが回った2人だけが残される)
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フォルスタッフ(うつろな目で)
「……こういう時、俺たちは“笑わせる係”なんだなあ。」
シャイロック(グラスを見つめながら)
「滑稽でも、必要とされるなら――
それが我らの、定めか。」
フォルスタッフ(グラスを掲げて)
「“本命にはなれないけど、物語を回すタイプ”に乾杯!」
シャイロック(同じく掲げて)
「……乾杯。」
(2人、カンと音を響かせる)