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ラウンド3:シャイロック vs シェイクスピア

正義と差別の狭間で生きた男の叫び


(暗転。次第に音楽が低く鳴り響く。ステージが明転すると、法廷のような荘厳なセットが浮かび上がる。中央に立つ男――シャイロック。威厳と哀しみをまとった眼差しで、客席を見つめている)


---


あすか(静かに登場)

「第3ラウンドは、

 差別と偏見にさらされ、それでも誇りと信念を持ち続けた男の登場です。」


(観客、やや張り詰めた空気の中で拍手)


あすか

「『ヴェニスの商人』より――ユダヤ人の高利貸し、シャイロック!」


シャイロック(低く、ゆっくりと)

「……“高利貸し”という言葉、軽く使ってもらっては困る。

 それは私の職ではなく、私への烙印だ。」


あすか(ハッとし、ぺこりと頭を下げる)

「……失礼いたしました。」


(舞台袖からシェイクスピアが登場。いつものように朗らかに見えるが、シャイロックの眼差しに思わず足を止める)


シャイロック(鋭く)

「シェイクスピア。

 私があなたに言いたいのは、たった一つ――

 “なぜ、私だけが奪われねばならなかったのか。”」


シェイクスピア(静かに)

「……話を聞こう、シャイロック。」


シャイロック(一歩前に出て)

「私は契約を結んだ。言葉通りの条件で。

 なのに、法廷では“慈悲”という言葉で私の正当な権利が踏みにじられた。

 さらに罰金、改宗、財産没収――

 私に残されたのは、恥と屈辱だけだ!」


シェイクスピア(口を開きかけて、言葉を探すように)

「……君は確かに、正論を持っていた。

 そして、法の網の目すらすり抜けるほどの知性も。

 でも、君の“復讐”は……どこかで、愛を見失っていた。」


シャイロック(怒りを抑えた声で)

「“愛”だと?

 私の娘は、私の背を向いて逃げた。

 法廷は、私の“人間としての声”すら無視した。

 お前は観客に笑わせた、“私は滑稽な敵役”として。

 だがな……」


(じっとシェイクスピアを見つめて)


シャイロック

「“ユダヤ人にも目があり、手があり、心がある”と語らせたのは、あなただ。

 その台詞が、どれだけの痛みと誇りから生まれたか、わかっていたのか?」


(観客、静まり返る)


シェイクスピア(深く頷いて)

「……あの言葉こそ、君の魂そのものだ。

 だから私は、あえて君に語らせた。

 “ユダヤ人もまた人間だ”と、観客の胸に刻ませたかった。」


シャイロック(ゆっくりと)

「だが結末は、“敗者”として描かれた。

 私は“憎しみ”を抱くことすら許されなかった。

 それが、“慈悲”という名の正義か?」


シェイクスピア(しっかりとシャイロックを見据えて)

「君の姿は、勝者にも敗者にも映る。

 それは観客自身の心が決めるんだ。

 私は“偏見”を描いたが、“偏見に染まった視点”で描いたつもりはない。

 君を通して、人間の哀しみと誇りの両方を、浮き彫りにしたかった。」


(沈黙。シャイロックはゆっくりと息を吐き、遠くを見る)


シャイロック

「……なるほど。

 お前は私を“敵”ではなく、“鏡”にしたのか。

 観客に、己の良心と対話させるために。」


シェイクスピア(穏やかに)

「君の声が響けば、誰かの心が揺れる。

 それが演劇という舞台で、最も強く、最も人間的な力なんだよ。」


(シャイロックは一歩下がり、ゆっくりと頭を下げる)


シャイロック

「ならば、私の誇りは無駄ではなかった。

 “一片の肉”ではなく、“一片の真実”を持って生きたこと。

 それが残れば、よかろう。」


(シャイロック、背を向けて歩き出す。去り際、振り返り――)


シャイロック

「……次は、“ユダヤ人”ではなく、“人間”として描け。

 お前なら、それができるだろう。」


シェイクスピア(そっと目を伏せて)

「ありがとう、シャイロック。君の言葉、胸に刻むよ。」


(観客、しんと静まり返ったあと、ゆっくりと拍手が起こる)


あすか(再登場、静かに)

「今、シャイロックの台詞が、

 400年の時を越えて、私たちに届きました。

 演じる者ではなく、“語る者”として生きた男の言葉――それが、胸を打ちます…

さあ、次のラウンドは……一転して賑やかに!

 飲んで笑って、でも心はちょっと寂しい、

 あの名物おじさんが登場します――ファルスタッフ vs シェイクスピア!」


(暗転)

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