ラウンド1:ハムレット vs シェイクスピア
悩みすぎた王子の反撃
(舞台が暗転。荘厳な音楽と共に、深い霧がステージに立ち込める。スポットライトがゆっくりと一人の青年を照らす――ハムレット。黒衣に身を包み、片手に頭蓋骨を持ち、もう片手を背に回す。)
ハムレット(静かに)
「生きるべきか、死ぬべきか――それが問題……
などと、何百年も繰り返させておいて……
結局私は、死ぬんですよね。」
(観客、クスッと笑い。そこへ軽やかな拍手音とともに、シェイクスピア登場。片手にワイン、笑顔をたたえて。)
シェイクスピア
「ようこそ、親愛なるデンマークの王子。
久しぶりだね、何せ君の悩みの声は、いまだ世界中の舞台から聞こえてくるから。」
ハムレット(皮肉っぽく)
「聞こえるのは“声”ではなく“呻き”でしょう。
父は毒殺、母は裏切り、恋人は狂気に沈み、
親友は裏切り、師も信用できず、最後には刺し殺される――」
(急に早口で)
「で、私が思索し悩みに悩んだ結果が、全員死んで終わる“血の大団円”ですか?!」
シェイクスピア(グラスを置いて)
「“結末”よりも、“過程”がすべてだった。
君は人間の“内なる葛藤”をこれでもかと見せてくれた。
それこそが文学の本質だよ、ハムレット。」
ハムレット(少し語気を強めて)
「文学の本質?
それなら、なぜ私に“決断の権利”を与えなかった?
“生きるべきか死ぬべきか”と問いながら、
私は最後まで何ひとつ“選べなかった”。」
シェイクスピア(指を一本立てて)
「いいや、“選ばなかった”ことが、選んだことと同じくらい雄弁なんだ。
君の迷いこそが、観る者に“問い”を残す。
問いを与える存在、それこそ君の運命だった。」
ハムレット(少し目を細めて)
「問いを与える?なら私が観客の心に残したものは“哲学”ではなく、“絶望”ではないのか?」
シェイクスピア(少し顔を上げて)
「いや、“真実を直視する勇気”だ。
君は“理性”と“情念”、“信念”と“疑念”の間で苦しんだ。
だがそれは、“生きるとはどういうことか”を、観る者に突きつける鏡となった。」
ハムレット(静かに、でも深く)
「だとすれば……私は舞台の上で、ただ“苦しむため”に生まれたのか?」
シェイクスピア(優しく微笑み)
「苦しむことで、他者の魂を揺さぶるために生まれたんだ。
君の“沈黙”すら、観る者に語りかけていた。
君は悲劇の中で、言葉以上のものを残したんだよ。」
ハムレット(少し表情が緩む)
「……なるほど。
“死んでなお、生き続ける存在”――それが私か。」
シェイクスピア(頷いて)
「そう。
君の迷いがある限り、人間はまだ人間でいられる。
そして、“問い”がある限り、芝居は終わらない。」
ハムレット(頭蓋骨を見つめながら)
「ならば、私はそれでいい。
生と死の狭間で揺れるものとして、
“観る者の心”の中で、問いかけ続けよう――」
(静かに、頭蓋骨をそっと舞台の床に置き、一礼)
ハムレット(後ろ姿で)
「それにしても……次は、オフィーリアを頼む。
彼女は……本当に、つらかったから。」
(静かに退場)
あすか(登場、少し目を潤ませながら)
「言葉にならない思いが、あの背中からにじんでいましたね……
――次のラウンドでは、そのオフィーリア、そしてジュリエットが登場します。
愛と若さ、そして運命に翻弄されたふたりのヒロインが、シェイクスピアに問う!
どうぞご期待ください!」
(暗転)