表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

特別トーク:登場できなかった者たちの思い

それでも舞台の外で、生きている


(舞台は落ち着いた書斎セット。あすかがインタビューテーブルに座り、原稿用紙の束を手にしている。

 対面には、紅茶を片手にしたシェイクスピア)



---


あすか(にっこり)

「本編が終わったあとも、続々と“声”が届いています。

 今回は特別に、“出演できなかった登場人物たち”から寄せられた思いを、

 ここで作者ご本人に読んでいただきます!」


シェイクスピア(微笑んで)

「ほう、それはまた……私に対する“第二の裁判”というわけですね。

 喜んで受けましょう。」



---


◆1通目:リア王より


あすか(読み上げ)

「『愛する娘を追い出し、裏切り者に全てを与え、

 最後には嵐の中で狂ってしまうとは……老いとは、こんなにも過酷なものなのですか?』

 ――リア王さんより。」


シェイクスピア(しみじみと)

「リア王……君は王でありながら、父であり、ただの老人だった。

 君の狂気は、真実を知った者だけが辿り着ける痛みだった。

 君の苦しみは、私の中でもっとも深い“人間らしさ”として刻まれているよ。」


---


◆2通目:マクベスより


あすか

「『野心を持っただけで、なぜあんなに地獄を見せるのですか?

 私は予言に従っただけなのに。』

 ――マクベスさんより。」


シェイクスピア(軽く頬に手をやって)

「彼の“ただの野心”が、あそこまで壮絶な悲劇を招くとは、

 書いた私も途中で怖くなったものです。

 でもマクベス……君の物語は、力と欲望と罪の深淵を、

 誰よりも雄弁に物語ってくれた。君は“影の王”だよ。」


---


◆3通目:オセローより


あすか

「『なぜ、彼女の言葉をもう少しだけ信じさせてくれなかったのか。

 私はただ……愛していただけだった。』

 ――オセローさんより。」


シェイクスピア(表情を曇らせて)

「……私も、そう思う時がある。

 もし君がもう一度だけ、彼女の目を見ていたら……と。

 だが嫉妬とは、愛の仮面をかぶった怪物だ。

 君は、その業を体現してしまった。」


---


◆4通目:デズデモーナより


あすか

「『私は嘘をついていませんでした。

 でも、最後まで“愛している”って言いました。

 それで、よかったんでしょうか?』

 ――デズデモーナさんより。」


シェイクスピア(そっと紅茶を置いて)

「よかったよ。

 君の“愛は死の中にあっても揺るがなかった”。

 その強さが、オセローの弱さを際立たせた。

 悲劇だけど……君は、真のヒロインだった。」


---


◆5通目:ロザリンドより


あすか

「『私、男装して森に入って、恋愛指南して、

 最終的に“なんかうまくいった”んですけど……これ、ちゃんと意味あります?』

 ――ロザリンドさんより。」


シェイクスピア(笑いながら)

「あるとも!とてもある!

 君の機知、勇気、柔軟さは、

 私のコメディヒロインの中でも最高傑作だ。

 “恋は森のように複雑”ということを、君はそのまま体現してくれたよ。」


---


◆6通目:リチャード三世より


あすか

「『私をあれほどの悪人にしておいて、

 “犬のように死ぬ”なんて結末はないでしょう?

 しかも、馬!馬って!』

 ――リチャード三世さんより。」


シェイクスピア(肩をすくめて)

「すまない、リチャード。

 君の“悪”はあまりに魅力的で、筆が止まらなかった。

 “馬をくれ”の一言で、君の狂気と絶望が凝縮されたんだ。

 君は……私の中で最も“演じるに値する悪役”だったよ。」


---


◆7通目:ヴァイオラより


あすか

「『男装、入れ替わり、三角関係、

 混乱しっぱなしでしたが……最後に笑えたから、全部OKです!』

 ――ヴァイオラさんより。」


シェイクスピア(ほっとしたように)

「……ありがとう。

 君の物語は、“アイデンティティと愛の錯綜”を

 楽しく、でも真剣に描けた一篇だった。

 君のユーモアと誠実さが、あの作品を救ってくれたんだ。」


---


◆8通目:プロスペローより


あすか

「『私は、あなたの中の“最期の声”だったのでは?

 もしそうなら、私の杖は、あなた自身のものだったのですね。』

 ――プロスペローさんより。」


シェイクスピア(目を細めて)

「……君は、私だよ。

 すべてを創り、そして手放す者。

 君が“劇を終わらせる魔術師”なら、私は“それを書く魔術師”だった。

 最後に君に杖を折らせたのは、私の“舞台への別れ”のつもりだった。

 ありがとう、プロスペロー。」


---


あすか(感動気味に)

「……本当に、どの登場人物も“生きて”いたんですね。」


シェイクスピア(ゆっくりと頷いて)

「彼らは皆、私の“創作”であって、私の“鏡”だった。

 そして同時に、観客たちの心の中にある声でもあったんです。」


あすか(にっこり)

「じゃあ、次にまた“誰かの声”が聞こえたら――

 その時は、あなたがまたペンを握る番かもしれませんね?」


シェイクスピア(ウィンクして)

「……その時は、もう少し穏やかな役を書きましょうかね。

 できれば、文句を言われないような。」


(観客、笑いと拍手)


あすか(満面の笑顔で)

「これにて、特典トークも終了です!

 シェイクスピアさん、そしてすべてのキャラクターたちへ――

 ありがとう。そして、またいつか、舞台で会いましょう!」


(暗転)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 シェイクスピアの人物像は人によって様々な解釈があり、私としては人間の内にある光と闇を最も理解し、その上でそれを様々な喜怒哀楽へと昇華させたエンターテイナーという認識です。  そんな彼の作品は演出重視…
ヘエエエイ、マクベース! いやー、こんなアプローチがあるんですね。 なかなか古典にじっくりと取り組む時間が ないのでほんとお勉強になって助かります。 できることなら、ゲーテ、ダンテ、ミルトン、 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ