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第9話 エクストリーム鬼ごっこ


 うーん。どこにいるだろうか。


 最近では、ターゲットを絞られないよう、逃げていく際にも煙幕を撒いて散り散りに逃げていくのだ。


 しばらくして煙幕が晴れると、僕だけがポツンと取り残されていた。


 よし、まずは、居場所を突き止める必要があるな。

 どこにいるかがわからないと、いくら僕の足が速くても意味がない。


 だから、いつも聞き込みから始める。

 村人たちは子どもたちの様子をよく見ているのだ。

 念のために言っておくが、ロリコンやショタコンのような変態ということではなく、小さい村なので、子どもは村全体で育てるという方針なのだ。


 なので、そこら辺にいる大人に聞けば、すぐに居場所を掴めるのだ。

 ずるいかと思うかもしれないが、これも勝負なのだ。

 僕は勝つためなら、ルールに抵触しない限りは何でもやるぞ。


「あのぅ……、すみません……」


「なんじゃ?……ああ、シスコーンさんちの子かい。今日はお友達と一緒じゃないのかい?」


「えっと……、その友だちを探していまして……ここら辺で見ませんでしたか?」


「そういえば、今日は見てないのぅ……」


「あれ?そうですか……おかしいなぁ。わかりました。ありがとうござます! よい一日を~!!」


「お、お~い!あんまり走るとあぶないぞ~!」


 むむ、おかしい。いつもは第一村人に話を聞いたら、どっちの方に行ったかぐらいの情報は得られているんだけどなぁ。

 もしかして、僕の行動を読まれている……?


 いやいや、あのぐらいの年齢でそこまで頭が回るはずはない。バカの一つ覚えみたいに同じ行動を繰り返すものだ。

 前世で僕が子どものときなんか、何も考えず、鼻をほじっていた記憶しかない。


 こうなったら、足で稼ぐしかない。とにかく姿を見た人を探して、話を聞かないといけない。

 

「ちょっと聞きたいのですが……」


 その後、3人ほどに話を聞いたのだが、誰も見ていないというのだ。

 これはいよいよ対策されていると考えて良いだろう。

 村人に口止めをしているのか、姿を見られないよう行動したか、方法はわからないが、何かしら小細工を弄しているのは確定だ。

 そこまで頭が回るとは思っていなかった。どうしよう。


 ちょっとずるいが、秘密兵器を使うとしよう。

 その名も魔力探知!

 周囲の魔力を持つ生物の位置を探すという魔法だ。最近覚えた無属性魔法である。


 だが、この魔法は人物を判別することはできないのだが、僕はシアちゃんの魔力の雰囲気は完璧に覚えているのだ。


 母親によると、この魔法でそんなことができる人は聞いたことがないと言っていた。

 僕にも理由はわからないけど、何となくそれができるのだ。

 それを聞いた母親は、流石、私の息子ね!とか、本当に大魔導士になれるかも!とかテンションが上がり、その日の練習がより厳しくなった。


 でも誰でもわかるというわけではない。シアちゃんの他には弟しかわからない。

 ずるいとは言わせない。これは僕の特権なのだ!


 それに、そんなことを馬鹿正直に言う必要なんかないので、黙っていれば問題ないのだ。


「よし、早速やってみよう。魔力探知!!……ふむふむ、村の外れの雑木林か……」





***





「ギャァァァァァァ!!!」


 僕の悲鳴が、青々とした木々が生い茂る雑木林に響き渡る。

 居場所を特定して、意気揚々と現場にやってきたわけだが、林の中には至る所にトラップが敷き詰められていたのだ。


「や、やりすぎだろぉぉぉぉぉ!!」


 落とし穴に落とされたり、縄で逆さに釣り上げられたり、竹やりが降ってきたり、丸太でぶん殴られたり、バラエティ豊かなトラップの数々が僕を襲った。


 「おいぃぃぃぃ!こんなの死んじまうぅぅぅぅぅ!!」

 

「ぎゃははははは!!!」


「お兄ちゃん頑張れー!!」


「ニアさん、ファイトです……!……ふ、ふふ」


 今僕は、弟たちが木の枝に座って野次を飛ばす中、必死に助けを求めていた。

 シアちゃんに笑われていることに酷く傷つきながら、竹やりの雨をかいくぐっている。


 く、くそ!このままじゃ、殺される……


 子どもは時に無邪気で残酷だ。

 僕は心の広い方なので、ある程度のことは許すが、こいつらの倫理観は一体どうなっているのだ。

 いや、こいつらがおかしいのではなく、これがこの世界の人間の普通なのかもしれない。

 いつも父親が剣の練習と称して、僕をボコボコにぶん殴ってくるのが、いい証拠だ。


 もう、堪忍袋の緒が切れた。

 最近走り込みの量を増やしている僕の足の速さを見せてやる。


 念のため言っておくが、走り込みを増やしているのは、断じて、こいつらに鬼ごっこで負けているからではない。僕の使命のためなのだ。


「お、おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 彼らは僕の必死の雄叫びに怯んだと思ったのも束の間、瞬時に逃げの体勢に入ったかと思うと、驚くことに木の枝を使い、三次元的に逃げ出したのだ。


 トラップもそうだが、こいつらはどこでこんな技術を身に着けてくるのだ。

 お前がそんなことできるなんて、お兄ちゃん知らなかったよ、弟よ。

 僕のちっぽけなプライドが少し傷ついたが、とにかく捕まえてしまえば、プライドなんか気にする必要もないのだ。


 「こんの、待てやぁぁぁぁ!!……は、はやっ!!」


 立体機動○置でも付いているかのような高速移動に目が追い付かない。


 ちくしょう、僕の妹と弟はお兄ちゃんより高スペックだなんて……

 でも僕だって日々トレーニングしてきたこの足があるのだ。戦いにならないことはないはずだ。


「おらおらおらぁ!!」


「お兄ちゃん、ごめんね!!」


「す、すみません、えいっ!」


「いてっ!!いたた!」


 必死にトラップをかいくぐりながら追いかけていると、立体起動中に3人が僕に石を投げてくるのだ。


 僕だって普通にケガするんだよ!?ていうか、もうなんか既に頭からドクドク血流れてるんだけどぉ!?


「ちょ、やめてぇ!?死んじゃう!死んじゃうぅぅ!」


 僕が必死に命乞いをしている間もこぶし大の石が飛んでくる。


 3人はまるで狩りでもしているかのように、僕が避けようとする場所に石を飛ばし、退路を断ってくるので、こっちとしては溜まったものではない。

 その上、回転も掛かっているらしく、飛んでくる石がちょっと曲がり、それが頭部に吸い込まれてくるのだ。


「おらおらおらぁ!!」


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


「えいっ!えいっ!えいっ!」


 ガッ!ゴッ!ドゴッ!!


 石が当たる度に人体から鳴ってはいけない音が鳴る。


 でもお兄ちゃんはこんなことでは死ねない。意地でも生き残らないといけない。

 妹や弟を殺人者にするわけにはいかないのだ。


 しかし、このままやられっぱなしでは流石に死んでしまうので、対策を打たないといけない。


 この連携を崩す必要がある。一度崩れれば立て直しは難しいはずだ。


 大量の石が飛来してくる中、魔力を練り上げる。

 魔力を練るためには集中が必要なのだが、この状況ではどうしても集中が出来ず、中々、魔法を発動可能な状態にまで持っていけない。


 ほどなくして、なんとか魔力を練り上げ、魔法を発動する。


「くらえっ!ウォォタァァブォォルゥゥゥ!!」


 ユーリとシアちゃんは最初からターゲットから除外しているので、狙うはケガをさせても心が痛まないダン一択だ。


 山なりに投げた水球がダンに向かって飛んでいく。


「うおっ!やべっ!!」


 水球が飛んできたことに気付いたダンが、直撃するギリギリのところでとっさに体を捻り、水球をかわしたのだが、無理な体勢でバランスを崩した。


 そのまま落下してくるかと思われたダンだったが、目の前の枝に掴まって落下を免れた。


「っぶねー!……へ?うわぁぁぁぁぁ!」


 ドシンッ!


 ホッと息を吐くダンだったが、掴まった枝が濡れており、手を滑らせて落下してきた。

 そう、僕の狙いは最初からダンではなく、枝だったのだ――


 というのは嘘だ。正直たまたまだったが、作戦通りということにしておこう。

 こういうのは言ったもん勝ちなのだ。盛大にホラを吹いていこう。


 落下してきたダンをすぐさま捕まえに動き、ついでに降り注ぐ石避けとして、その大きな体の陰に隠れた。


「引っ掛かったな!僕の狙いは最初からその枝だったのさっ!」


「くっそ!……って、いてて!いてぇ!俺を盾にするのやめろ!」


「ふん、誰が考えた作戦か知らないけど、僕の苦しみを味わうがいいさ!」


 その様子を見たユーリとシアちゃんは石を投げるのを躊躇して、逃げに専念し始めた。


 くそ、ダンに対しては躊躇するのに僕に対しては躊躇が無いのはなんでなんだ!

 無性に納得がいかない!


 流石に疲れたので、少し休憩することにした。

 二人を見失うことになるが、あの二人に関しては僕の魔力探知により居場所はわかるので、一旦見逃して体力を回復することにしたのだ。


 この後は二人の居場所がわかるアドバンテージを有効活用して、奇襲戦法で攻めていくことにしよう。





***





 10分ほど休憩を挟み、多少体力が回復したので、そろそろ動こうとしたときだった。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 林の奥から悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


「この声は……シアちゃん!?」


 その声に僕とダンは、無性に胸騒ぎがした。


 日の光が傾き、時刻は夕暮れに差し掛かっていた。


 現在の精神状態がそう感じさせるのか、木々がざわざわと揺れている様子が酷く不気味に感じ、僕たちは身震いをする。




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