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第84話 激突


 カンカンカンカン!


 何度も鳴らされる鐘の音は緊急事態であることを示していた。


「学園長!緊急事態です!!」


 闘技大会貴賓席。

 シスタリア王国魔法学園の副学園長が焦った表情で、学園長アリア・トードンに声をかける。


「そんなことわかっておるわ!!」


 鐘の音が聞こえなかったとでも思っているのか、大声で報告してくる副学園長に腹を立てるアリア。


 風魔法を駆使して上空に一気に飛び上がる。

 遠見の魔法を使い、状況を確認すると南の森の奥から巨大な何かが王都へと真っ直ぐに迫ってくるのが見えた。

 あまりの大きさに、まるで街が移動しているかのような光景であった。


「これは…………普通のゴーレムとは違うな……見覚えがある……。 ――古代の遺物……か……。 だが、これほどの大きさは見たことがない……」


「なっ!? 学園長!何か巨大なものが王都に迫っています!!」


 魔法で飛び上がった副学園長は、アリアの隣に並び、驚愕の表情を浮かべる。


「副学園長……私にも見えている……。 ……馬鹿にしているのか……?」


 巨大なものが迫っているなどと、見ればわかるようなことを性懲りもなく大声で報告してくる副学園長に苛立ちを隠せない。


「学園長!これは一刻の猶予もありません!! ご指示を!!」


「……古代の技術が使われたゴーレムが進軍中だ。 騎士団及び冒険者ギルドと連携を取り対応しろ」


「は、はい! …………しかし、対応しろという曖昧な指示では動けません! 学園長!具体的な指示を!!」


「こんのっ!指示待ち人間がぁ!! ……情報共有!!……迎撃!!……避難誘導!! やることは山ほどある!! 自分で考えろボケェ!!」


 ゴチンと副学園長の頭を殴る。

 副学園長が瞳に涙を浮かべながら去って行くのを見送る。


「クソが……。 事態の深刻さを分かっておらんのか……」


 副学園長の無能さにため息が止まらないアリア。


「さて……」


 アリアは小さく息を吸い、拡声魔法を使用する。


『闘技大会は中止だ! 現在、巨大ゴーレムが王都に迫っている! 私はゴーレムを止める! 戦える者は協力してほしい! 非戦闘員は学園の教員に従い、今すぐ避難してくれ!』









 門の前に出て騎士団が隊列を組み、ゴーレムを迎え撃とうとしていた。


 外壁の上で状況を見守るのは、副騎士団長エリック・プラトニックラブと騎士団長付き秘書のエリナ・ベーレンドルフ。


 数十分前、巨大ゴーレム出現の報告を受けたエリナは、急ぎ王都の騎士団員たちを正門前に召集した。

 王都の騎士団が半分ほど揃う頃には、巨大ゴーレムから二万体に及ぶほどの大群が溢れ出してきて隊列を組んでいた。


 こちらの準備が整う前に王都に攻撃を仕掛けてもおかしくはなかった。

 しかし、不思議なことにゴーレムは一定の距離を保ち、その動きを止めた。


 こちらの準備が整うのを待っているのだろうか。

 その様子に舐められたものだと憤った。

 どこかに術者が潜んでいるのは間違いない。

 そしてそいつは、騎士団長がいないと知ってこのような舐めた態度を取っているのだろう。


 そう、現在騎士団長ギルバート・ブラッドリバーは国王から命じられた任務で、王都を離れている。

 任務の内容については、騎士団長付きの秘書であるエリナにも聞かされていなかった。

 その情報が、どこからか漏れていたのだ。

 この絶好のタイミングで襲撃など、そうとしか考えられない。


 彼がいれば、このようなゴーレムなど、瞬きをしている間に破壊するはずなのに、と悔しさに下唇を噛む。


「敵の出方を見ます! 盾持ちが前に出てください!」


「ヒャーハッハァ! 鉄屑になりなぁ!!」


 副団長エリックはいつからか、盗賊紛いのお下劣人間に成り下がったのだ。

 鬱陶しくて仕方がなかったのだが、副団長という立場上、指揮官としてここに居てもらうべきだとエリナは判断した。


「貴方は黙っていてください!!」


 副団長だろうが何だろうが、鬱陶しいものは鬱陶しい。

 エリナは怒りを抑えることなくエリックを怒鳴りつける。


 ふと、天啓が舞い降りる。


 このまま一人でゴーレムの軍団に突撃させて、亡き者にしてしまえば自分の精神衛生は保たれるのではないだろうか、と。

 この何も考えていなさそうな顔を見ていると、そんな馬鹿みたいな作戦を提案したとしても、狂ったように特攻するのではないかと考えてしまう。


 いや、いやいや……流石に腐っても副団長である。

 彼が戦死すれば、騎士たちの士気に関わる。

 ヤるなら、この戦いが終わってからだ。


 ふるふると頭を左右に振り、その名案を払い除ける。


 エリナが副団長を人知れず亡き者にする計画を立てていると不意に声がかかる。


「エリナ・ベーレンドルフ……状況は?」


 紫を基調としたローブを纏った人物が外壁の上に降り立つ。


「アリア学園長、見ての通りこちらの準備は間もなく整います。 そちらの方はいかがですか?」


「避難誘導は学園の教員と冒険者に任せてある。 避難誘導が終われば、冒険者が合流するはずだ。 それにしてもこちらの準備が整いつつあるのにも関わらず、動かないのは不気味だな……」


「まさしく、こちらの準備が整うのを待っているのでしょう」


「どういうことだ?」


 アリアは訝しげな表情を浮かべる。


「……こちらが万全の状態で叩き潰したい……そんなところでしょうか」


 エリナは少し考えたあと口を開く。


「相当あの鉄屑に自信があるらしい……」


「しかも団長がいないことを考えると計画的な襲撃かと……」


「自信があるなら、英雄が居る時に来てもらいたいところだな」


「ええ、本当に……」


 二人はため息を吐く。

 最大戦力が不在の時に攻めてきておいて、万全の状態も糞もないだろうに。

 それなのに、こちらが慌てふためき、迎撃準備をしている姿を見て悦に浸っているのではないかと思うと、納得がいかないというものだ。


 そんな会話をしていると、突如として状況が動く――


「敵ゴーレムに動きあり!!」


 遠見の魔法でゴーレムを監視していた騎士団員から切迫した声が上がる。


「……っ! 盾を構えてください! 何か来ます!!」


 エリナは、すぐさま外壁の外に隊列を組む騎士団に指示を飛ばす。

 今まで沈黙を保っていた敵が遂に動き出した。

 最大限に警戒レベルを引き上げる。


 それと同時に――


 ババババババババッ!

 ドンッ!ドンッ!


 耳をつんざく、乾いた破裂音が響き、雷鳴が地を打つような衝撃が騎士団を襲う。


 あまりの爆音にエリナは耳を塞ぐ。


「な、何が起こったの!?」


 辺りを見回すが、土埃が立ち込めており状況は確認できない。

 魔法攻撃だろうか。

 しかし、魔力反応は全く感知できなかった。

 となると、純粋な物理による攻撃だろうとエリナは考える。

 古代の時代には、魔力を使わない兵器が存在したというのだろうか。


「ヒャーハッハ……。 おいおいやべぇよこりゃ……」


「ふんっ!」


 アリアが風魔法を使い土埃を吹き飛ばすと、地面に横たわる騎士団員たちの姿が見えた。


「貴方たち無事!? すぐに回復を!!」


 騎士団の魔術師に回復魔法を使う指示を出す。


 突然の奇襲に加えて、経験したことのない攻撃を受け、取り乱す騎士団員。


「まずいな……」


 アリアが小さく呟く。


 こちらの状況など敵は待ってはくれるはずもなく、土埃をブラインドにゴーレムたちが突撃してきていた。


 アリアは咄嗟に呪文を詠唱し、魔力を練り上げる。


「範囲魔法で一掃する! 巻き込まれるなよ!」



 強い光が輝くと同時に轟音が響き、青白い稲妻が地面を穿った。


 大規模な落雷により数百体というゴーレムを一瞬でスクラップに変える。


 何万といるゴーレムの内、数百体破壊したところで、焼け石に水だ。

 しかし一瞬だが、足止めができたことにより、盾持ちの騎士たちの回復が間に合った。

 ゴーレムの勢いは止まらず、白兵戦に突入する――



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