第78話 広告のゲームって無性にやりたくなるよね
学園屈指のイケメンであるはずの容姿を馬鹿にされた僕は、怒りで我を忘れて怒鳴り散らす。
「お、落ち着いてください!! 今すぐにでも目撃者は排除いたします!!」
僕の様子を見た異端審問官のリーダーであろうゴツイ見た目の男が取り乱してそう言うや否や魔法を発動させた。
「ぐぁぁああああああ!!」
部下であろう三人の異端審問官の悲鳴が響き渡る。
ビクリと体を震わせ、急に叫び出した異端審問官たちに目を向けると、先ほどまで僕に平伏していた異端審問官たちの背中から鉄の杭が生えていた。
地面から伸びた鉄の杭は、彼らの心臓を貫いていたのだ。
リーダーの男はあっさりと自分の部下を殺害した。
しかも、部下もそれを受け入れるかのように微動だにしていなかった。
恐ろしい光景を目の当たりにした僕は茫然と立ち尽くしてしまう。
何てことを……!
村を出てからというもの、人が殺される瞬間を何度も見ている気がする。
このままでは、いつか僕もあっさりと死んでしまうのではないだろうか。
もしかして、このゴツイ顔の人は僕が怒ったから、こんなことをしちゃったのかな……?
罪悪感が胸に広がっていく。
……いやいや、ちょっと待ってほしい。
僕はこんな惨劇を一切望んでいなかった。
見た目を馬鹿にされたぐらいで人を殺すような猟奇的な思考は持ち合わせていない。
これは、あくまでも目の前のゴツイ顔の男が独断で仕出かしたことであり、僕の責任は一切ないはずだ。
「今はこれで怒りをお沈めください……。 あなた様を教団本部に送り届ける必要があります。 私の処分についてはその後に如何様にも受け入れます故……」
僕をどこに連れて行こうというのだ。
これ以上、変なことに巻き込まれることは御免だ。
「……君の処分は君が納得するようにしたら良いけどさ、教団に送り届けるってのはちょっと……」
「恐れながら申し上げますと、あなた様は自由に行動できる立場にありません。 護衛も連れずに外に出て何かあっては大変です」
「いやいや、僕がいたって何も変わらないし、むしろ僕なんかいない方が良いと思うんだけど……」
「あなた様に意見することが、どれほど罪深いことであるか……重々承知しております。 しかし、これだけは……例え私の命を捧げようとも通させていただきます」
僕の容姿を馬鹿にしたことをそこまで重く受け止めているというのだろうか。
流石にこの場で四つ目の死体が出来上がるのを見るのは気分が悪いので、素直に従っておこう。
どうやら、僕に危害を加えようとしているわけではなさそうだ。
それに、僕も今は身を隠したい事情があることだし、渡りに舟かもしれない。
その教団とやらにお邪魔しよう。
「それで、自分の処分は解消されたんすよね!? ニアさんを連れてきたのにこんな仕打ちなんて許せないっす!」
「……ニアリー様、この者は司教グレゴリオによって異端認定されております。 処分はいかがいたしましょう?」
悪党と仲良くしていると僕にも被害が及ぶかもしれない。
悪い奴は粛清するべきだよね……?
というか粛清ってなんだ。亡き者にするってこと?
「ニアさん…… まさか自分を見捨てるつもりじゃないっすよね…… 酷いっす! 一心同体ってニアさん言ってたじゃないっすかぁ……!」
いつの間にか、僕が一心同体を主張していたことになっているのだが、記憶が正しければ、それを押し付けてきたのはミザリーのはずである。
涙を流して僕に縋り付く悪党ミザリー。
女の子特有の仄かな甘い香りに、汗の芳醇な香りがブレンドされて、僕の紳士度は上昇の兆しを見せる。
もしかしたら助けてあげるべきなのかもしれない。
この甘えん坊さんを粛清してしまえば世界の損失とも言えるだろうか?
僕は女の子の涙に弱いのだ。
「仕方ないなぁ……」
「ニアさんならそう言ってくれると思っていたっす!」
僕のことを尊敬している様子だ。
抱き着いてもいいのだけれど……。
「許してあげることはできるのかな……?」
ゴツイ男に問いかける。
「あなた様のご判断であれば、司教グレゴリオも納得することでしょう」
「そっか! じゃあ粛清は無しにして!」
「御意」
ゴツイ男は頭を下げて平伏している。
彼がこんなに従順になった理由はわからないが、世界の損失は防げたので良しとしよう。
***
教団本部まで竜車に乗って案内された。
そこは人里離れた渓谷だった。
両側には高い崖がそびえ立っており、常に濃い霧が立ち込めている。
また、特殊な磁場により方位磁石も意味をなさない。
そのため、滅多に人が訪れることはないのだとか。
では何故迷いもなく進めるのかというと、古代の遺物を使って教団の場所を把握しているらしい。
その古代の遺物を見せてもらったのだが、とても驚いた。
スマホのような大きさの透明の板だった。
機能についてもスマホのように豊富にあり、地図以外にも計算機とかカメラとか色々あるらしい。
しかし、使い方が分からないものも沢山あると言っていた。
スマホをジッと見ていると、異端審問官の男がスマホを渡してきた。
別に興味などちょっとしかないが、触らせてくれるというのであれば、触ってやろうと、仕方なく受け取った。
道中はスマホをいじりながら過ごした。
ウェブサイトの広告にあるようなパズルゲームがあったので、ポチポチと遊んでいると、ミザリーが横から覗き込んで、ああでもないこうでもないと指示を出してくるのが鬱陶しかった。
ミザリーは異端審問官の男に来なくて良いと言われていたが、殺そうとしたんだから慰謝料を寄こすっす!と大いに騒ぎ、転げまわった。
それもあしらわれると、結局僕に縋り付いてきたので、連れていくことになった。
「あ!そこじゃないっす! こっちっすよ! あぁ……死んじゃったっす…… ニアさんちょっと次は自分にやらせてほしいっす! 自分の方が上手くできるっす!」
「なんだとう! 僕はこの手のゲームはやり込んでいるんだ!」
失礼な奴だ。
前世でどれだけ僕が広告のゲームをやっていたのか知らないだろう。
横から見てただけの奴より下手な訳がない。
「次は自分の番っす!! 貸してくださいっす!」
ギュウギュウとスマホの取り合いになる。
「ぐぐぐぐぐ……! もう一回やればもっと上手くいくんだ……! は、な、せ……!」
しかし、力ではミザリーに敵わず、取り上げられた。
くそう……僕はなんて弱いのだ……。
だったら精々僕より高得点を出してみるが良いさと高を括っていたのだが、あっさりと僕の得点を超えていた。
……なかなかやるじゃないか……
「ほら見てくださいっす!! やっぱり自分の方が上手くできたっす!」
「ふふふ…… なかなかやるね…… でも僕はまだ三十パーセントの力しか出していないことに気付いていないようだね……」
「え! そ、そんなわけないっす! 必死にポチポチしてたっすよ!」
「そう思うってことはまだまだ未熟だからだよ…… さあ、次は僕の番だ!」
スマホに飛び付くが、ミザリーは手を離そうとせず、またしても綱引き状態になる。
「まだ自分は死んでないっす! 死んだら交代っす!!」
なんという傲慢な奴だ……!
僕だってやりたいのに……!!
取り合いに負けた僕は、隠れて涙を流す。
その後、ミザリーがゲームオーバーになってもムキになってもう一回っすとか言って僕に順番が回ってくることはなかった。
程なくして目的地に到着し、異端審問官の男にスマホを取り上げられてしまい、結局僕がゲームをまともにできたのは最初の数回だけだった。




