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第71話 逃げないことが恥になる時もある


 闘技大会なるものは、学園の一大行事なのだとか。

 開催期間中はお祭りも催され、観光客も多く訪れる。

 僕は衆人環視の中で生き恥を晒すどころか、ボロ雑巾にされなければならないらしい。

 ちょっと流石に勘弁してほしい。


 覚醒の時を迎えることができれば良いのだが、そんなに都合良くはいかないだろう。

 十中八九、第一回戦でモブにボコボコにされることになる。

 そんなことは絶対に許されない!


 戦いから逃げることは恥だという意見もあるだろう。

 しかし、逃げないことが恥になる時もあるのだ。

 どちらも恥というのなら、逃げるが勝ちだ。

 僕は逃げるぞ!絶対に!


 そんな風に逃げる算段を企てながら、ティーナと一緒に王都のお祭りを散策していた。


 決してお祭りを楽しみにしていたわけではない。

 裏路地の闇商人が露店を出すと言っていたので、来てやろうと思ったのだ。


「来たよ」


「お、来やがりましたね、お客様」


 ニィッと黄ばんだ歯を見せつける闇商人。

 こんな怪しい人間が大っぴらに店を構えても良いのか疑問に思うが、前世でも反社会的勢力の人たちがお祭りで出店をやっていたから、恐らくそれと同じことなのだろう。


「親父さんごきげんようですわ!」


 何度か利用していることもあり、ティーナも大分打ち解けていた。


「お嬢!椅子あるから座ってな!疲れたろう?」


「ありがとうございますわ!でも全然疲れていませんわ!」


「まあまあ……ゆっくりしていってくれや! お嬢には普段からお世話になってるからよ!」


 ティーナに座るよう迫るオヤジ。

 傍から見たら、悪漢に襲われる少女にしか見えない。


「そんな……悪いですわ!」


「ねぇ、何売ってるの?」


 オヤジが齢十二の少女にデレデレとしているのを見ている趣味はないので、話に割って入る。


「今お嬢と喋ってんだろうが!!」


 態度が全然違うのは何故だ!

 不公平じゃないか!僕は客だぞ!?


「店を出すって言うから見に来てあげたのに……」


「……ちっ……しょうがねぇ…… 売ってるもんなんか見ればわかるだろ? 祭りといえばこれだ!」


 得意げに天狗のお面を掲げている。


「なんか効果でもあるの?」


「あるかもしれねぇし、ないかもしれねぇなぁ?」


 ニヤニヤとするオヤジが腹立たしい。


「どっちなのさ?」


「そりゃおめぇ祭りといえば、くじ引きだろう? 当たりか外れかは運次第ってとこだな!ヒヒヒ」


 気持ちの悪い笑みを浮かべるオヤジ。

 でも面白そうだな。一回だけやってみようかな。


「じゃあ一回引いてもいい?」


「ニアさんギャンブルは良くないですわ!」


「一回だけなら大丈夫だよ。それにギャンブルじゃなくて運試しだよ! おみくじみたいなもんだよ!」


「……おみくじ……ってなんですの?」


「おみくじはね、未来の運勢を占う神聖なものなんだよ!」


「そうなのですか! それなら沢山やった方が良いですわ!」


「いや、おみくじは一回だけやるのが醍醐味なんだよ!」


 何度も引くと、なんだかご利益が無くなる気がするのだ。


「そうですの? じゃあワタクシも一回だけ引きますわ!」


「二人分だな!十万シスタ毎度あり!」


 流石に十万は高すぎではないだろうか。

 以前に結構な量の買い物をしたときは二万とかだったと思うけど、こんなお面一つ五万とはぼったくりにもほどがある。


「高くない?」


「なに言ってんだ! 当たりを引けば五十万シスタはくだらねぇ代物だってあるんだぜ?」


「そう言って当たりなんか入ってないんじゃないの?」


 お祭りのくじには、当たりが入っていないと聞いたことがある。


「失礼な奴だ!こっちも商売でやってんだ!嫌なら帰れ!」


「すいません、二人分でお願いします」


「毎度ありぃ!!」


 怒っていたかと思えば、僕が買うと言ったら急に満面の笑顔になる。

 オヤジの貼り付けたような笑みが、本当にお面みたいだなと思う。


 ティーナが支払いを済ませると、オヤジは棒が幾つも入ったコップを持ってきた。

 この中から一本引けと言うのだろう。


 ティーナと一緒に一本ずつ引くと、棒の先には番号が書かれていた。


「引けたな?じゃあ番号を教えてくれ」


 どうやら番号に対応するお面を渡してくれるのだろう。

 僕たちが番号を伝えると、大きめの木箱をゴソゴソと漁る。


「お嬢はこれだな! 残念!ただのお面だな!」


「ウサギさんですわ! かわいいですわ!」


 どうやら、効果が無いお面を当てたようだ。

 まあ、本人は喜んでいるようだし良いか。


「お前はこれだな! 当たりだぜ!」


 数本のラインが入ったシンプルな装飾が施され、どことなくサイバー感があるお面だ。ちょっと格好良いかも。

 だが僕は、見た目よりも中身を重視するタイプなのだ。


「効果はあるの?」


「それは知らん! だが、魔道具であることは間違いねぇ! 盗品だから鑑定なんてリスクは犯せねぇからな! まあ、売れば最低でも一万シスタぐらいで売れると思うぜ?」


 効果の分からない魔道具を使用するのは、危険なので必ず鑑定をして効果が判明してから使うのが基本だ。

 しかし、このオヤジはそれをしていないと言う。

 効果の分からない代物を売り付けるなど、どうかしてる!

 鑑定するのだってタダではないのだ!

 五万シスタも支払った上、鑑定料も自腹を切らないといけないなんて……


「詐欺だ!!こっちは合計十万も支払ったのに、価値の無いお面しか貰えないなんて!!」


 僕が喚き散らすと、客の中に潜んでいる用心棒から殺気が放たれる。


「……な、なーんちゃって! ありがとうね!またくるよ!」


「毎度ありぃ!! お嬢、無理に買い物なんかしなくても、気軽に来てくれて良いからな!」


「ありがとうございますわ! このお面とても気に入りましたわ!」


 ちくしょう……!

 やっぱり当たりなんか入ってなかったんだ!


 その後は例の如くティーナにお金を払ってもらい、食べ歩きをしてお祭りを楽しんだ。





 深夜、同室のダンが大いびきをかきだした頃、学園からずらかるために荷造りをしていた。


「よーし!大体詰め終わったな!」


 パンパンになったリュックを見て満足そうにする。


「後は……」


 夜逃げをする前に置手紙を書いておく。


「えーと、旅に出ます、と…… うーんと、北の方に行こうと思います、と…… よし!こんな感じでいいかな」


 とりあえず南の方に行こうと思う。きっと温かくて過ごしやすいはずだ。

 恐らくユーリに気付かれても時間を稼げるだろう。


 僕の気配を感知できるミスラちゃんについては、最悪付いて来てしまっても問題はない。

 僕の護衛をしてもらうのも良いかもしれない。

 妹に守られるというのは情けないことではあるが、人にはそれぞれ役割というものがある。

 僕の頭脳でミスラちゃんの足りない頭を補うのだ。

 お互いに助け合い、求め合い、そして二人は生まれたままの姿で一つになる。

 それが、お兄ちゃんと妹の正しい在り方である。


 とっとと荷物を纏めて王都を出てしまおう。





 王都を出て二時間程経ったが、早くも後悔していた。


「馬車もないし、そもそも金もない…… 食料だけは学園の食堂から根こそぎもらってきてはいるけど、流石に疲れたなぁ……」


 何もない道をひたすらあるくというのは肉体的にも精神的にも疲労が溜まってくる。


 少し休憩しようかと腰を下ろすと、


「見つけたっすよ! ニアさん!」


 野生のミザリーが現れた。


「こんばんは、ミザリー」


「ニアさん酷いっすよ! 自分を見捨てるなんて! 自分とニアさんは一心同体じゃないっすか!」


 どういうことだろう。

 確かに復讐を果たすために一時的に手を組みはしたが、それ以上でも以下でもないはずだ。

 僕と一心同体なのはこの世の妹たち全てであり、決してミザリーではない。

 確かに顔は合格だが、リッチさんを虐待する猟奇的な性格と僕を厄介事に巻き込もうとするところが不合格だ。

 妹としての資格を持たない者が、僕と運命を共にすることなどできるはずもない。身の程を知ってほしい。


「騎士団に捕まったんじゃないの?」


「逃げてきたっす! 一応騎士団にちょっとした伝手があるっす! ……自分のことは良いっす! それよりもやばいんすよ!」


 まただよ……。

 僕を巻き込むのは本当にやめてほしい。


「どうしたの? 言っておくけど僕にできることなんかないよ」


「なんでそんなこと言うんすか! 一心同体!一心同体じゃないっすか!」


 何度言われようと、厄介事を持ってくるような奴は僕の一心同体リストには入っていない。


「自分……もうどうしたらいいか…… ニアさん助けてくださいっす!お願いしますっすぅ……!」


 ミザリーが涙をポロポロと流して訴えてくる。

 その様子を見てちょっとかわいそうになってきた。

 僕は女の子の涙に弱いのだ。


「うーん……しょうがいないなぁ……」


「ほんとっすか!? ありがとうございますっすぅぅぅううう!」


 僕に縋り付いてくるミザリーの匂いが僕の鼻腔をくすぐる。

 むぅ……これはなかなか……


 僕がミザリーの体に顔を埋めようとすると、ミザリーが突然立ち上がった。


 ぶへぇ!!僕の鼻がぁ!!


 顔を近づけていたため、勢い良く立ち上がったミザリーの肩に鼻がぶつかった。

 急に立ち上がるんじゃない!


「もう嗅ぎ付けられたっすか!」


 まだ嗅いでない!


 なんだか、よく分からないがピンチなのかもしれない……。

 やっぱり関わり合いになりたくない!


 そんな僕の願いも虚しく、ミザリーに引きずられていくのだった。



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