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第67話 スタンピード騒動の後②


「ヒャッハー!てめぇら!!一匹残らず殲滅だぁ!!」


 シスタリア王国騎士団副団長エリック・プラトニックラブは部下を率いてダンジョンの魔物の残党狩りを行なっていた。

 光属性の剣をブンブン振り回し、アンデッドたちを葬る。


「はぁ……本当どうしちゃったのかしら……副団長は……」


 呆れたようにため息をつくのは、騎士団長お付きの秘書であるエリナ・ベーレンドルフ


 エリックはある盗賊団の討伐作戦以降、人が変わったように下劣になってしまった。

 言うなれば、まるで盗賊かのような振る舞いを見せるようになったのだ。

 誇りある王国騎士団の副団長が、このような有様では部下にも守るべき市民にも示しがつかない。

 秘書であるエリナは騎士団のイメージがこれ以上落ちることを防ぐ必要があった。


 副団長という立場上、どうしても他人からその振る舞いを見られる機会は多い。

 そんな立場の人間が盗賊風のお下劣男であれば、騎士団がどう思われるかなど、考えるまでもない。

 常に見られているという意識を持って行動するよう言い聞かせてきたのだが、それも効果が見られなかった。

 もはや、彼は騎士団には必要のない存在なのかもしれないと決意を固めるエリナにエリックが声をかける。


「エリナちゃんよぉ!! おかしいぜぇ……? 俺の敏感な鼻がくせぇくせぇと喚きやがる!」


 エリナは瞬時に自分の体の匂いを嗅ぐ。


(私……じゃないわよね……?)


 自分の匂いというのは自分ではわからないものだ。

 エリナは不安になりながらも、エリックの話に耳を傾けることにする。


「ゲルシュタッドの坊主が絡んでいることは言うまでもねぇが……そいつぁトカゲの尻尾かもしれねぇなぁ!?」


 今回のスタンピードは明らかに人為的に引き起こされたものだった。

 現時点での調査から推理できることとすれば、爆発の魔道具を利用して魔物をダンジョン外まで誘導した可能性だ。

 手がかりから魔道具が使用されたのは間違いはないが、容疑者として捕らえたローレンス・ゲルシュタッドはどれだけ尋問を受けようと、犯行を認めようとしなかった。


「エリック副団長、何か分かったのでしょうか」


「この魔物共はぁ凶化の魔法が使用されてるんじゃねぇかって感じだぜぇ?ヒャーハッハ!!」


「……っ! 凶化の魔法って……!」


 確かに生徒たちの証言では魔物たちの様子がおかしかったという。

 騎士団長が討伐したというリッチも異常に強力な個体であったと取り調べで聞いている。

 しかし騎士団長はそういった類のことは言っていなかったので、エリナは疑問に思ったものの気に留めていなかったのだが、それは騎士団長が強すぎるせいだったようだ。

 強すぎるが故に一定以下の強さでは一律に弱いと感じてしまうのだろう。


「そう……魔王が使用していた魔法だなぁ!? ……間違いねぇ!!この感じは経験があるぜぇ……!?」


「……ま、魔王が復活したというのですか!?」


「いや!!そうとは限らねぇぜ……!? 魔物を凶化し、操る。 それが魔族の種族特性ってやつだからなぁ……!?ヒャーハッハ!!」


「だとしても魔王が関与している可能性は高いです!」


「まあ、そうだろうなぁ!? じゃ、引き続き調査してくるぜぇ!? ヒャッハー!てめぇら!サボってんじゃねぇぞ!!」


 だとするとローレンス・ゲルシュタッドの尋問を優先的に進める必要がある。

 彼が何かしら関係していることは明らかなのだから。


 しかし、スタンピードと爆発の関連性がわからない。

 魔族の特性を利用すれば、スタンピードを起こすことは容易なはずだ。


「何故爆発を起こしたの……? それとも起こす必要があった……? わからない……」


 未だ多くの謎を残しているが、ローレンスが口を割らない限り捜査も進まない。

 彼は誰かを庇っている可能性がある。

 彼の背後にいるのが何者であるかは、現時点で判断を下すのは危険だろう。

 場合によっては無用な混乱を招くことになる。







 ミザリーは頭を抱えていた。


 彼女は現在、自身が所属する教団ヘブンズアークの支部で彼女の上司にあたる司教に報告に来ていた。

 ヘブンズアークは所謂アングラな組織であるため、大っぴらに拠点を構えることはできない。

 この支部も表向きは雑貨屋として、王都の隅っこで経営している。


 そして邪神復活の知らせをもたらしたのだが、想像と反してその態度は冷たいものだった。

 何故なら、モンスタースタンピードにより王都での協会の活動が大きく制限されてしまったからである。

 このままではミザリーはトカゲの尻尾のように捨てられてしまうだろう。


「司教様!聞いてくださいっす! た、確かに王都での活動は難しくなりましたが、邪神様が復活なされたっすよ!」


「……では、その復活なされた邪神様は一体どちらにいらっしゃるというのですか?」


 司教の鋭い眼光にたじろぐミザリー。


「そ、それは……ニアさんと一緒に学園に通っているっす!」


「邪神様が学園に通うというのは何の冗談でしょうか?」


「自分には邪神様の崇高なお考えはわからないっす……」


「……まあ、それについては良いでしょう…… それで、ニアさんというのは一体どなたなんでしょうか?」


 司教は邪神が学園に通うという馬鹿みたいな話については一旦置いておくことにした。


「に、ニアさんというのは……お、恐らくっすが、教団の司教様……もしかしたら大司教様じゃないかと……」


「……何故そう思うのです?」


 どこか呆れたような表情の司教に一生懸命に説明しようとする。

 ミザリーからしたら全て本当のことを話しているのだが、どうも信用されていない。


「リッチを前にして凄い落ち着きようだったっす! ……そ、それで邪神様の復活に手を貸してくれて……百体の魔物を凶化して暴れさせることを提案したっす……」


「……っ!なんと愚かな……!」


 これはニアに対してというよりは、そんな身元の知れぬ者の指示に従ったミザリーに対してのものだった。


「た、確かにニアさんの言ってることはめちゃくちゃでしたが、こうして邪神様の復活が叶ったっす!」


「そのニアという人物は本当に大司教なのですか? ただ邪神様の復活に協力したというだけでは信じられません」


「教団しか知らないダンジョンの隠し通路を知っていたっす!」


「偶然見つけたのかもしれないし、正規ルートでその階層に到達したとは考えないのですか?」


「お、お言葉ですが偶然隠し通路を見つけるというのは、す……少し無理があると思うっす……! それに正規ルートで五十階層に到達したにしては軽装すぎたっす!」


 ミザリーは必死に弁明するが、司教の懐疑的な態度が軟化することはなかった。


「……正直に言うとですね……私からすると、あなたがこの不祥事をはぐらかすために吐いている嘘としか思えないんですよ…… あなたのような一介の司祭の前に大司教様が現れたり、邪神様が復活されたなどという夢のような話より、一番現実的ですよね?」


「う、嘘じゃないっす!!邪神様は復活なさったっすよ!!」


「では連れてきなさい。できなければあなたの任務はこれで終了です。 …………意味は分かりますね?」


 ミザリーの任務が終了するということは、彼女が始末されるということ。

 その事実に背筋が凍るような思いをする。


「は、はいっす……」


 ミザリーは重い足取りで司教の部屋を後にする。


 一人になった司教はポツリと呟く。


「全く……邪神の心臓を手に入れてきたときは、少しは使える駒だと思いましたが、私としたことが、ただの駒に少し入れ込みすぎました…… そろそろ潮時ですね…… ――仕事を頼みたいのですがよろしいでしょうか」


 すると、部屋の隅に人影が現れる。


「対象は?」


 現れた人影は短く問う。


「異端者ミザリー司祭を粛清しなさい。……ああ、もう一つ、ニアという人物についても探りを入れてください。大司教を騙る不届き者であれば慈悲は必要ありません」


「御意」


 そう答えると同時にその人影は姿を消した。


「さて私もこの拠点を破棄して、早いところ立ち去るとしましょうか…… しかし、厄介なことをしてくれたものです。 王都での活動も行うことが難しくなりましたし、手駒も失ってしまいました。 次は私が粛清されてしまうかもしれませんね……」


 司教は苦虫を噛み潰したような顔をして部屋を立ち去った。



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