第64話 神を自称する少女
僕はミスラちゃんにかっこいい笑顔を披露する。
「なんじゃ……その妙な表情は…… まあいい……よくぞ我を蘇らせたの!お主よ、名を名乗ることを許そう!」
妙な表情……!? 鏡を見て毎日練習しているというのに……
いや、きっと照れ隠しに違いない。
喋り方から推測するに、見た目と反して長く生きているタイプの女の子なのではないだろうか。
ライトノベルではそういうタイプの女の子も多いのだ。恐らく間違っていないはずだ。
長く生きているが故になかなか素直になれないのだ。
「僕の名前はニアだよ!よろしくね!」
「ほう……ニアというのか……良い名じゃの? 我はミスラという!一応神じゃ! お主はなかなかに根性がありそうじゃから特別にミスラちゃんと呼ぶことを許す! 気軽に崇め奉るが良いぞ!」
ふんぞり返っている姿がとてもキュートだ!
しかし、神というのはどういうことだろう。
そういう設定なのかな?
「ミスラちゃんは復活したの?」
「その通りじゃ! ニアよ、お主には褒美をやらねばならんの! 何が良い?殺したい奴がおるのか?それとも金か?女か? 望むものを用意してやるのじゃ!」
……っ!褒美……!
なんだか物騒なことを言っており、ちょっと不安ではあるが、貰うものなど一つしかない。
「何でもいいの?」
「なんでも良いぞ!我に用意できないものはないからの!」
ミスラちゃんは腰に手を当ててふんぞり返る。
うーん、でも要求した後にそれはダメとか言われても困るしなぁ……
ちょっと釘を刺しておこう。僕はどうしても欲しいものがあるのだ。
「でもそんなこと言って、ミスラちゃんに都合が悪いものだったらダメとか言うんじゃないの? ほんとに何でも良いの?嘘つかない?」
「なんじゃ……疑り深い奴じゃの…… そんなに心配なら……」
ミスラちゃんはそう言いながら、右手を前に出すと、一瞬にして魔法が発動する。
本来魔法というのは、必要な魔力を練り上げてから発動するものだが、ミスラちゃんはその練り上げる速度が速すぎて一瞬で発動までの手順を踏んでいたのだ。
ミスラちゃんの右手の前に赤く光る魔法陣が浮かび上がる。
「これは何?」
「お主が疑うから契約魔法を使ったまでじゃ」
「契約魔法?そんなのあるの……?」
契約魔法は存在しないと聞いたことがある。
新たに妹になる子と妹契約を交わすために習得しようと考えていたのだが、母親に聞いてもそんなものはないと言われたのだ。
しかし、母親が知らなかっただけなのかもしれない。
「こうして使えておるのじゃ! まったく……細かいことを気にする男じゃのう……!」
「それが本当に契約魔法かどうか……」
「ええい!早う手を出せ!」
プニっとした手で僕の手を握られる。
紳士度がムクムクと上昇をする。
ふへへ……プニプニ……
言われた通り魔法陣の前に手をかざす。
「変な顔しおって妙な奴じゃ…… ――我の復活の褒美として、お主が望むもの用意する」
魔法陣が仄かに光を帯びて静かに消えていった。
「これで終わりなの……? 約束破ったらどうなるの?」
「朽ち果てる。 ……試さないと信じないなど言い出すでないぞ! 我はせっかく復活したばかりなのじゃ! 早速死にとうない! ほれ、言うてみぃ!」
恐ろしいことだ。
しかしこれではミスラちゃんが言うように、本当に契約が成立しているか確かめようがないではないか。
まあ、ここまでやってくれたのだし、一応信じてあげよう。
もし約束を破ったらしつこく付きまとうだけだ。覚悟してもらおう。ふふふ……
「じゃあ、僕が欲しいものは……ミスラちゃん!」
「………………はぇ……?」
ミスラちゃんはポカンと口を開けて、気の抜けた声を出すのであった。
「そ、それはどういう意味かの……?」
「そのまんまの意味だよ!」
「……そ、それはお主が、わ、わ、我のことを……その……好いておると、そう言いたいのか……?」
急にそんなことを言われると照れてしまう。
しかし、おどおどしてしまうのはかっこ悪いので、そんなことはしない。
僕は妹に対しては堂々としたお兄ちゃんとして通しているのだから。
「僕はミスラちゃんを愛している!」
「……なっ!? お主!よくそんな恥ずかしいことが言えるな!」
ミスラちゃんは顔を赤くしてアワアワしている。
可愛すぎる……
そのキュートな顔の型を取り、被りたい衝動に駆られる。
「約束したし良いんだよね……?」
疑いの目を向ける。
「そ、それは…………」
「契約魔法だし……」
「ぐっ…… 確かに望むものを用意するとは言ったが……」
しかし、この子は警戒心というものはないのだろうか。
あんな約束をして、契約魔法まで使って自分の首を絞めるようなことをするなんて……。
もし、僕が悪い人だったらどうするつもりだったのだろうか。
やはり僕がちゃんと守ってあげないといけないな。
「約束……」
「あーわかったわかった! 契約魔法まで使ってしまったしの……! お主が死ぬまでの間ぐらい付き合ってやろう。 ただし!我を辱めるようなことは許さんぞ! そ、その……あれだ!ちゃんと大切に扱うのじゃ……! くれぐれも!え、え、えっちなことはするでないぞ! それが守れぬのなら、お主を殺すまでじゃ!」
エッチなことなどしない。あくまで紳士的な行為をするだけだ。
しかし、殺すとは物騒な……
「僕を殺したら契約魔法が……」
「ふん……契約者が死ねば契約は無効じゃ! あくまで我は、お主が望む褒美を与えると言っただけじゃからの。 実際褒美は与えたのじゃから、その後にお主が死のうが何も問題はあるまい」
ちっ……!多少は頭が回るみたいだな……。
だが、関係性なんてものは少しずつ作っていけば良いのだ。
僕のことを尊敬するようになれば殺したいなど思わないはずである。
しかし、簡単に殺すと言ってしまうのは問題かもしれない。
その辺もちゃんと直してもらわないといけないな。
可愛い妹を手に入れたとはいえ、僕が死んでしまっては何の意味もないのだから。
そんな会話をしていると、ミザリーが目を覚ます。
「ん……ニアさん、復活魔法は……っ!!」
ミスラちゃんのことを見て息を呑むミザリー。
ミザリーはこの子を何度も殺すために、わざわざ心臓をくり抜いてまで復活させたのだった。
そこまでするとはかなりの恨みを持っているといえるが、本当にこの子をミザリーが殺したのか疑問に感じるところだ。
契約魔法という一般には知られていない魔法を知っており、魔法発動もとんでもなく速いミスラちゃんを亡き者にしたというのは、到底信じられるものではない。
しかし、先ほど少しやり取りした感じだと、ミスラちゃんは頭がちょっとだけ弱いかもしれないから、そこを突かれてしまったということもあり得る。
とにかく僕の妹となったのだから、守らないといけない。
「あ、ミザリー……この子は……」
「邪神様!!ご復活おめでとうございますっす!!」
急に土下座をするミザリー。
どういうことなのだろう。
ミスラちゃんは彼女の復讐対象ではなかったのだろうか。
よくわからないが、急に喧嘩をしだすようなことはなさそうなので、ホッと胸を撫でおろす。
「お主もご苦労じゃったな! 名を名乗るのじゃ!」
「そ、そんな恐れ多いっす……」
「良い!気にするでない!さあ!」
「み、ミザリーっす! 邪神様におかれましてはご機嫌麗しいご様子……」
「そんな堅苦しい挨拶は不要なのじゃ! 我のことはミスラちゃんと呼ぶのじゃ! 気軽に崇め奉るが良いぞ!」
先ほども言っていたが、彼女の決め台詞なのだろうか。
「さ、流石にそれは……!」
「なんじゃ……ノリの悪い奴じゃの……こやつを見習え! 神様に対して敬意の一つもなく、我を欲しいなどと……」
そこまで言うとミスラちゃんは顔を赤くしてゴニョゴニョとしてしまった。
むふふ……こっそりカメラに収めておこう……。
「邪神様を欲しいって何やってるんすか!ニアさん!流石に失礼っすよ!」
「いや、でも契約魔法で契約したからさ……」
「け、契約魔法……!? それって古代魔法じゃないっすか……!というか邪神様と契約したって言ったっすか……!?一体どんな手を使ったっすか!!ニアさん、出会った時からずっと無茶苦茶っす!」
なんだかミザリーが騒ぎ始めてしまったが、そろそろ戻らないと僕が怒られてしまう。
「まあまあ、とにかくそういうことだから僕はそろそろ帰るよ」
「む、まだじゃ!我の復活に尽力したご褒美を与えておらん! ミザリーよ!何が欲しい?我が叶えられる範囲なら叶えてやるぞ!」
先ほどの失敗から学んでいるんだね。ふふふ……微笑ましい。
「えっと……人族を滅ぼしてほしいっす!」
ミザリーがとんでもないことを言い出した。




