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第61話 怪しげなミザリー


 僕は今王都の夜の街を散策している。


 さっきまで王都の広場で味がイマイチな炊き出しを食べていたのだが、ダンの汚い食事シーンをいつまでも見ているのが耐えられなくなったので、抜け出してきたのだ。

 ダンの奴は味がイマイチだろうと、腹に入れば関係ないとでも言うように受け取った炊き出しを貪り食っていた。奴の辞書には遠慮という文字はないらしい。

 奴のためだけに用意されたものではないというのに、わんこそばを食うかの如くお椀の飯が消えていくのは見ていて不思議だった。


 抜け出したことについて、ユーリにチクチクと小言を言われるかもしれないが、せっかくならぶっ壊れている街を見ておくのも悪くないなと思ったのだ。

 家を壊された人は気の毒だとは思うが、普段と違った王都の街はとても刺激的な光景だと感じてしまう。


「うわぁ……あれ……鍛冶屋ぶっ壊れてる……! なんか良い物ないかな?」


 火事場泥棒に見つかったら大変なので、僕が回収しておかないとならない。

 返せと言われたときに返してあげれるように準備をするのだ。

 鍛冶屋の親父もきっと感極まって感謝の品を進呈してくれるに違いない。

 もし何も言われなければ、いらない物だったということなので、僕が有効活用してあげるだけだ。武具にとっても必要としている人のところに居る方が幸せだろう。


 僕が鍛冶屋を漁るのに夢中になっていると、後ろから声を掛けられる。


「あの……」


「……っんあ!! もう見つかっ……!! いやっ……これは違って……! 悪い奴に盗まれる前に僕が回収しておいてあげたよ!どうぞ!!」


 腕いっぱいに抱え込んだ武具や装飾品を声の主に差し出す。


「何してるっすか……? ニアさんっすよね?」


 すると困惑したような表情のミザリーがそこにいた。


「あれ、ミザリーじゃん。これ……いる……?」


「いらないっす。 というか!あんな大変なことしておいて、何を悠長にしてるっすか!?」


 ミザリーがなんだか怒っているみたいだ。一体僕が何をしたというのか。

 最近思うのだけど、皆は僕に多くを求め過ぎではないだろうか。

 自慢じゃないが、僕は皆が思う十倍は何もできないのだ。

 僕の与り知らぬところで勝手に期待して、勝手に失望されても困ってしまう。


「ま、まあまあ、落ち着きなよ……。 ミザリーなら僕がここにいることに察しはつくんじゃないかな……?」


 こうやって意味深なことを言っておけば、大抵の場合は何とかなるものだ。


「……っ!」


 僕の思った通り、ミザリーは目を丸くして息を呑む。

 なんだか面白くなってきた。


「僕がここで何をしていたか……優秀な僕の右腕であるミザリーならわかるはずだよ……?」


 調子に乗って右腕とか言ってしまったが、特に意味はない。

 このように言えば、きっとミザリーが目を丸くして息を呑むと思ったのだ。

 さあ呑め!呑むんだ!


「……っ!」


 呑んだ!ふふふ……楽しい……


 僕が心の中で楽しんでいるとミザリーが口を開く。


「ニアさん……自分を試すのはやめてほしいっす…… ニアさんがここにいる理由は自分を探していたからっすよね?」


 全く探してなどいなかったが、不敵な笑みを浮かべながら鷹揚に頷く。


「……というより、心臓を持つ自分を探していたっすよね? だから自分もここで隠れて待っていたっす……」


 心臓を持つミザリーを探していたかというと全然そんなことはない。

 というか心臓など誰でも持っているだろう。僕だって持っているはずである。持ってるよね?

 もしかして、この世界の人は心臓を持ってない人の方が多いのだろうか。


「……隠れて待ってたの?」


「自分だってこんなところに居たくはなかったっすよ……! でもニアさんが炊き出しを楽しそうに食べてるもんだからずっと待ってたんじゃないっすか!」


「ミザリーも食べれば良かったのに……」


「……じ、自分はニアさんみたいに心臓に毛が生えてるわけじゃないっす! あんなことをした後に、よく皆と楽しくご飯なんて食べれるっすね……!」


 もしかして、さっきからリッチさんのことを怒っているのだろうか。

 確かにミザリーはリッチさんとの付き合いも長いはずなので、悲しみも大きいはずだ。

 しかし、あれを見られていたのか……。

 だとしても僕のせいにするのはおかしくないか!

 ……ちょっとだけ僕も責任を感じてはいるが、爆発は完全な事故だ!僕に殺意はなかったのだ!


「いや、リッチさんは僕のせいじゃ……」


「……っ! そ、それはわかってるっす!自分の責任でもあるっす!」


 いや、とどめを刺したギルバート風の男が一番悪いのであって、ミザリーのせいということはないと思うのだけど……。

 多分お腹が減っているから、考えも暗くなるしイライラしてしまうのだ。


「……とりあえず、炊き出し食べに行く? まだ残ってるかも……」


「行かないっす! 今はとにかくついてきてほしいっす!」


 なんだかわからないが、カリカリした様子のミザリーについていくことにする。

 リッチさんがお亡くなりになった苛立ちを僕にぶつけないでほしいが、そんなことを言うと更に怒らせてしまうかもしれないので、大人しく従っておこう。



 ミザリーを追い、王都の裏路地を右に、左にクネクネ曲がって、街を囲む塀まで辿り着いていた。

 草が生えていて分かり辛いが、よく見ると塀の一部に穴が開いている。

 小柄な人であれば通れるぐらいの大きさの穴だった。


「自分が開けた穴っす…… まだ修復されていないようで良かったっす」


 こんなことをして、器物破損とかでしょっぴかれたりしないのだろうか。

 まあバレなければ良いということなのかもしれないが、ミザリーが怪しい人に見えてくる。


 小さな穴は通りにくかったが、なんとか通ることができた。

 外に出た後は、王都の南に位置する森の中を進んでいく。


「ねぇ……まだなの?」


「もうすぐっす! ……というか何回も聞かないでほしいっす!」


「だってもうすぐって言う割に全然着かないし……」


「それはニアさんが数分おきに聞いてくるからっす!」


 全然目的地に着く気配がないので、しつこく聞いていたら怒られてしまった。

 しかし、僕だってミザリーがどこに行きたいのか、何をしたいのかわからない中、文句も言わずについていってあげてるのだ。

 あとどのくらいで着くのかぐらい教えてくれたっていいではないか!


「……あと何分ぐらい?」


「……もうすぐっす!」


「……………」


 再びテンプレで返答されたことに不満はあるが、大人しくついて行ってあげることにする。僕は女の子には優しいのだ。


 しばらく進むと、以前に僕が盗賊に捕らえられた遺跡に来ていた。


「ここって盗賊のアジトだよね?」


「その通りっす。 でも騎士団に壊滅させられたっすけどね。 今は捜査も終わってるので誰もいないっす」


 以前に見たときはちゃんと原型は留めていたが、騎士団が暴れたこともあるのだろう。瓦礫の山にしか見えない。


「ここら辺……だった気がするっす……んしょ!」


 ミザリーはキョロキョロと辺りを見回し、瓦礫の一部をひっくり返した。

 すると、地下へと続く階段が姿を現した。



 なんだかきな臭くなってきた。

 僕は地下に閉じ込められて拷問でもされてしまうのだろうか。

 ミザリーはリッチさんを虐待していたことがあるのだ。

 リッチさんがこの世を去ってしまったからって僕を代わりにしようとしているのではないかと疑いの目を向ける。


「ここで何するつもり……?」


 僕は自分の体を掻き抱きながら、ミザリーに声をかけるのだった。



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