第60話 王都への帰還
外に出た僕たちはダンジョンから離れたところに簡易的に設置された避難所に来ていた。
ギルバート風の男は王都に戻ると言ってすぐに去っていった。
なんとも慌ただしい奴である。
避難所に着いた後は事情聴取をすると言われ、フランちゃんと引き離された。
僕は最後まで抵抗を続けていたが、騎士の人に頭をゴチンと殴られ、仕方がないので大人しく話をしてやった。
その時に騎士の人から聞いた話だが、どうやらモンスタースタンピードが発生したらしいのだ。
スタンピードは僕もよく知っている。ライトノベルではよくある展開だからだ。
あの有名なイベントを体験できるとは、僕はなんて運が良いんだ!
曰く、スタンピードなど滅多に起こるものでもなく、今回は王都まで襲撃されたらしい。騎士の人は大変だなぁと思った。
騎士の人から解放されて、すぐにフランちゃんの姿を探すが見当たらなかった。
避難所には多くの学園生が集まっており、とても邪魔くさかったのだ。
フランちゃんを探して避難所を練り歩いたが見つからなかったので、暇つぶしがてら治療師の人に回復魔法をかけてもらっていた。
特に大きな怪我をしているわけではないため治療の必要はないのだが、回復魔法はポカポカしてとても心地良いのだ。
チラチラと視界の端に映る治療師の人が、迷惑そうにしているように見えるのはきっと気のせいだ。
僕は怪我人だぞ。ちゃんと治してもらわないと困る。
「お兄ちゃん!」
「ニアさん!」
回復魔法をかけてもらってウトウトしていると、ユーリとティーナが駆け寄ってくる。
ユーリの手を見ると大いびきをかいているダンがぶら下がっていた。
「あれ、二人とも大丈夫だった?」
「お兄ちゃん!また勝手にいなくなって……!心配したんだからね!!」
「しっかりと手を握っていたはずですのに、不覚ですわ……!」
「ふふふ……誰であろうと僕を縛り付けることはできないのさっ!」
「流石はワタクシのお友だちですわ……!!」
僕としたことが、ティーナに尊敬の目で見られてしまった。
また一人の女の子を虜にしてしまった……。まいったまいった……。
いやはやモテるというのは、難儀なものだね。
「何馬鹿なこと言ってるの……! 全く…… 今度からはちゃんと鎖で繋いでおかないと……」
ユーリの最後の言葉がよく聞き取れなかったが、とても不穏なことを言っていた気がする……。ちょっと距離を置こうかな……。
「それより、課題は達成できた?」
「試験は中止だってさ。 というかこんな状況で試験の心配してるのはお兄ちゃんぐらいだよ……?」
「流石はニアさん!向上心が高いですわ!」
「ティーナちゃん、お兄ちゃんをおだてないで……! 今お説教中なんだから!」
ユーリもクリスティーナをいつからかティーナと呼ぶようになった。
きっと僕の真似をしているのだ。
二人が仲良くしてくれるのは僕としても嬉しいので、真似をしたことは不問にしようと思う。
「わかりましたわ! ワタクシ、お友だちであるユーリさんのご迷惑になるようなことはいたしませんわ!」
ティーナは元気が良いなぁ……。
「はぁ……。 ……それで、回復魔法をかけてもらってるようだけど怪我しちゃったの……?」
「ニアさん!怪我したんですの!?」
ユーリは疲れているような気がするなぁ……。
「なんだか疲れてるみたいだね? ユーリも回復魔法かけてもらうと良いよ。 僕も全然怪我はしてないんだけど、温泉みたいで気持ちいいよ?」
僕が言ったことを聞いていた治療師の人はなんだか怒ったような顔をして、持っていた木の杖で僕の頭を思いっきりぶん殴ってきた。
「怪我をしていないならあっち行ってください!! まったく!こっちは忙しいっていうのに……!」
治療師の人はプリプリと鼻息を荒くして、次の怪我人のもとに行ってしまった。
「ちくしょう!!僕は怪我人だぞ!!」
なんて野蛮な奴だ……!
治療師のくせに怪我人を増やしやがって……!
「……お兄ちゃん!!」
ユーリがとても怒っているので、このぐらいにしといてやるか。
怒られるのが怖いとかそういうわけではない。本当だ。
、夕方の鐘が鳴るころには王都での魔物の討伐が完了したという伝令の人の報告により、僕たちは学園に戻れることになったのだった。
*
王都を目指して騎士たちに同伴されながら皆で歩いていた。
普段は馬車で30分ぐらいの道のりなのだが、歩くともう少し時間がかかる。
それに足が疲れる。
走り込みは続けているが、だからと言って歩いたり走ったりするのが好きなわけではない。妹を見守るために必要なことだから続けているだけなのだ。
「しかしよぉ、なんでスタンピードなんて起こったんだ……?」
避難所ではずっと寝ていて事情をよくわかっていないダンが喋りかけてくる。
しかし、僕もよく知らないので、冷たくあしらっておこう。
「知らないよ。それは騎士団が調べることでしょ?」
「んだよ……冷てぇ奴…… 暇だから話題を振ってやったんだろうが……」
ダンが口を3の形にして拗ねているが、全然可愛くないのでやめてほしい。
「ダンはぐーすか寝てたから元気いっぱいなのかもしれないけど、僕は疲れてるんだよ」
「だったらお前も寝れば良かったじゃねぇか」
「僕は繊細だからね。あんな状況では寝られないよ」
「俺がガサツだって言いたいのかよ……?」
「いや、怖い思いをしている人もいるのに無神経だなって」
「お、俺だって疲れてたんだ……仕方ねぇだろ……」
ダンの奴がシュンとして項垂れているが、全然可愛くないので酷い目にあえばいいと思う。
「お兄ちゃん!ダン君をいじめるのはやめなさい!」
ダンのせいでユーリに怒られてしまった。
くそう!むしゃくしゃする!!
頭を掻きむしり、爪をガシガシと噛む。
「ユ、ユーリ……」
ダンの奴がユーリに庇われてポッと頬を染めているが、全く可愛くない。……そろそろくたばってくれないかな……。
そんなやりとりをしていると次第に王都が見えてくる。
「皆さん!王都が見えてきましたわ!」
ずっと会話に入る隙を伺っていたのだろう。
ティーナが僕たちの間にグイっと割って入ってくる。
「やっとシャワーを浴びれるよ……」
ユーリが疲れた表情で呟く。
「やっとちゃんとしたメシが食えるぜ! どっか店に寄っていくか!?」
「魔物の襲撃に遭っているようですし、流石にお店は閉まってるんじゃないんですの……?」
「え……まじかよ……! 俺がどれだけ待ち望んでいたと思ってるんだ! こんなときこそ店を開けるべきだ!炊き出しとかやれ!」
ダンが喚き出したのを聞いたのか騎士の人が口を挟んでくる。
「今回の件で、住む家を奪われた者も多くいるはずだ。 王都の広場に行けば、騎士団が炊き出しが行われているだろう」
「え!本当ですか!? おい!ニア!炊き出しやってるってよ!早く行くぞ!!」
「……ぐぇっ……!」
僕は例のごとく首根っこを捕まれ、物凄い勢いで連行されていく。
「ちょっとお兄ちゃん!また勝手にどっか行かないで!」
「ワタクシもご一緒いたしますわぁ!」
「おい!君たち! 隊列を乱すんじゃない!!」
突然走り出した僕たちを静止する騎士の人を無視して、ユーリとティーナが僕を手に携えたダンに追従する。
しかし、僕が主体的に行動しているわけではないのは一目瞭然だと思うのだが、ユーリの中の僕は勝手にどこかへ行こうとしているみたいだ。
僕の首を起点として体が地面と平行になるほどの勢いで引っ張られているのが、目に入っていないのだろうか。
それから数分後に僕たちは王都へと帰り着いたのだった。




