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第53話 目には目を、歯には歯を、ERAにはERAを


 昨日は仕込みが終わって帰ってきたのが、午前零時近くになってしまった。

 ユーリに関しては女子寮で寝るように根気強く言い聞かせていたら、口を3の形にして拗ねていたが、なんとか引き下がってくれたため、僕が抜け出していることは気付かれていないはずだ。

 ダンは同じ部屋だが、奴は寝てしまえば朝まで起きることはないので気にしなくても問題はなかった。そのまま目覚めなければ僕の憂いも晴れるのだが……。


 ダンジョンで多少仮眠はとったのだが、予想以上に疲れていたようで、シャワーを浴びたらすぐに寝てしまった。


 寮の部屋は贅沢なことにシャワー付きなのだ。ただし、お湯が出る魔法石については自腹だ。

 ダンは使い方がわからないようで、いまだに濡れタオルで体を拭いている。

 毎日のように奴の裸体を見せつけられるのは気分が悪いので、何度も使い方を教えたのだが、理解できないようだった。きっと脳みその作りが原始人なのだろう。


「お兄ちゃん、まだ寝てるの? 今日は試験の日だから早く行かないとだよ?」


 夜中に忍び込んでくることはなくなったが、早朝、まだ僕が寝ている間にベッドに潜り込んでくるのだ。

 本人曰く、僕を起こしに来ているだけで、何もやましいことはないと言い張っている。

 やましいことというのは何なのだろう。やましいことをしているからそんなことを言っているのではないのだろうか。


 そろそろ弟なのか、妹なのかはっきりしてほしいものである。

 このままでは取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれない。


「起きてるよ。だからちょっとそこをどけてもらえないかな」


 勝手に僕の腕を枕にしているので、腕がとても痺れている。

 いたずらをしてしまいそうになるが、グッと堪える。


「お兄ちゃん、夜中はどこに行っていたの……?」


 ドキリと心臓が跳ねる。何故知っている……?

 まさか、また夜に侵入を……?

 いや、余計なことを言うわけにはいかない。

 この弟はお兄ちゃんである僕に対して容赦なく鎌をかけてくることがあるのだ。

 僕は学習しているのである。


「え……うんと…… えと……えと……なんのこと?」


「やっぱり……どこに行ってたの……!? また何かトラブルに首突っ込んでるんじゃないよね……!?」


 ごまかし方については未だに学習できていなかったようだ。


「なんだとう!? 僕だって好きでトラブルに巻き込まれているわけじゃないんだ!!」


 悔しくて涙が出てくる。


「……はぁ……お兄ちゃん……鼻チーンって」


 鼻にあてがわれたハンカチにズビビーっと鼻水をぶちまける。

 僕は泣くときは涙4:鼻水6の割合なのだ。


「ほら、もう行くよ! 本当に試験に間に合わなくなっちゃうよ?」


 ユーリの奴に手玉に取られている感じがするのは悔しいが、夜中に抜け出したことは有耶無耶にできたので良しとしよう。





 僕たちは試験のためにダンジョンに来ていた。


 今日の僕のおべべはダンジョン用の一張羅だ。

 実は、リアクティブアーマーを自作したのだ。


 入学式の前日に見た悪夢でアーサーにナイフを突き刺し、僕が木端微塵に大爆発したやつだ。

 目が覚めた後はとても気分が悪かったが、僕はこの悪夢を逆に利用しようと思い立ったのだった。よく考えてみると、あれは悪夢ではなく実は天啓だったのではないだろうか。

 アーサーがリアクティブアーマーを着ているのであれば、僕だって着るまでだ。


 作り方は簡単だった。炎耐性があるファイアリザードの鱗をふんだんに使った防具を購入し、それに爆発の魔法石をペタペタと敷き詰めて作ったのだ。

 ちなみにファイアリザードの防具はティーナに買ってもらった。僕はお金を持たされていないのだ。


「ふふ……ニアさん、とても似合っていますわ!」


「うん、ありがとう」


 爆弾の魔法石付きファイアリザードアーマーの上からローブを羽織っているので、見えないと思うのだが、どうして着ていることを知っているのだろう……。

 よしんばローブの隙間から見えていたとしても、爆弾を敷き詰めているので原型を留めていないはずである。


「初めてお友だちに贈り物を贈ってしまいましたわ!感激ですわ……!」


「ありがとう、とても嬉しいよ」


 ティーナが嬉しそうで僕も嬉しいよ。


 そんな話をしていると、徐々に学園の生徒が集まってきて、とても混雑してきた。


 ダンジョンで活動している他の冒険者の迷惑にならないのかと思うのだが、この日は冒険者ギルドの協力を仰いでいるのだとか。

 学園の教員だけでは、一学年百数十名の人数をフォローできないため、冒険者を雇っているらしい。


 ダンジョンに入るのは自己責任であるとは言っても、学園の試験で利用する以上、学園側が何も対応しないのは無責任であるとの配慮だろう。

 皆自分の身が可愛いのだ。それは組織であっても変わらない。

 何か問題が起きた時に学園は何もしていませんでしたでは、被害者の家族は納得しない。

 リスクを考慮して最善の対応をしているというポーズは最低限必要であるということだ。


 この世界にもモンスターペアレントというのは存在するということなのだろう。

 しかも身分なども違うので、前世よりも厄介そうだが、子どもが試験で命を落としたとあれば、モンスターになるのも頷けるというものだ。


 そんなことを考えていると、学園の教員が声を上げる。


 制限時間がどうとか、四階層より下に行くと失格だとか説明をしているが、僕にはそんなことを聞いている暇はないのだ。


 とりあえず、この人混みの中からフランちゃんとアーサーを見つけなくてはならない。

 絶体絶命のピンチでアーサーが情けなく狼狽えているところに僕が颯爽と登場してフランちゃんを救うのだ。

 そして僕とフランちゃんの仲睦まじい姿を見たアーサーがハンカチを咥えてキーキー喚く姿を拝んでやるのだ。

 それを達成することこそが僕のアーサーへの復讐となるのだ。

 フランちゃんを横取りされた僕の気持ちをせいぜい思い知るがいいさ……ふふふ……





 アーサーたちのパーティはダンジョンを進んでいた。


「緊張しますね……」


 フランが表情を硬くして呟く。


「D級の魔物なんて、セシルたちなら一人でも倒せるんだから大丈夫だって!」


 パーティの仲間であるセシルが声をかける。


 フランの彼女に対するイメージはあざとい女というイメージだった。

 幼い顔立ちで、桃色の綺麗な髪を耳より高い位置で二つに束ねている。

 身に着けている装備は、露出が多く今から戦闘に行くとは思えない格好だが、動きやすさを重視しているデザインが人気の防具らしい。

 彼女は体も小さく、動き回って敵をかく乱することが得意な戦闘タイプであったため、そういった防具を好んで着用している。


 フランからしたら、そういった防具を選んでいるのは、別の意味が含まれているのではないかと、疑いの目で見ている。


「油断はしない方がいいよ。 俺たちは確かに実力を付けてきたが、ダンジョンでは何が起こるかわからないんだ。 気を引き締めて行こう!」


「さっすがアーサーね! どんな相手でも全力ってわけね!」


 アーサーの腕に甘えるように抱きつくセシルを見て、フランは思わず声を上げてしまう。


「あっ……!」


「セシル、これじゃあ剣が振れないよ」


 アーサーは剣と魔法を駆使して戦う魔法剣士スタイルのため、腰には片手剣を携えている。


「……ぶー」


 アーサーにすげなく対応されたことに拗ねたような表情をするセシル。

 その姿も男を魅了するために計算されつくした表情であり、フランとしては彼女がアーサーに言い寄る姿を見ると、どこか焦ってしまう。

 それがどういう感情なのかは彼女自身はまだ気付いていなかったのだが。


「でもアーサー、早く行かなくて大丈夫なの? 他の生徒たちは皆慌てて行っちゃったし、良い狩場はもう抑えられてるんじゃないの?」


「大丈夫だ。俺たちはこれから四階層に向かう。 そこまで行けば他の生徒も少ないはずだからね」


「よ、四階層……」


「もう!今日のフランはなんか変だよ? 四階層なんて何度も行ってるんだから大丈夫だって!」


「まあ、緊張するのは分かるよ。 あそこは少ないが、D級でも上位の魔物が出現することがあるからね」


 アーサーたちはこの試験のために毎日のようにダンジョンへ赴いていたこともあり、五階層までは行ったことがあった。

 安全マージンを十分に取って潜っているので、実力としては六、七階層までいけるほどはあるはずなのだが、フランがここまで緊張しているのには理由があった。


 なんとなくではあるのだが、今日のダンジョンは少し雰囲気が違う気がしたのだ。


「い、いえ、言葉にはできませんが、なんだか嫌な予感がして……」


「なーに言ってんの! 少し緊張しすぎなんじゃない?」


「俺には感じないけど、フランが言うならより一層警戒する必要があるかもしれないな」


 フランの発言を信用して慎重に進むと言うアーサー。

 自身の根拠のない言葉を信じてくれたのかと、アーサーの言葉を嬉しく感じ、自然と口角が上がってしまうフラン。


「む……むむ……」


 そんなフランを見て不満そうな表情を浮かべるセシル。




 それから更に下層へと進んでいくと、だんだん生徒の数が少なくなってきた。

 アーサーは、いつもより僅かに魔物の数が少なく感じていた。

 フランが違和感があると言っていたことでバイアスが掛かってそう感じてしまっているのか、何となく細かいことまで気になってしまっていた。


「確かにいつもとダンジョンの様子が違う気がするな……」


「魔物の数少ないねぇ」


「見かける魔物も少し強そうですね……」


 彼らは毎日のようにダンジョンに潜っていることもあり、その変化を敏感に感じ取っていた。


「さっさと課題を達成させて戻った方がいいかもな…… ここらは魔物の数が少ないし、四階層に早いところ進もう」


「そうだね!ちゃっちゃと片付けちゃおう!」


「が、頑張ります……!」


 アーサー達は警戒を強めながらも四階層に進んでいく。


「アーサー君、やっぱりちょっと魔物が少ないような気がします……」


「まあ、とりあえず手ごろな魔物を見つけて試験を終わらせよう」


「…………ねぇアーサー……なんかおかしいよ……」


 すると、セシルが違和感に気付く。

 セシルは風と土の魔法を得意とし、パーティーでは斥候の役割を果たしている。


 そんなセシルが強烈な寒気を感じていた。


「セシル、どうしたんだ……?」


「が、学生!?まだこんなところにいたのか!」


 アーサーがセシルに声をかけると、ダンジョンの奥から焦ったようにこちらに向かってくる冒険者の姿があった。


 冒険者の緊迫した様子に三人にも緊張が走る。


「今すぐ出口に戻るんだ!」


「な、何かあったんですか……?」



「――――モンスタースタンピードだ」



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