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第31話 無口で仕事を確実にこなすタイプの男


 地下三階にある牢屋へと急ぐ僕たち。

 牢屋に近づくと、例のいやらしい顔を持つ盗賊の怒声が聞こえてくる。


「おらぁ!!てめぇら次こんなことしやがったら本当に全員ぶち殺すからな!! わかったか!!」


 いやらし顔の盗賊の様子から僕たちが牢屋を抜け出したことはまだ気付かれてはいないようだ。

 そこは安心だが、トーマスの奴はもう死んでしまったのだろうか。

 僕たちは更に牢屋に向かう足を早める。


 そして、牢屋の様子が見えてきた。


「おい!!次はてめぇだからな……!わかってんだろうな……! こんな状況で、いつまでも不敵な笑みを浮かべやがって…… 気持ちわりぃんだよ!!」


 いやらし顔盗賊の足元にはボロボロになったトーマスの死体らしきものがあった。

 トーマスを踏みつけながら、僕の魔法であるマジックミラーに写っている不敵な笑みを浮かべた僕に怒り狂って罵声を浴びせている。

 傍から見るととても滑稽な様子に笑ってしまいそうになる。

 いや、トーマスが死んでいるんだ!笑うなんてとんでもない……! ふ、ふふ……


「ジン君あの盗賊をやっつけてくれる?」


「はい」


 そう言うと、疾風の如く走り出し、あっという間にいやらし顔の盗賊との距離を詰める。


「……っ!なんだっ!!」


 いやらし顔からしたら、急に目の前にジン君が現れたように見えたことだろう。

 狼狽えたようにたたらを踏んで後退る。

 しかし、接近してきた者が知り合いということに気が付いて、ホッとすると同時に焦り始めた。


「ジ、ジンの兄貴……! びっくりさせねぇでくださいよ……って、この状況はですね……商品であるこいつらに立場を分からせているところでして……」


「………………」


 いやらし顔からしたら、上司にあたるジン君に子どもたちに逃げられるところであったということを知られたくはないので、汗を流しながら取り繕おうとしているのだ。

 実際には僕たちは逃げ出しているので、失態以外の何物でもないのだが、未だに僕が脱出していることに気付いていないことから、彼の認識の中では、逃げられそうだったで間違いはないだろう。


「……ジ、ジンの兄貴はここに何しに来たんです……?」


「…………………………」


 何も言わないジン君に不安を感じ、話題を変えようとするいやらし顔。


 その感情の抜け落ちた瞳を見ていると全てを悟られているような気になるのだろうか、更に言葉を募る。


「い、いやぁ、それにしても……最近どうっすか……?」


 話しかける言葉もないのか、苦し紛れに話題を絞り出すいやらし顔。


「……………………………………」


「…………す、すんません……!この騒ぎは俺の管理が甘かったせいで――」


 ジン君の圧力に耐えきれなくなったいやらし顔が自白し始める。


 その瞬間、ズパンという音と共に、再びジン君が剣を振り抜いた姿勢で静止していた。


「いやああああああああああああぁぁぁああぁぁぁぁ!!!」


 いやらし顔盗賊のいやらしい顔がゴロリと地面に転がり、首からは噴水のように血が噴き出す。

 その凄惨な光景を見た子どもたちが阿鼻叫喚している。


 僕はもう何がなんだかわからなかった。

 もう首を切るのはやめて欲しいとお願いしたはずなのにどうして同じことを繰り返すのだろうか。

 無口で仕事を確実にこなすような雰囲気を醸し出しておいて、実はあんまり仕事が出来ないタイプなんだろうか。

 いや、柔軟な対応ができないというだけで、盗賊を倒すという目的は達成しているので、仕事はこなしているとは言えるのか。

 おかしい……こういう無口の仕事できますよタイプは器用に何でも出来るのが普通のはずだろう。

 なんで首切りしか選択肢がないのだ。


 ジン君は褒めて欲しそうにこちらを見てくるが、僕にはまず確認したいことがあった。


「ジン君、僕は首を切らないでほしいとお願いしたんだけど……」


「はい、いきなりは切りませんでした」


「そ、そう…………」


 確かに僕はいきなり首はダメだよという言葉を言った記憶がある。

 しかしそれは、時間を掛けさえすれば首を行っちゃっても良いというトンチのようなことを言いたかったわけではないのだ。

 まあ、僕の言い方が悪かったと言えばそうかもしれない。

 今回の失敗を次の成功に繋げればいいのだ。

 僕は切り替えの早い男なのである。


「よし!ジン君、盗賊を倒してくれてありがとう! 悪いんだけど、この死体を子どもたちの目に付かないところに片づけてくれるかな?」


「……っ!はい……!」


 僕が褒めると、張り切って死体を片付け始めるジン君。




「ニ、ニア! トーマス生きてるよ!!」


 ジン君に死体の片づけをさせているとアネットが声をかけてくる。


 どうやら、トーマスの奴はしぶとく生き延びているようだった。

 死んでしまっては流石の僕も寝覚めが悪いというものである。

 なんにしろ生きていて良かったが、あの状態では長くはないだろう。


「早く処置をしないと、まずいわね…… まずは血を止めないと……!」


 アネットの母親であるコレットが怪我の治療には一家言ありますみたいな訳知り顔でそんなことを呟く。

 だが、確かに早く治療しないと素人目に見ても本当にやばそうだ。


「ジン君、治療できる場所とか知ってたりする?」


「はい、地下二階に医務室があります」


「じゃあトーマスを抱えてすぐに医務室に向かおう!」





***





「トーマス、目を覚まして!」


 アネットが心配そうに声を掛ける。

 流石は僕の妹だ!

 捕まって数日間の仲でしかないトーマスを本気で心配している。

 なんて慈悲深いんだっ!


 僕は牢屋の子どもたちを仲間に加え、医務室に到着していた。


 ちなみに、医務室に来たついでに折れてしまった魔道具もテープを巻いて修復しておいた。

 流石に魔法は使えないとは思うが、念の為だ。

 鈍器にはなるだろうからね。


 トーマスについては、体中に切り傷を作り見ていて痛々しかった姿が、包帯でグルグル巻きにされ、ミイラ男へと変貌を遂げている。

 いやらし顔の盗賊に死なない程度にいたぶられていたのだろう。

 トーマスが生きていたのは、いやらし顔の奴が理性を失っていなかったおかげとも言える。


 アネットの母親であるコレットが治療には一家言ありますみたいな顔をしながら懸命に処置を施していたのだが、血を失いすぎたトーマスの意識は一向に戻らなかった。

 このまま目を覚ますのを待っていたら脱獄するタイミングを逃すかもしれないから、引きずってでも連れていく必要があるな。


 うーん、何か良い方法はないものか。

 最初に考えたのはジン君に担いで運ぶ方法だったのだが、盗賊と鉢合わせた際に咄嗟に身動きが取れないと危険すぎる。

 なので、僕たちが運ぶのが得策ではあるのだが、トーマスは最年長ということもあり体が皆より大きいので、運ぶのに苦労すると思うのだ。


 どうにかして、トーマスを見捨てる以外の方法で、脱出する方法はないものだろうか。

 トーマスを見捨てるという選択を取る場合、本当にやむを得ない状況でなければならない。

 そうでなければ、僕のイメージダウンになってしまうからだ。

 僕自身のイメージ戦略も視野に入れながら、自分たちが生きて脱出する方法がないものか、頭を悩ませるのだった。



 

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