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第24話 僕ってもしかして運が悪い?


 僕がアネットに後ろから抱き着かれたことにより、正気を失い発狂したことで、期せずして作戦が開始されてしまった。


 トーマスが慌てふためく中、僕は冷静だった。

 既に僕の魔法は発動済みであり、僕の役目が終わっているからとかそんなことではなく冷静だ。

 どちらにしろ盗賊を呼び寄せないといけないのだ。

 今まさにそのタイミングが来たというだけで、焦るようなことはない。

 作戦をしっかりと立てているので、落ち着いて動けばいいだけなのに、トーマスの奴が愚かにも慌てふためいている姿が滑稽に映る。

 こんなのがしっかりした作戦なのかとトーマスは不満に感じているかもしれないが、群れの長である僕が完璧だと豪語しているのだ一介の民衆には文句は言わせない。


 そもそも今回の作戦はシンプルなのだ。

 トーマスの奴が長々と何を準備をしているのかは知らないが、元々準備なんかは必要ないのである。


「作戦開始っ!」


 僕の鶴の一声により、子どもたちが慌てて動き出し、僕の前に壁を作るように横一列に並ぶ。盗賊が入ってきた際に一斉に飛び掛かるためだ。


 先ほどの盗賊の咆哮を聞く限り、かなり頭に血が上っているように思えるが、あいつは出会った時から怒っていたし、その状態が普通と考えれば、いつもよりちょっとイラついているかなぐらいなので、理性を飛ばすほどでは全くないはずだ。

 僕たちが殺されてしまうことはないのではないだろうか。根拠はないけど。

 叫び声を聞いただけで、人がどのくらい怒っているのか判断できるわけがないのだ。


「てめぇら……今度という今度は許さねえ…… 頭ぶっ壊れても文句言うんじゃねえぞ、おらぁ!! …………?」


 牢屋にたどり着いた盗賊はそのいやらしい顔に疑問を浮かべていた。


「な、なんだ……こりゃあ? どうなっていやがる……? ……なんで誰もいやがらねぇ!! 逃げやがったのか!?」


 いやらし顔の盗賊は困惑したようにそんなことを言っている。

 しかし、僕たちは逃げたわけでも消えたわけでもいない。

 今まさに盗賊の目の前にいるのだ。


「……はっ! 鍵は!?鍵は閉まっていたはずだ!」


 いやらし顔盗賊は牢屋の鍵が閉まっていることを確認するために鍵を取り出した。

 そして、閉まっていた牢屋の鉄格子が開かれる。

 まるで、狐につままれたようにぽかんとした表情を浮かべ、フラフラと牢屋の中へ入ってくる。


「……ほ、本当にいやがらねぇ…… 鍵は閉まっていたはずなのに、なんで!? …………やべぇ……やべぇよ…… このことがバレたら…… かしらに殺されちまう……」


 青い顔をしてブツブツと呟くいやらし顔。


 これが僕の自作魔法による効果である。

 その名もマジックミラーだ!あの夢がいっぱい詰まったアレである。


 現在僕と子どもたちは、牢屋の壁側に寄って水のカーテンの内側にいる。

 内側から外を見るといやらし顔盗賊の様子がはっきり見えているのだが、盗賊側から見たら牢屋の中には誰もいないように見えていることだろう。


 この魔法はマジックミラーとは言うが、目の前のものを映し出すわけではなく、指定した場所の景色を映し出すのである。

 今いやらし顔盗賊が見ている景色は、僕たちがいる牢屋の向かいの側にある誰もいない空っぽの牢屋の内部なのだ。


 設置型の魔法であり、発動してしまえば制御などは必要なく、発動に込めた魔力が切れるまで維持されるため、とても便利な魔法だ。

 とはいえ水なので普通に通り抜けられてしまうし、触れれば水面に揺らぎが出てしまい見破られてしまうという欠陥があるので、使用の際には注意が必要である。

 僕はこの魔法を妹の部屋に設置し、存在を悟られることなく、いつでも観察できるようにしようと目論んでいたのだが、こんなところで役に立つとは思わなかった。


 とはいえ、今がチャンスだ!


「今だっ!!」


 トーマスが号令を出して、水のカーテンから飛び出していく。それに続いて他の子どもたちも一斉に飛び掛かっていった。


「っ!!!!なにっ!?なんだ……! てめぇら一体どこから……! くそ……いで、いででで!!! やめ、やめやがれぇ!! いでででで!!!」


 トーマスが切り込み隊長となり、盗賊をぶん殴る。

 それに続き、次々と子どもたちが盗賊に攻撃を与える。


「て、てめぇら! ……いで! ……いてぇなぁ!!」


 トーマスたちにボコボコ殴られたり、ガシガシ噛みつかれたりして悶える盗賊。

 やはり、子どもの力ではいくら不意打ちだったとしても早々に無力化できるわけではないようだった。

 しかし、思った通り獣人の子どもたちの攻撃は嫌がっているように見えた。


 これだけ騒いでも増援が来る様子もなかった。

 やはり騎士団が来るというのは本当で盗賊たちはアジトの移転に忙しく、牢屋の巡回に割く人員が不足しているというトーマスの予想が正しいのかもしれない。

 また、あのいやらし顔盗賊が騒いだ僕をしばいたときにどれだけ騒いでも声は届かないと言っていたことも増援が来ない理由の一つだろう。


 作戦は順調に進んでいるかに思えたが、盗賊もやられっぱなしではなかった。


「くそ! いい加減にしやがれぇぇぇ!!!」


「ぐあっ!!」


 不意打ちを喰らい攻撃を受け続けていた盗賊が体勢を立て直した。

 トーマスたちは盗賊に投げ飛ばされて、地面に転がる。

 盗賊は、こめかみに青筋を立て、まるでピキピキと音が鳴っていると錯覚するほどにブチ切れていた。

 そのいやらし顔を憤怒に染めて、トーマスたちを睨み付けている。


「こんなことして、タダじゃ済まさねぇからな……? 覚悟しとけ今からお仕置きの時間だ!」


「くっ!!」


「ひっ!!」


 トーマスは悔しそうに歯噛みし、子どもたちは恐怖に怯えた表情を浮かべる。


 このままでは作戦が失敗に終わってしまう。

 トーマスは何をやっているんだ!


「トーマス!早くそいつを倒すんだ!」


「分かっている!」


「なんだぁてめぇ……? まだやるつもりかぁ? ちょっと奇襲が成功したからって調子に乗ってんじゃねぇぞクソガキがぁ!!」


 仕事の遅いトーマスに慌てて指示を出すと、苛立たしさを隠そうとせずにトーマスが返事をする。

 僕に楯突く余裕があるなら早く仕事を終わらせてほしいもんだ!!


 盗賊はトーマスに向かい合い、その怒りをぶつける。

 そのいやらし顔が怒りに歪んでとても恐ろしい。


 アネットはというと恐怖に震えて僕にぴったりとくっついており、どうやら僕の紳士度を高めることに専念しているようだ。

 このままでは早々に正気を失くして、アネットに紳士的行為を遂行してしまうことになるだろう。

 補足ではあるが、紳士度とは妹に対する助平度合いであり、紳士的行為とは妹にいたずらをすることを指す。

 僕は妹を愛しているだけであり、ロリコンではないので誤解しないでもらいたい。


 そういう事情だから、早くその盗賊をぶっ殺してくれ、トーマス! 僕の気が確かな内に!


「うおおおおお!!」


「やんのかてめぇ!!」


 僕の祈りが通じたのか、トーマスが盗賊に果敢に飛び掛かる。

 しかし、トーマスの右ストレートを盗賊はいやらし顔をしながら上体を反らすことによって、簡単に避けてしまう。


 トーマスは、攻撃は避けられてしまったものの、多少武術の心得があるのか構えがなかなか様になっていた。

 対する盗賊は完全に舐めきっている様子で腕をダランと下げている。


 避けられてもトーマスは諦めずに必死に盗賊に攻撃を繰り出す。

 相手に休ませる暇を与えさせないためなのか、休みなく攻撃を放っていく。

 盗賊の方も黙って攻撃を受けているわけではなく、トーマスに着実にダメージを与えていく。

 数分間の休みなしの攻防戦。

 トーマスは盗賊にボコスカに殴られ、相当ダメージが入っているように見えるが、盗賊にも何度か攻撃を加えることができており、お互いに息が上がってきている。

 盗賊は普段から酒にタバコに不摂生をしているためか、スタミナに関しては、まだ年齢の若いトーマスに軍配が上がりそうだ。


 意外と勝負の行方が分からなくなっている。

 今のまま行けば、勝ててしまうのではないだろうか。


 しかし、勝負は一瞬で決まった。


 殴られ続けてだんだんと機嫌が悪くなってきた盗賊が、一際強い一撃をトーマスの顔面に放った。


「ぐあっ!!」


 トーマスが悲鳴とともに地面に伏せられ、顔は見ていられないほどにパンパンに腫れ上がっている。

 トーマスがノックアウトされたことに子どもたちの表情は絶望に染まる。


「はぁ……はぁ……調子に乗りやがってこのチンカス野郎が……」


「く、くそ……ゴホッゴホッ……」


「もう許さねぇ……てめぇだけはぶっ殺す! それとお前もだ!クソガキ!」


 トーマスとともに何故か僕もご指名を受けてしまった。

 どうして僕はいつも貧乏くじを引いてしまうのだろうか。

 おかしいではないか!僕はずっとおとなしくしていたはずだ!


「な!やめてくれ! 殺すなら僕だけにしてくれ!」


 僕が心の中で盗賊に罵詈雑言をぶつけていたら、トーマスがそんなことを言い出した。

 実際に声に出してしまったら真っ先に殺されてしまうので、無言を貫いていたのが功を奏したようだ。


 いいぞ!ナイスだ!トーマス!


 すると盗賊はいやらしい顔を更にいやらしく進化させて口を開く。


「へへへ!そんなこと言われたら俺はどうしてもそっちのクソガキから殺したくなっちまったぜぇ?」


 くそおっ!なんで余計なことを言うんだ、トーマス!

 この考えなし!あんぽんたん!


 何故僕は、こうも運が悪いのか!

 せっかく大人しくしていたのに、意味がなくなったではないか!


 すると、盗賊は腰から剣を抜き放ち僕の方へ向かってくる。


 あわあわあわ

 どうしようどうしよう


 僕はこういった切迫した状況に弱いのだ。


 しかし、僕の後ろには守るべき妹が存在する。

 ここで、情けなくあわあわ慌てている場合ではないのだ。

 慌てていることを悟られないように、ついでにアネットにかっこよく思われたらいいなと、外面だけは精一杯の不敵な笑みを浮かべる。


「さっきからてめぇのその司令官気取りの不敵な笑みがムカついてたんだよ…… ぶっ殺したらどんな顔に変わるんだろうなぁ……?ヒヒヒヒヒヒ!!!」


 また僕は間違えたのか!?

 僕がアネットに対して不敵な笑みを見せ付けていたのが、そんなに悪いのか!!

 何故そんな理不尽な理由で葬られなければならないのだ!おかしいじゃないか!!


 盗賊が僕の前まで来て剣を振り上げる。


 くそう!こうなったら最後までかっこよく死んでやるよ!来いやぁ!


 僕は不敵な笑みのまま盗賊を見上げる。


「この状況でまだ笑ってやがるのか……気味が悪りぃガキだぜ…… まあ殺すことには変わりねぇ。死ねやぁ!!」


「――ニア!!!」


アネットが僕の名前を叫ぶ。


その刹那、剣が振り下ろされ僕はその短い人生に幕を降ろす――



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