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第2話 マッドな実験


 ――僕の人生は終わったかに思えたが、目が覚めた。


 知らない天井だ。


 どうやら僕は奇跡的に生還していたようだ。

 あの状態から生き延びられるとは日本の医療技術も進歩しているということかな。

 そう感心していると、目の前に巨大な女の顔がぬっと顔を出した。


「おんぎゃー!!」


 あまりにも巨大過ぎる顔面にびっくりして泣いてしまった。

 何故か感情が制御できず、涙が溢れてくる。

 それになんだかうまく喋れない。


「オンブ、ンブリ、ゴリアリアス?」


 穏やかな表情をして、僕に謎の言語を話す女。優しそうな人である。

 よく見ると、艶やかなブロンドの髪と海のようなブルーの瞳で、なんだか外国人のような顔立ちをしている。


 ははーん、さては異世界転生ってやつだな?


 僕が読んでいるライトノベルではトラックに轢かれると、異世界に転生すると相場が決まっているのだ。

 その証拠に自分の身体を見ると、とても小さな手足が生えていた。

 まあ、それ以外に考えられるとしたら、トラックに轢かれた時の身体の状況からして、手足が千切れたり捻じれたりしていたので、サイズ違いの手足を移植したという可能性は確かに捨てきれない。

 しかしだ、現在、目の前で僕をあやしている謎の女の説明がつかない。

 運び込まれた病院が外国であるという可能性は限りなく低いのである。

 このことから、僕は異世界へ転生したということになる。


 そうと分かれば、やることは一つしかない!


 今度こそは前世では叶えられなかった妹同意えっちを達成するために、僕はこの異世界を満喫しようと決意した。





***





 僕が転生してから3年の月日が経った。


 この3年の間、僕はただ指を咥え、鼻水を垂らし、糞尿を垂らしてきたわけではない。

 目的を達成すために、この世界のことを知っていく必要があったため、無垢な赤ん坊になりすましながら、情報を集めていたのである。


 僕が住んでいるのはフラタール王国にあるトオイという名前の辺境の村だ。

 トオイ村は地球の中世ヨーロッパ的な感じの牧歌的な雰囲気がある。

 住民たちは、畑仕事や家畜の世話で、なんとか生活していた。


 また、村の近くの森には魔物が多く生息している。

 魔物も立派な食料となるため、週末になると村の男たちは狩りに出て獲物を得ていた。

 これがそこそこの値段で売れるらしく、狩った魔物を売ることで多少余裕のある生活ができている。


 地球の中世ヨーロッパでは、農民は朝から晩まで働き詰めで、家も小さく、家族で一部屋に寝るという貧しい暮らしをしていたらしいけど、この村では魔物による収入もあり、そこまで働く必要はないみたいだ。

 僕には一日中働いている暇なんてないので、その点に関しては好都合だ。


 そんな感じで、地道に情報を集めていた。

 だが、3歳児の行動範囲は狭く、外出などできるはずもなかったため、両親の会話か、家にある数冊しかない本から情報を得るしかなかった。

 本は高級品であり、農民ごときが所持しているというのは稀だが、両親は過去に冒険者として活動しており、多少稼ぎがあったらしい。

 その活動の最中、突如、僕が発生したということだ。

 男女で冒険をして子どもが発生するというのは、自然の摂理なのだ。

 僕をお腹に宿したままでは、冒険者も続けられないため、この辺境の村に定住したと聞いている。


 3歳児にこんな話をしても話半分以下も分からないだろうに、父親は酒を飲んで酔っ払うと、冒険者時代の話を武勇伝のように語りだすのだ。

 正直なところあまり興味は無かったが、僕は模範的な児童として、目一杯リアクションをしてあげている。まったく困った父親である。


 そして、この世界には魔法が存在する。

 母親が台所で火をつけるために炎を指先から出していたのをこの目で見たのだ。


 魔力というのは、大昔に神様たちが大喧嘩をした影響によって、発生した不思議エネルギーらしい。

 その大喧嘩は天地をひっくり返すような壮絶な戦いだったらしく、人間たちや動物たちはドミノのようにバタバタ死んでいくような状況だった。


 争いが激化していく中、戦いに参加していなかった一柱の神がブチ切れた。

 近所で毎日のようにお祭り騒ぎが起きていたのだから、ストレスが溜まるのも無理はない。しかも自分が参加していないお祭りでだ。

 狂ったように暴れ回った神は、全ての神々を葬った後、自身も姿を消したという。


 そこからは人類繁栄の時代となり、世界の生態系が大きく変わっていく。

 不思議エネルギーである魔力の影響により、動物は魔物に進化し、またそれは人間にも変化をもたらした。

 獣人族や精霊族など、多くの種族が生まれたのだそうだ。


 こんな感じのことを毎晩のように母親が僕を寝かしつけるときに聞かせてくるものだから、うんざりしている。しかも無駄にディティールが凝っていて迫真なのだ。

 子どもに話すにしては、あまりにも血生臭すぎるが、この世界では常識らしい。

 世界の成り立ちを教えるために必要なことなのである。


 こうして集めれる範囲では情報を集めたので、計画を次の段階へと進めていく。

 まずは両親に妹をこさえてもらわないと話が始まらない。

 両親もまだ若い男女であり、毎晩エキサイトしている声が聞こえてくるので、心配しなくても2、3人はすぐに出来るだろう。

 しかし、問題となるのが、生まれてくるのが妹なのか、弟なのか、である。

 これに関しては運次第であるが、出来ることは試しておきたい。

 妹が欲しいあまりに前世で得た知識をフルに活用することにしよう。


 そも、男女の産み分けは可能なのか……当然の疑問である。

 答えを言うと――確実性はないが、多少操作することは可能だ。

 いくつか方法はあるが、今回はシェトルズ法というものを試してみようかな。

 僕が調べた中では確実性が高そうだったからだ。


 それでは早速、性別が決まる仕組みをお教えしよう。


 染色体というものがある。

 ……染色体が何か、なんて質問はしてはいけない。

 僕だって知らないことはあるのだ。


 雄しべと雌しべは染色体という情報を持っている。

 XとYという情報だ。

 その情報の組み合わせ次第で、性別が決まるのだそうだ。


 Yを持つ雄しべが雌しべと出会うと男の子、Xを持つ雄しべが雌しべと出会うと女の子が産まれるのである。


 そして、重要なポイントとして、Yを持つ雄しべはアルカリ性の環境で生き残りやすく、Xを持つ雄しべは酸性の環境で生き残りやすい。

 つまり女の子を産むためには、Xという極秘情報を持つ雄しべをターゲットに接触させなくてはならない。


 そうなると、雄しべと雌しべが出会う場所の環境を事前に知っておく必要がある。


 内部は、雑菌の侵入を防ぐために、酸性の環境となっているのだそうだ。

 それだったら女の子が産まれやすいじゃん!!と思うかもしれないが、まあそんなに慌てないでほしい。


 実は排卵日に近づくほど、出会いの場はアルカリ性になっていく。

 さらに行為中に女性が絶頂を迎えると、アルカリ性の粘液が分泌されるらしい。

 ネットに書いていたから間違いはない。


 ここまでくれば、あとは試すだけだ!

 母親の排卵日がわからないし、どれだけ絶頂するかもわからないが、僕にもできることはある!


 要はオスとメスの出会いの場を酸性にすれば良いのだ。





***





「これでよし、と」


 両親がエキサイトして疲れ果てて眠っている寝室に侵入していた。


 台所から持ってきたお酢の瓶を抱えて、暗がりに佇む僕。

 瓶のラベルにはシンプルに“酸”と書かれている。

 ……お酢、なんだよね?

 母親が料理するところを見ていたときに、確かにこれを使っていたのだから間違いはないはずだ。

 しかし、3歳児の体で大きな瓶を寝室まで運んでくるのにはとても苦労した。

 僕は、異世界に転生してからの初ミッションを成功させたのである。


 母親の腹部を眺めて、満足げに頷く。

 何をしたかって?そんなの僕の口からは言えない。

 母親の表情がちょっと苦しそうに見えるのは気のせいだ。

 恐らく、父親との行為後の余韻に浸っているだけだろう。

 仮に本当に苦しかったとしても妹のために我慢してもらうしかない。

 科学とは数々の犠牲の上に成り立っているものなのだ。

 妹の生成という禁断の扉を開いた瞬間である。


 ――うむ、実に悪くない気分だ!



※あくまでフィクションですので、絶対に真似しないでください。

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