第19話 仲間がいると気が大きくなるよね
僕は今、素敵なお部屋に招かれていた。
正面に見える空間には、鉄の棒が等間隔にはめ込まれており、隣接する通路から室内が丸見えだが、これも風情というものだろう。
通路が見える面以外は石で囲われ、床は土のカーペットが敷き詰められており、室内にいながら自然と一体になれるという一風変わったお部屋である。
ワンルームの風呂トイレなしのそこまで大きくないお部屋なのだが、既に十数人ほどの住人がルームシェアをしており、とても賑わっている。
住人の顔色があまり良くなかったりはするが、そこはご愛敬である。
そしてなにより、僕がこのお部屋を素敵であると断ずる最大の理由がある。
実は、なんだか僕の妹センサーがビンビンに反応している気がするのだ。
まだ住人たちとコンタクトは出来ていないのだが、おそらく、この中に僕の新しい妹候補となる逸材が眠っているのではないかと疑っている。
僕の妹となるべき存在が今まさに目の前にいるのではないかと考えると僕の鼻息も荒くなるというものだ。
住人は8歳から15歳ぐらいの少年少女たちであり、その三分の一ほどが獣人の特徴である耳と尻尾を搭載していた。
獣人の特徴は見た目が可愛いというだけではない。
その身体に内包する力も強く、子どもであっても人間の成人男性ほどの力を持つ者も存在するほどだ。
そんな彼らは僕の興奮した様子を見て、警戒の目を強めている。
というのも獣人はその優れた五感により、人の感情の機微を感じ取ることが得意なのだ。
つまり、僕の紳士度が高い状態であるということを察知されてしまっているのだ。
ちなみに紳士度というのは、妹に対する僕の熱い想いを数値化した指標のようなものであり、紳士的行為とは、自身の高まった紳士度を解消する行為である。
主に、妹の行動観察や下着の収集、妹へのおさわりのことを指すのだ。
変態的行為と混同されがちであるが全くの別物であると言っておこう。
そんな邪な気持ちを妹に向けるとは言語道断である。
そのため、今もなお、まとめ役であろう少年が子どもたちを庇うようにして立ち塞がり、未だに接触ができていないでいる。
うーん……
僕は君たちと同じように、この牢屋ような部屋に招かれた無垢な子どもなのだから、そこまで警戒する必要はないと思うのだけど……
数十分前、僕はユーリたちとはぐれて、恐ろしい形相をした盗賊に捕まった。
盗賊は獲物を逃がしたためか、これまで何人も凌辱してきたであろういやらしい顔を怒りに歪ませており、背筋が凍るような思いをした。
だが、どうやら僕のような子どもはその盗賊のストライクゾーンからは外れているようだったので、小さく安堵の息を吐いたのだった。
森の中を引きずられ遺跡のような場所に連れていかれた僕は、なんだかイライラした様子のいやらしい顔の盗賊に尻を蹴られ、この牢屋に放り込まれたのだった。
ユーリのことが心配ではあったが、盗賊に気付かれてしまう可能性がある魔力探知を使うわけにはいかないので、大人しくしているしかなかった。
ダンについては、そのゴリラのような生命力の強さでなんとか生きているだろうと思うが、死んでいても問題はない。
将来シアちゃんと結ばれる際に僕以外の兄がいては邪魔にしかならないのだ。
どうせいずれ始末する予定なのだから、ここであっさりと死んでいてもらった方が僕の手間が省ける。
むしろくたばっていてくれと手を合わせ心から祈りを捧げた。
また、牢屋に放り込まれても特に拘束されるわけでもなかったが、持っていた荷物は全て召し上げられた。
恐怖に震えた武器も持っていない子どもなど、取るに足らないということなのだろうか。
かくいう僕も、当初は捕まってしまったらどうなるのか不安で仕方なかったが、放り込まれた先には僕と同じような年齢の子供たちがいたことで、不幸なのは自分だけじゃないと知り、心が少し軽くなった。
僕は仲間がいると気が大きくなるタイプなのだ。
そんなわけで、今僕は子どもたちと睨み合いをしている。
動物の本能に従い、この群れの頂点に立つ必要がある。
初めての人には第一印象が大切だ。
まずは元気に自己紹介をするのが良いだろう。
「どうもぉ!!!!初めましてええぇぇ!!!!僕は!!!!ニアと言いますぅ!!!!」
僕のあまりにも大きな声量に子どもたちの体がビクンッと跳ねる。
群れのボスと認められるためには、自分という存在をより大きく見せる必要があるのだ。
相手よりも先に、元気に挨拶をかましたことで、相当なけん制になったはずだ。
会心の挨拶が決まって満足していると、僕の大声に気付いた見張りの盗賊が怒り狂ったように走ってきた。
「でけぇ声出してんじゃねぇ!!次やったらぶっ殺すぞ!!!!」
鉄格子越しに持っていた剣の鞘の部分で、ゴチンと叩かれた。
目に涙を浮かべて振り返ると、僕をここに放り込だいやらし顔の盗賊が、その特徴的ないやらしい顔を憤怒に変えて仁王立ちをしていた。
「てめぇがどんだけ騒いだところで、この地下室から地上に音が漏れることはねぇからな!!覚えとけこのタコが!!」
ちくしょう!!なんだこいつ!!
僕の縄張り争いを邪魔するな!!
でも、仕方がないので、あまり大きな声は出さないようにしようと思う。
たんこぶが増えるのが嫌とか、あいつが恐ろしいとかそんな情けない理由ではなく、ただ単に邪魔をされると僕の計画が狂うみたいなそんな感じだ。
僕を叱りつけたいやらし顔盗賊が、イラついた様子で去り際にもう一度僕の頭を叩き、持ち場に戻っていく。
それにしても皆僕に対してだけ暴力を振るう閾値が低すぎる気がするのは、どういう仕組みなのだろうか。
僕からの反撃はないと高を括っているのか、単純に僕の頭が殴りやすそうに見えるのか、いずれにしても理不尽にもほどがある。
特に身近な人たちから振るわれる暴力が盗賊と同等以上の威力であるというのは、何かおかしい気がする。
盗賊が離れたことを確認した後、気を取り直して少年たちに向き合う。
盗賊の姿が現れたことで、子どもたちは体を縮ませて怯えていた。
この群れのボスである少年がそんな子どもたちを庇うように前に出ている。
「やあ、突然すまなかったね。僕は君たちを助けに来たんだ」
盗賊にぶん殴られた頭が痛むが、それをおくびにも出さず、僕は子どもたちを安心させるようにかっこよく声をかけた。




