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第18話 ブチ犯したいあの子


 騎士の一人が無残な死を遂げた後、あらゆる手段を施してユーリをあやすことに成功したギルバートとダン。


 騎士を無情にも殺害したギルバートの頭がおかしいというのが全てではあるのだが、まだ10歳の子どもであるユーリには、責任を感じるなと言われてもそう簡単に割り切れるものではない。


 ギルバート・ブラッドリバーという人間は人を殺すことにあまりにも慣れすぎており、また力加減もよくわかっていないため、何かあるとすぐに人を殺してしまう。

 刃渡り1.8m重さ20kgにもなる分厚い鉄塊のような両手剣をその身に受ければ人体など容易く真っ二つになるのは自明の理。人間はそこまで丈夫にはできていない。

 王国最強は王国最強であるが故にそのことをよく理解していない節がある。

 だが、王国最強の人間兵器であるギルバートにかかれば、たかが部下一人殺したぐらいでは特にお咎めはない。


 そんなこともあり、いつものように部下の一人を葬ってしまったのだ。


 ユーリは気を持ち直したは良いものの、目の前で衝撃的な最期を遂げた兵士の顔が忘れられない。

 きっと、しばらくはこの恐ろしい光景を忘れることはできないだろう。もしかしたら、この先もずっと……

 そんな予感が拭い切れないユーリはその身を震わせるが、自分が今やらなければいけないことを再度認識することによって、正気を保つ。

 

(全て終わったらちゃんとお参りに来ます)


 村長の家の庭に勝手に作った墓の前で祈るように手を合わせるユーリ。


 村長はそんな姿を苦虫を噛み潰したような表情で見ている。

 誰ともしれない人間の墓を自分の家に作られた村長はとても迷惑していた。


 しかし、そうでもしなければこの場を収めることはできないと判断し、渋々墓を作ることを許可したのだった。

 というより、許可するも何も気づいた時には、ギルバートの手によって騎士の体が半分以上埋められている状況であったため、許可せざるを得なかったというのが真実だ。

 現在、地面の下にはあの可哀そうな騎士の亡骸が埋められていた。


 ユーリはしばらく祈りを捧げた後、騎士団との作戦を詰めるために会議に参加するのだった。


「皆さん取り乱してしまいすみませんでした」


「いや、元はといえば私が斬り殺してしまったのが、悪いのであって貴殿が謝る必要はないぞ」


「そうだぜ、ユーリ!本人も言ってる通りギルバートさんが悪いんだから気にするな!」


「それでも僕はあの人を忘れてはいけないと思います」


「貴殿がそう言うのであれば、あの者も浮かばれるであろう」


「ギルバートさんも反省すべきだぞ……」


 騎士団員殺人事件が起きたことにより、ユーリたちとギルバートは大分打ち解けていたのだった。

 前向きに考えるのなら、殺人が起きたことで唯一良かったことであるとも言える。

 人が一人死んで良かったもクソもないが、そうやって自分の心を誤魔化しでもしなければ、人を殺めることに慣れすぎたギルバート以外の人間はあの凄惨な事件を消化することができなかったのだ。


 そこで一呼吸置き、ユーリがニア救出のための青写真を描き始める。


「それで……作戦なのですが、盗賊も騎士団が動いているのであれば、悠長に留まることはしないでしょうが、最低でも1日から数日の猶予があると考えます」


 そこで会議に参加していた騎士団員である美青年が異を唱える。


「今この瞬間に動いている可能性も捨てきれないと思いますがねっ、相手は悪名高いブルータル盗賊団……引き際もよく理解しているはずですからねっ」


 この男はフラタール王国騎士団の副団長エリック・プラトニックラブである。

 エリックは決まったと言わんばかりに金色の長髪をしきりに掻き上げている。


「もちろん、その可能性はあります…… ただ、どんなに優れた集団でもその規模が大きくなれば、動きは遅くなります。なので、希望的観測にはなりますが、最低でも1日は逃走の準備が必要と考えました」


「なるほど……?考えなしってわけじゃないってことですか……」


 若干鼻に付く物言いにユーリは苛立ちを覚えるが、気を取り直して話を進める。


「そこで――」





***





 ユーリとダンは今ロープで両腕を縛られていた。そして、その縛られたロープの先は、鎧を脱いだ盗賊風のファッションに身を包んだギルバートの手に握られていた。


 ギルバートの顔が割れていないことを利用して、盗賊に変装し、捕らえたユーリたちを連れてアジトに潜入するという作戦だ。

 そして、隣には同じく盗賊に扮した副団長のエリックがいた。


 エリックが盗賊に変装することに決まった際、何故この私が!!だの、下賤な者共の恰好などできるか!!だの強く抵抗を見せていたが、ギルバートの剣が鞘からゆっくりと抜かれていく度にだんだんと声が小さくなり、最終的には快諾させられることになった。


 変装してみると、それまで散々抵抗していた人間とは思えないほどにノリノリで盗賊を演じていた。

 他の騎士団員は、普段から彼の無駄に高貴な振る舞いを見ていたため、盗賊など務まるのかと思えたものだったが、何故か彼には下劣な表情がとても馴染んだのだ。

 理由まではわからないが、生まれながらにして盗賊の才能があったのだと、騎士の間で囁かれることになった。


 そういった経緯があり、団長と副団長が盗賊になりすますことになった。


 そして、人質を救出したあとは、アジト近くに後詰めとして潜んでいる騎士団員たちが突入するという流れだ。


 そんな感じで、現在ユーリたちはアジトの前まで来ていた。


「誰だ貴様ら!!」


 ギルバートが、見張りとして立っていた人相の悪い盗賊に、下手をすれば唇と唇が重なってしまうのでは?という距離で凄まれていた。

 ギルバートの方が頭一つ分身長が大きいため、盗賊は見上げるような形となっており、とても滑稽ではあったが。


「私は最近この盗賊団に入団させていただいたギリーという」


 事前に決めておいた偽名を名乗るギルバート。

 ギルバートの素顔は今まで人を何人も殺ってきただけあり、険しく凶悪な顔であったため、多少丁寧な言葉遣いであっても怪しまれることはない。


「おうおうおうおう! ギリーの兄貴はお前らの不始末を片付けてきてやったんだぜぇ? 感謝の一つぐらいしてほしいもんだぜ!ったくよぉ!」


 エリックはノリノリだった。

 彼は本当に騎士団なのだろうか、過去に盗賊に準ずる何か後ろ暗いをしていたことでもあったのだろうかと、ユーリとダンが疑ってしまうほどに違和感が無かった。


「なにぃ……?ってこいつら!俺らが取り逃がしたガキどもじゃねぇか!お前らが捕まえてきたってぇのか!」


「そうだ」


「よくやった!新入り!初仕事ご苦労だったな!」


「ああ」


「じゃあそいつらを牢屋に連れて行くから渡せ」


「駄目だ」


「ん?……ああ、そうか。まあお前らが捕まえたんだしな。しゃーねぇ、最初はお前らに譲ってやるよ」


「……?」


「そのガキを犯したいんだろ?分かってる。でも次は俺だからな?」


 なんの話かとギルバートが疑問に思っていると、ユーリの方を見ながらそんなことを言う盗賊。


「いや、そういうわけでは――」


「そうなんだよ!! 兄貴はここ最近ご無沙汰だったからな、そのガキをブチ犯してぇって何度も言ってたんだよ! てことで俺らはもう行くぜぇ!!」


 咄嗟に否定しようとするギルバートを遮り、エリックが機転を利かせてアジトへ潜入しようとする。


 ギルバートはユーリの不審者を見るような視線に狼狽えるが、ここで否定してしまえば、アジトへの円満な侵入ができなくなると判断した。

 作戦のためには自身の尊厳などは二の次である。


「ああ、そうだ。 俺はこの娘を思い切りブチ犯したくてたまらないんだ。 もう行ってもいいだろうか?」


 ギルバートの不快な発言を聞いたユーリは、怯えた表情を浮かべ、自身の体を隠すように身を捩らせる。

 ギルバートは弁明したい気持ちになるが、何も言えない状況に歯噛みする。

 そもそも変装して潜り込むと提案したのはユーリであり、ギルバートのそれが演技であることは分かっているはずなのだが、何故そんな目で見られなければならないのか極めて納得がいかない。


「新入り!よぉーくわかるぜ、その気持ちはよぉ! 行ってこい!そしてイってこい!つってな! ガハハハハ!!」


 下品な笑い声を上げる盗賊が、ユーリの恐怖心を煽る。

 ギルバートは、余計な発言をする盗賊に殺意を覚え、禍々しいオーラを纏い始める。


「兄貴ぃ!やり過ぎてぶっ壊しちまわねぇでくださいよぉ? 大事な商品なんすからねぇ?ヒャハハハハ!!」


 ギルバートの不穏な様子を察したのか、盗賊を演じることに気分が高揚しているのか、どこかノリノリのエリックが声を掛けてくる。


 自身の精神を守るためにも、作戦を円満に成功させるためにも、この下衆共を皆殺しにしまったほうが良いのではないのかと、猟奇的な考えがギルバートの脳裏によぎる。

 これが作戦行動中でなければ、彼らの首と体は永遠にお別れをすることになっていただろう。


 そんなギルバートの葛藤とは裏腹に、アジト潜入作戦は滞りなく進行していくのであった――



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