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第15話 僕は自分には甘いが他人には厳しい


「ダン、試験受けるんだ?」


「あ?なんだよいきなり」


「いや、学園に行くなんて聞いてなかったからさ」


 僕たちは現在竜車に揺られながら旅路を進んでいる。

 出発から6日ほど経ち、あと1日程度で王都に着くぐらいの距離まで来ていた。


 ユーリに至っては、初めての長旅にお疲れのようで、ぐーすか寝ている。


 かくいう僕も結構疲れている。


 予想はしていたことだが、この世界にはサスペンションなど存在するはずもなく、僕は硬い荷台に何度も尻を打ち付けていた。

 竜車は馬車の超早いバージョンなので、尻にかかる負担はその何倍にもなる。

 僕の尻のライフポイントが尽きてしまう時は近い。


 そして、風呂なんか入れるはずもないので、水場を見つけたときに水浴びをするしかない。


 ユーリが水浴びをする際は、興奮したダンの野郎が覗きにいくのをしばき倒す必要があり、余計に疲れた。


 ダンの野郎をしばくのは少々骨が折れるのだ。

 身体能力だけは高いので、不意打ち、騙し討ちをして一撃で昏倒させる必要がある。


 まあ、少年の水浴びなど見ても仕方ないので、覗かせてやっても良いとは思う。

 だが、ダンの野郎だけが良い思いをすることが気に食わなかったので、止めることにしたのだ。

 僕だって覗きたいのを我慢しているのだから。

 だが、その扉を開けるのは危険すぎる予感がするので今は封印中だ。

 安易に開けるべきではないのである。


 また、寝るときは基本的に野宿だ。

 お金を節約しないといけないというのもあるのだが、そもそも泊まる宿がない。

 この発展途上の世界では、どこにでも宿があるわけではないのだ。


 なので、首都ソロルスで安宿に泊まった以外は全て野宿である。

 風が吹けば飛んでいってしまうような掘っ立て小屋のような部屋ではあったが、連日、土の上に布を敷いただけの吹きさらしの寝床で寝ていたので、屋根があるだけで、ありがたく感じたものだった。


 それももう4日ほど前の話だ。


 多少回復した体力も限界に来ているが、こんなに揺れている荷台の上で寝る気も起きないし、それ以前に寝られるはずもなかった。


 だから暇つぶしがてら、こいつと会話に興じてやろうと思ったのだ。


「まあ、親が受けてみろってな。俺は頭は悪いが結構動けるからよ」


「たしかに重たそうな体だけど結構動けるよね」


「喧嘩売ってんのかてめぇ」


 こいつの鬼ごっこのときの身軽さは人ならざる動きをしていた。

 木の枝を縦横無尽に渡っていく姿はまさにゴリラであった。


「失礼な!褒めているんだよ」


「挑発にしか聞こえないが」


「ダンは少し行間を読むことを覚えないと、もしも、万が一、奇跡的に、入学に成功したとしてもあっという間に敵を作ることになるから、気を付けた方がいいよ」


「お前、やっぱり喧嘩売ってるよな?行間を読むとかじゃなく、ちゃんと挑発してるよな?」


 こいつの賢さと外見は、本当にシアちゃんと同じ両親を持っているのかと疑問視してしまうほどに似ていない。


 やっぱりこいつとシアちゃんは実の兄妹じゃないのではないだろうか。


 まあ、今後僕とシアちゃんが結ばれ、邪魔なこいつを片付けるときに、なんの憂いもなくなるので、僕としてはその方が都合が良い。

 本当の兄妹だと、こいつがくたばったときにシアちゃんが多少なりともショックを受けることになるかもしれないからだ。


 というかこいつは魔法学園に体の動きで合格しようとしているのだろうか。

 ダンスでも披露するのかな。

 こいつの奇妙な動きを見て喜ぶ試験官がいれば良いけど、そんな奇特な人間がいるとは思えない。


 本当にどうするつもりなのか。


 まあ、こいつが落ちてくれる分には全然構わない。恥をかくのもこいつだ。


 それよりも、こいつじゃなくこいつの親の頭が心配である。

 よくもまあ、動けるからなんて理由だけで送り出す決断をしたもんだ。


 やっぱり記念受験なのか。

 こいつの親は見送りにも来なかったし、すぐに帰ってくるとでも思っているのだろう。


「忠告してあげてるんじゃないか」


「まずその上から目線をやめろ。話はそれからだ」


「気難しいなぁ。シアちゃんの苦労がよくわかるよ」


「お前だけには言われたくないね。お前の奇行が村の人たちにどれだけ不快な思いをさせているのか自覚してほしいもんだぜ」


「なんだとう!!!この!!!くそがぁ!!!」


 僕の渾身の拳を涼しい顔をしながら余裕を持って避けるダン。


「お前こそ、すぐに敵を作りそうだよなぁ……本当に大丈夫か?」


 その腹立たしい顔面に一発入れてやろうと、ブンブン拳を振るうが全然当たらない。


 とても悔しいが、確かにこの身体能力はこいつの生来の才能みたいなものなのだろう。

 人間、欠点だらけでも一つぐらいは良いところがあるものである。


 そうやってこいつを貶めることで僕の方が上であると自分を納得させ、気持ちを落ち着かせようとしていると、御者のおやじがその三下顔をこちらに向けて、何やら焦ったように声をかけてきた。


「坊っちゃんたち、ちょっちまずいっす」


「……なにかあったんですか?」


 おやじの緊迫した雰囲気に目が覚めたのか、ユーリが問いかける。


「この道、いつもは通行量も多いんですが、今日は異様に少ないっす」


「どういうことでしょうか」


「昨日寄った村で聞いた話なんですが、最近、王都周辺で盗賊被害が頻発しているらしいっす」


「盗賊だって!?」


 ユーリと御者のおやじが話をしているところにダンが口を挟む。


「そ、そうみたいっす」


「なんでそんな大事なことを黙っていやがったんだ!」


 おやじの報告が無かったことにダンが憤慨する。


「い、いや王都まであとちょっちだったんで、スッと抜けちまおうかと思ったっす……」


「は、はあ、それでさっきから他の旅人を見かけないということですか……」


 ユーリもおやじの対応に呆れた様子で言った。


 なんだか呆れたように格好をつけているが、ユーリはさっきまでぐーすか寝ていたんだけどね。


 でも呆れるのも無理はない。

 確かにおやじの振る舞いは、僕もちょっとどうかと思う。

 社会人として報連相はきちんとすべきである。

 こっちだってお金を払っているのだ。

 報告や相談があっても良かったのではないのだろうか。

 僕も二人の保護者として一言文句を言ってやるべきだろう。


「それにですね、近くに盗賊団が根城を作ってるってんで、王都から討伐部隊が出てるって話だったんで、大丈夫だと思ったっす」


「盗賊団だって!? それかなりやべぇじゃねぇかよ! その盗賊団が討伐されるまで待てなかったのかよ!」


「落ち着いて、ダンくん! おやじさん、とりあえず一旦昨日の村に引き返しましょう」


「戻るのは俺も賛成だけどよ、入学試験はどうすんだ?」


「幸いここまでスムーズに来れているので、試験の日までは少し余裕がありますし、もし試験を受けれなかったとしても命の方が大事です」


「まあ、そうだよな。ってことでおやじ!戻るぞ!」


 文句を言ってやろうとタイミングを計っていたが、やっぱり会話に入るタイミングがわからないので黙っていようかな。


 そんな感じで僕らは昨日滞在した村に戻ることを提案したのだが、御者のおやじは俯いて動こうとしない。


「おい、おやじ早く戻るぞ!」


 動こうとしないおやじに業を煮やしてダンが詰め寄る。


「……っ!? お前……何を笑ってやがるんだ……?」


 俯いていたおやじが顔を上げると、その三下顔が歪んだ笑みに染まっていた。


「……っ!」


 僕たち三人はその笑顔を見て背筋に怖気が走る。


「ヒヒヒ……坊っちゃんたち……村には戻らないっすよ?」


 御者のおやじがそう僕たちに告げると、街道の脇の森から複数人の男たちが姿を現した。

 10人ぐらいだろうか、正確な人数はわからないが、身なりから盗賊だと判断できる。

 すでに囲い込まれており、僕たちに下種な笑みを向けている。


「て、てめぇ……!!」


 ダンが眉間にしわを寄せて、御者のおやじの胸倉を掴み上げるが、おやじの表情は歪んだ笑みを崩すことはなかった。


「そんなことしても無駄っす。 坊ちゃんたちは奴隷として売られるっすよ。 しかも一人は上玉……存分に楽しんでから売り飛ばしてやるっす! どんな気持ちっすか? この先坊ちゃんたちが思い描いていた明るい未来なんてもう訪れない!!ヒヒヒヒッヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒ!!!」


「ふざけんな!!このロリコン野郎!!」


「私たちを騙していたんですね!?」


 ユーリとダンが声を張り上げておやじを糾弾する。


「こんな格安の竜者があると思ったっすか?ちょっと考えればわかることだったのに……残念だったっすね?ヒヒヒ……ヒヒッヒヒヒヒヒヒ!!!」


 なんということだ。この三下顔のおやじは本当の三下おやじだったようだ。


 ユーリは男の子なのだが、僕も狙われているのだろうか。

 ロリコン三下おやじなのか、ショタコン三下おやじなのか……非常に重要な問題であるが、今はそんなことを考えている時間はない。


 僕はこういった緊迫した状況に弱いのだ。

 一人おろおろとしていたが、ついに状況が動き出した。


「おい!お前ら逃げるぞ!!」


「おろおろ……」


「お兄ちゃん早く!」


 周りの盗賊たちが動いたことを察知し、最初にダンが動き出した。

 それに続いておろおろとしている僕の腕を引くユーリ。


「合図したら、森の中まで逃げるんだ! 鬼ごっこと同じだ!固まって走るなよ!」


「行くよ!お兄ちゃん!」


 そう言ったダンは鬼ごっこのときに使用した煙玉を懐から取り出て、地面に投げつけた。


「走れ!」


 ダンの合図と共に僕たちは走りだした。


 目の前が見えないがとにかく走るしかない!


 ユーリたちが心配だったが僕はとにかく森があるであろう方向にがむしゃらに走った。



***



 ――そして僕は盗賊に捕まっていた。



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