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第13話 紳士的行為


「うーん……」


 ぽりぽりと頭を掻きながら試験勉強に取り組んでいた。

 ちなみに弟であるユーリも僕と一緒に学園に通うと言って一緒に試験勉強に取り組んでいる。


 年齢的に入学できないのではないのかと思ったがそうではないらしい。

 優秀な成績を収めれば、適正年齢以下であっても入学することもできるのだとか。

 珍しいことではあるのだが、ないことはないという感じだ。


 ただし、相当良い成績でなければ入学はできないため、そのことを理由に僕と両親はユーリを説得したのだが、絶対行くのだと言って駄々をこねにこねまくった。

 その姿を見て、両親は困り果ててしまい、結局試験を受けるだけ受けてみなさいと折れたのだった。


 僕の教えた駄々こねの技術を存分に披露するユーリを見て、お兄ちゃんとしてなんだか誇らしい気持ちになった。


 これで妹であれば言うことなしなのだが、見た目は女の子にしか見えず、服装も女児が着るような服を着ているので、どうしようもなく紳士的な気持ちにさせられるのが困ったところである。


 母親がユーリのことを可愛がるあまり、定期的に女の子用の服装を拵えてきて、着せ替え人形にしているのだ。

 最初は恥ずかしがっていたユーリも、なんだか最近では自分からそういった服装を好んで着ているように見える。


 そんなこともあり、最近では母親だけでなく、幼馴染であるダンやシアちゃん、他の村人たちもユーリを女の子と認識している節がある。

 そんな周りの反応を見ていると、僕もさっさと妹として認めてしまった方が楽になれるのではないかと思う。


 だが、一度弟を妹と認めてしまったら、もう後戻りができない気がしている。

 何がと聞かれると説明が難しいが、とにかく何か別の扉のようなものがあって、そこを通ると扉に喰いつかれて抜け出せなくなる、何故かそんな気がして、あと一歩のところで踏みとどまっているのだ。


 まあ、ユーリに対する僕の葛藤は置いておこう。


 ユーリは結構頭が良いらしく、教えられた知識をどんどんと吸収していき、今では僕が勉強を教えてもらう立場になってしまった。


 僕の得意技である四則演算もあっという間にマスターしてしまい、僕でさえ苦戦する2桁のかけ算も簡単に解いてしまうのである。


 同じ両親から産まれたはずなのにどうしてこうまで差ができてしまったのか。


 現代知識無双はどこへ行ったのだ。ちょっと話が違うのではないか。数か月もしないうちに追いつかれてしまったぞ。


「はぁ……」


 理不尽な現実に嫌気がさしていることもあったのだろう、いつの間にか僕の口から溜息が漏れ出ていた。


「どうしたの?お兄ちゃん。わからない所でもあった?」


「いや、そうじゃないんだけどさ……というか僕勉強はもう止めようと思うんだ」


「え?そんなのダメだよ。お兄ちゃんは僕と一緒に学園に行くんだよ?」


「だってさ、シアちゃんと離れ離れになっちゃうし、シアちゃんも僕がいないと寂しいと思うんだよ」


「また、シアちゃんシアちゃんって…… そういえば、シアちゃんこないだ言ってたよ? お兄ちゃんに気味の悪い目で見られるって」


「そんなっ!僕はシアちゃんに危険が及ばないように警戒しているだけなんだ!」


「ほんとやめた方がいいよ?そういうの…… お兄ちゃんが不審な行動を取る度に村の人たちから僕に苦情が来るんだから」


「なんだと!?僕に文句があるなら僕に言ってこい!腰抜けどもめ!!」


「お兄ちゃんに言っても意味不明なことばっかり言うから、皆うんざりしてるんだよ」


「もういい!!こんな村出て行ってやる!!」


「そっか!じゃあ、頑張って勉強しないとね!」


 ニコニコと機嫌の良さそうな笑みを浮かべるユーリを見て、どこか釈然としない気持ちになる。

 なんだか、良い様にコントロールされている気がするのだ。


 だが、それ以上に村人たちの僕に対する侮辱が許せず、猛烈な勢いでペンを動かすのであった。





***





 僕は今、シアちゃんの後ろを紳士的に歩いていた。


 このところユーリの強制され、筆記試験の勉強ばかりしていたのだが、今日は母親と一緒に隣町へ買い出しに行って家におらず、父親も珍しく仕事に行っており、僕は一人の時間を満喫していた。


 なので、シアちゃんに紳士的行為をする絶好のチャンスだったのだ。

 紳士的行為とは妹を四六時中観察したり、下着を収集したり、寝ているときにお触りすることである。

 勘違いしないよう念のため言っておくが、決してエッチな目的ではない。そういった下衆の勘繰りはやめていただこう。

 紳士的行為はその名の通り、あくまで気品のある紳士的な行いのことを指すのだ。


「しかしなぁ……うーん……どうしたものか……」


 紳士的行動を取りながらぶつぶつと呟き、とても重要な問題に直面していた。

 通りがかる村人から奇特な目で見られながらも、そのことに憤慨する余裕もないぐらいに考えていた。


 シアちゃんを妹として迎えたことは記憶に新しいのだが、ここ最近どうもシアちゃんが僕のことを気味悪がっているようなのだ。


 嫌っているわけではないと思う。


 だが、魔物から守ったという実績があるのだから、もっとお兄ちゃんを慕って甘えてくれてもいいのではないだろうか。

 おそらく、彼女も思春期なのだろう、つまるところ恥ずかしいのだ。


 だが、慣れてもらわなければ困る。


 なので、僕はシアちゃんにもっと心を開いてもらおうと考えているのだ。


 そんなことを考えていると、前を歩いていたシアちゃんが立ち止まり、こちらを振り返っていた。


 まずい!見つかってしまった!


「あっ……ちょっと逃げないでください!」


 正体がバレてしまい、ばつが悪くなった僕は、その場で立ち止まる。


「あ、あれ? シアちゃんこんなところで奇遇だね?」


「いや、ずっと後つけてましたよね?」


「僕は妹である君を見守っていただけだ!!」


「まあ、妹のように思ってくれるのは嬉しいですが、流石に少し不審ですよ?」


 やっぱり僕の妹になれて嬉しいとは思っていたのだ。


 うんうん!いい感じだ!!

 よし、このままお兄ちゃんに甘えてもいいってことを教えてあげることにしよう。


 見つかったことは想定外だったが、それを逆に利用して目的を遂行する。

 僕は転んでもただは起きないのだ。


「僕、実は来年には王都に行ってしまうんだ……」


「ユーリちゃんも一緒に行くんですよね? 寂しくなりますね」


「だから、君に会えなくなってしまうんだ……」


「たまには帰ってきてくださいね? ユーリちゃんにも会いたいので」


 なんだか想像していたよりドライな対応に泣きたくなってきた。


「う、うぅ…… 君に会えないことを想像すると胸が苦しいんだ……」


「大丈夫ですよ。ニアくんは強い人です」


 そうじゃない!涙ながらに抱き着いてきてほしいのだ!行かないで!と引き留めてほしいのだ!


 シアちゃんのそっけない態度に涙が溢れてくる。


 僕はこんなにも君のことを想っているというのに、シアちゃんのぞんざいな対応に僕の感情が暴走状態に突入する。


「なんでぞんなに冷たい゛のお゛お゛お゛ぉ!!」


 ガシッとシアちゃんにしがみつき、号泣する僕。


 うーんなんだか柔らかい。

 柔らかい感触に悲しみの他に歓喜という感情が顔を覗かせる。


「ちょ、ちょっとニアくん!?離れてください!!」


 ペシペシと僕の頭を叩いて抵抗するシアちゃん。


 どうしてわかってくれないんだ!!どうして僕の愛に気付いてくれないんだ!!

 ふふふ……だが、その程度で僕と君の絆を引き裂けるものか。


 僕の中で悲しみと歓喜の感情が入り乱れ、僕を突き動かす。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁん!!シアぢゃん゛!!シアぢゃん゛!!シアぢゃん゛!!」


 どさくさに紛れて体中をまさぐる僕。

 紳士の嗜みである。


 10歳にも満たない子どもの体をまさぐることに興奮を覚えるのかと聞かれると、答えはNOだ。


 勘違いしないでほしい、僕は変態ではないのだ。

 僕はただ単に妹に興奮しているだけで、ロリコンではないのである。


「ちょっと!どこ触ってるんですか!」


「シアぢゃん゛!!シアぢゃん゛!!シアぢゃん゛!!シアぢゃん゛!!」


 興奮状態にある僕は誰にも止められないのだ。ふはははは!


 ひとしきりシアちゃんを堪能していると、不意に抵抗が止まる。

 これ幸いと更に紳士的行為を遂行するが、ふと気づくとシアちゃんの周囲に濃密な魔力の渦が発生していた。


 あれぇ?なんだぁ?と思っているのも束の間。


「……もう!やめなさいって言ってるでしょ!!」


 シアちゃんの魔力が極限まで高まり、地面から生えてきた木の根に僕の足が掬い上げられた。


 ドゴォン!!


「ぐぎゃ」


 次の瞬間、僕は勢い良く地面に叩きつけられ、カエルが潰れたような鳴き声を上げて意識を手放した。





***





「う、うーん……」


 頬を撫でる風の感触に目が覚めた。

 瞼を開けると目の前には、こちらを見下ろすようにして覗き込むシアちゃんの顔があった。


 こ、これは幻の妹膝枕!?


「あ、目が覚めたようですね。少しは落ち着きましたか?」


「う、うん。ちょっと錯乱していたみたいだよ。」


 今再び錯乱しそうですがね……


「もう……!本当に仕方のない人ですね……!」


「ご、ごめんね?離れ離れになると思ったら悲しくなっちゃったんだよ。」


「まあ、私も少しは寂しく思っていますが、心配しなくても大丈夫ですよ!」


「でも僕がいない間にシアちゃんが、節操の無い村人にいたずらされると思うと、耐えられないんだ。」


「そんな人はこの村にはあなたしかいません!!」


「えっ!!いや!僕は……!!」


 シアちゃんの間違った認識に僕は絶句し、言葉を詰まらせる。


「ふふっ!冗談……ではないですが…… でも本当に心配する必要はありませんよ?さっきも見ましたよね?私も魔法を練習しているんです。だから、ニアくんみたいな人に襲われたら、今みたいに地面にドンです!」


 うーん。守りたい、この笑顔。


 でも僕は妹であるシアちゃんを襲ったりしないのである。何故守るべき存在である妹を襲おうというのか。

 シアちゃんは少し勘違いが激しい節があるのだろうか。王都に行く前に一度しっかりと話をした方がいいかもしれない。


「――だから、安心して行ってきてください!」


「で、でも……」


「……さ!もう体は大丈夫ですよね?もうこんな時間ですし、早く帰らないとユーリちゃんが心配しますよ!」


 それでも、納得ができない僕が口を開こうとするが、シアちゃんが勢いよく立ち上がったことで、僕の頭が地面に叩きつけられ、閉口せざるを得なくなってしまった。


 気が付くと、日も傾き辺りが赤く染まっていた。どうやら随分と眠っていたようだ。


 まあ、今日はシアちゃんと相思相愛であることが確認できたので、良しとしよう!

 なにせ膝枕なのである!行くとこまで行ってしまったのである!


 その後、テンションが上がり切った僕は別れ際にキスを迫ると、シアちゃんの行使する木の魔法で顔をひっぱたかれ、気付いたときには家の布団に放り出されていた。


 キスを失敗した僕は、おそらく恥ずかしがっているだけだろうと結論付けることにしたのだが、目覚めた僕の部屋に入ってきたユーリが、シアちゃんは相当お冠であるとよくわからないことを言ってきた。そんなはずはないのである。


 そんな日々を送り、ついに王都に出発する日を迎えたのだった。



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