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第12話 四則演算ってなんかかっこいい


 あれから、数週間が経った。


 あの事件の後、家に帰ると、生きていて良かったと涙を流す母親にユーリと共に抱きしめられたのだが、その後のユーリの発言から、僕がとんでもない無茶をしたことが両親に知られ、こっぴどく叱られた。

 なんだか獣の躾のようだと思った。


 そして、その日の夕食にあの熊の肉が並べられ、「さあ、お食べ」と言われた時には、友だちを食べろっていうのか!と、怒り狂った。


 ひとしきり喚き散らした後は、涙を流しながら出された熊肉を完食したのだった。

 熊肉は意外とおいしかった。


 ユーリはというと、僕の勇敢な姿に感動したのか、僕にべったりになった。

 ふむ、悪くない気分だ。


 しかし、僕は怒られたのにユーリが怒られないのは何かおかしい気がする。

 まあ、可愛いから仕方ないね。


 僕の怪我については、足を酷使したことによる肉離れと、熊野郎に殴られた頭と腹に重度の打撲だけで済んだ。

 死んでもおかしくなかったのだ。生きていれば軽傷である。


 普段から父親に木剣でボコボコに殴られていたのも生き残った要因かもしれない。

 ともすれば虐待なんじゃ?と言えるほどのラッシュをその身に受け続け、必死に耐え忍んでいたことが、功を奏したのだ。


 母親の回復魔法で傷を癒してもらい、数日も寝ていれば、傷は完全に治った。


 魔法と剣の練習は僕の体調が戻るまで中止になった。


 そして、魔物に子どもが襲われたという事件は、瞬く間に村中に広がり僕たちはしばらくの間、外出禁止を命じられた。


 まだ他に魔物が潜んでいるかもしれないということで、父親を始め、村の男衆たちが連日のように雑木林へ足を運んでいた。

 脅威が無いと判断できるまで、村を歩くのは危険だということで、子ども達は家から出ることを禁じられたのだ。


 男たちは林の中に大量のトラップが仕掛けてあることに不信感を抱き、今回の魔物襲撃は仕組まれたものだったとかなんとか、わけのわからないことを言い出す者も現れた。

 仮に何者かの陰謀により村に魔物を嗾けたのだとしても、その先に大量の罠を配置することに何の意味があるというのだ。


 そもそも、こんなちんけな村を襲っても出てくるものは何もない上に、手の込んだ策を巡らせる必要もなく、山賊の集団が暴れるだけで致命的なのだ。


 しかし、子どもが遊びで仕掛けるには大掛かり過ぎる上に、殺意が高いトラップが山ほどあったためにそんなことを考えてしまうのは無理もない話だった。

 何故ならこの村には、ちょっと頭が残念な人しかいないのだ。


 そんなこともあり捜査は難航していたのだった。


 ちなみにトラップを仕掛けた張本人である3人は黙秘を貫いていた。

 僕は彼らが仕掛けたトラップに殺されかけたこともあり、このままその件が水に流されるのがなんとなく納得いかなかったので、こっそりと父親に告げ口をした。


 例えそれをしでかしたのが、シアちゃんという愛しの妹であったしても、そこはシビアだ。

 悪い子に育ってしまうのは、お兄ちゃんは許さないのだ。

 何も仕返しをしているわけではない。本当だ。

 僕はそんな狭量な人間ではない。純粋に妹の将来を想っているからこそである。


 だが僕の言葉は、無情にも信用されなかった。

 ガチンとげんこつをもらい、弟や友達のことをそんな風に言うなと叱られた。


 子どもがあそこまでのトラップを用意できるわけがないという先入観もあるのだろう。

 決して僕のことを信用していないわけではないはずだ。え?そうだよね?


 シアちゃんに関しては魔物に襲われたショックで数日寝込んでしまった。

 ふざけたことにダンの野郎が、僕の妹であるシアちゃんを看病してやがったのだ。

 僕は腸が煮えくり返るほどの怒りを感じた。


 言うまでもないことなのだが、何故そんなことを知っているかというと、シアちゃんちの屋根裏に隠れ家を勝手に作ったからである。

 あんなことがあったのだ。心配になるのは当然のことだ。


 魔法と剣の練習が一時中止となったので、毎日のように隠れ家へと足繁く通い、シアちゃんの様子を観察していた。

 向かう途中に道端でお花を摘んでくることも忘れない。

 寝静まった後にシアちゃんの枕元にそっと花を置くのだ。僕の想いが伝わってくれているといいのだが……


 しかし気になるのが、シアちゃんに似合う素敵な花を選んでいるので、花瓶に入れて飾っていても良さそうなものだが、次の日にシアちゃんの部屋に行くと、僕が贈った花はどこにもなかった。


 余談ではあるが、シアちゃんの家の裏手で、ズタズタに引き裂かれた花のようなものがいくつも散乱していたのを見た。なんとなく僕が贈った花に似ていたような気がしたが、気のせいだ。

 嫌がらせにしても趣味が悪いなと思った。


 そのせいもあってか、シアちゃんはどこか気分が悪そうにしており、体調が中々良くならなかったのだ。


 連日のように家を抜け出していると、帰宅時に毎回ユーリが僕の部屋の前で仁王立ちをしており、「またシアちゃんのところで覗きしてたんでしょ!」と頬を膨らませながら、僕に詰め寄ってくるようになった。

 最初は、覗きなどと人聞きの悪いことを言われたので、「危険を未然に防ぐためだ!」と弁明したのだが、「やっぱりしてたんだ!」と言われたので、余計なことは言わないようにすることが大事だと学んだ。

 誰にも姿を見られないように家を出ているはずなのに、抜け出していたことがバレているとは、教育を施しすぎたのかもしれない。


 そして後日、口止め料に夕食のおかずを1品奪われることになるのだ。どうも腑に落ちない。


 外出禁止期間中はそんな生活を送っていた。


 それからさらに数日経ち、魔物がいないことが確認されたため、地獄の練習の日々が戻ってきたのだった。





***





 事件から3年ほど経過し、僕は11歳になっていた。

 あと1年と少しで、僕は王都にある魔法学園に通うことになるのだ。


 当然ここトオイ村は辺境の地であり、実家から通うという選択肢などない。

 王都で寮生活をしながら、3年間魔法を学び、進路を決めるのである。


 そう、3年である。3年もなのだ。

 僕にはそんなことをしている暇はないのである。


 それに僕が学園生活を送っているうちに両親がエキサイトした結果、妹が産まれてくる可能性だってあるのだ。

 その瞬間に立ち会えないし、一緒に過ごすこともできないのだ。


 悪夢である。そんなのは悪夢でしかないだろう!


 そうだ。僕は何か悪い夢を見ている最中なのだろう。

 目が覚めると、可愛い妹たちに囲まれて、キャッキャウフフの楽園生活が待っているに違いない!


 だが、そんな夢のような話は、やはり夢の中にしかない。

 現実は非情だ。暗く、冷たい牢獄という名の学園に閉じ込められ、妹のいない現実を残酷にも突き付けられるのだ。


 学園に通うには結構お金がかかるらしいので、家計が心配だから入学は諦めると打診したことはある。

 だが、入学試験において、上位の成績を収めれば学費が全額免除されたり、何割かは学校側で負担してくれる制度があるから大丈夫だと言われた。


 国は優秀な人材を求めており、そういった人たちに適切な教育を施したいということらしい。


 しかも父親の実家は貴族家であり、父親も当然その教育を受けているため、試験までに必要な知識は完璧に叩き込んでやると意気込んでいた。

 普段から僕の頭にしこたま木剣を叩き込んでいるだけはある。


 ちなみに別に上位に入れなくても父親の魔物狩りでそれなりに貯蓄はあるとのことで、絶対に通わせてやるから安心しろと言われている。迷惑な話である。


 僕には逃げ道が残されていないのだ。


 そんなわけで、今は試験勉強の真っ最中である。


 学園で学べる教科は、文法、数学、歴史、魔法学、魔法工学、天文学、占い学、薬学、医学、法学、神学など様々だが、試験では基本の教科である文法、数学、歴史、魔法学の4教科と実技試験を行うことになる。


 実技試験については、母親にしごかれているので、問題はないはずだ。

 僕は3歳から練習を始めていることもあり、同じ年齢の子どもと比べると多くの魔法が使えるのだ。


 だが、5歳になった頃からユーリも魔法の練習をしており、なんだか僕よりも容量良く魔法を覚えていっているため、ちょっと焦りを感じている。

 でもまだ魔力量は僕の方が多いから大丈夫なはずだ。魔力量は一朝一夕では増えないのである。

 毎日必死に練習を頑張ってきたのだ。そう簡単には弟に抜かされるわけにはいかない。


 そんな感じで魔法はちゃんと練習しているため、大丈夫だと思うのだが、問題は筆記試験だ。

 数学はまだしも、この世界の文法や歴史、魔法学などの知識はないので、ちゃんと勉強しないといけない。


 なお、数学については、四則計算ができれば大丈夫らしい。

 この四則計算とは、+、-、×、÷の記号を組み合わせて数字をなんやかんやするのである。


 ちなみに四則演算とも呼ばれ、僕はこの呼び方を好んで使っている。

 なんか必殺技みたいでかっこいいからだ。


 かくいう僕も、前世では高校まで卒業しており、中でも四則演算は得意中の得意だった。

 そのため、この先、得意技が何か聞かれるようなことがあった時には「……え?ふふっ……面白いことを聞くね?まあ、強いて言うなら……四則演算……かな?」みたいな感じで言うつもりだ。

 所々溜めを作りながら、ねっとりと言うのがポイントだ。


 ふふふっ……現代知識無双、始まったかも……


 そんな感じで、学園など行きたくないだの文句を言っている割には、何だかんだで楽しみにしていたのである。



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