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第100話 夏休みの宿題ってギリギリになってから焦り出すよね


 あれから数日経ち、やっとベッドから解放された。

 ユーリが言うには僕の体調は完全に回復したらしい。

 僕の弟が間違ったことを言うはずがないので、疑う余地もなく健康体になったのだろう。

 とは言ったものの、なんだかまだ具合が悪い気がする。

 ただの勘違いで済めば良いが、死んでしまったら元も子もない。

 もう少し寝ていた方が良いのではないだろうか。

 もしかしたら死に関わることかもしれない。

 僕はちょっと思い込みが激しいところがあるのだ。


「うん、もうちょっと寝ていようかな!」


 流石に死んでしまうことはないだろう。

 だが、話を聞く限り僕は相当激しい戦いを制したようなので、外傷は無くとも体の中はボロボロになっていてもおかしくはないのである。


 ゴロゴロと布団の上を転がる。


 ユーリたちは夏休みの課題で毎日忙しくしている。

 このクソ暑い中、本当にご苦労なことだ。


 ちなみに僕は全く手を付けていない。

 やるつもりはあるが、何となく気分が乗らないのだ。

 母親の「勉強しなさい!」という叱責で、やる気がなくなるのと一緒である。

 「今やろうと思ってたのにぃ!」というやつだ。

 特に何かを言われたわけではないが、言われた気分なのだ。

 まあ、ちょっとだけ焦りはあるが、大丈夫だろう。

 夏休みの宿題というのは、ギリギリになってから焦り出すのが醍醐味であるとも言えるのだから。


 確定していない未来のことを心配しても仕方ない!

 この瞬間を一生懸命生きることが、僕に課せられた宿命なのだ!

 今はとにかくダラダラしたい!


「ふぃ~涼しい~」


 冷たい風が頬を撫でる。

 風を生み出す魔道具と僕の得意の水魔法で氷を作り出し、冷風を発生させているのだ。


 ブルっと身震いをして布団を被る。

 部屋をキンキンに冷やして布団に潜り込むのが、一番気持ちいいのだ。


 こんなに暑いのに、ユーリたちは外を走り回り、魔物の(ふん)をしこたま集めている。

 信じられるだろうか。いや、信じられない。

 彼らは何が楽しくて、畜生の排泄物をせっせと集めているのか。

 そんな拷問のような所業が現世で行われていると知れば、地獄の番人も真っ青だろう。

 なんだかよくわからないのだが、魔物除けを作る課題だというのだ。

 ダンジョンではそういった対策も必要になるらしい。

 一流の冒険者は必ず懐に忍ばせているのだとか。汚い話である。

 だが、確かにダンジョンの入り口の出店には魔物除けなるものが売られているのを見たことがある。

 あれが魔物の(ふん)から生成されているものだとは思わなかった。

 確かにちょっと臭い気がしたんだ。


 そんなことを考えていると部屋の扉が開く。


「ただいま~」


「帰ったぜぇ!」


「ただいま帰りましたわ!」


 噂をすれば影。例の奴らがぞろぞろと部屋に入ってくる。


「本当に信じられんッ! な、なななんであんなものを素手で触れるのじゃ!お主らの品性を疑うッ!」


 一番後ろから、僕のマイシスターミスラたんが顔を覗かせる。

 そのヒステリックな表情もプリティープリティー!!


「まあ、手洗えば大丈夫だろ!」


「僕だって嫌だけど課題なんだから仕方ないでしょ?」


 ミスラちゃんは課題などやらん!と言って逃げ回っていたが、ユーリにとっつかまり滾々(こんこん)と説教をされ、やむなく連れていかれることになったのだ。

 僕は病み上がりということで見逃された。本当に助かった。


「ミスラさん!ワタクシも最初は抵抗感があったんですが、とんでもないことに気付きましたの!」


「仮に何かに気付いたとしても、あんなものに嫌悪感以外の感情が生まれることはないわ! ……だがまあ、一応聞いておく……。 なんじゃ?」


「ふふふ……聞いて驚くが良いですわ! それは…………一回汚れたら、二回も三回も変わらないってことですわぁ!」


「……なんだか得意げな表情じゃけど、別に凄いこと言ってないからなっ!?」


 まあ、ティーナが言っていることは少しだけわかる気がする。

 だが、この話の本質はそこにはない。

 問題は、その一回目のハードルが信じられないほど高いということだ。

 事故でも起きない限りは、自力でそのハードルを越えることはできない。

 そして、彼女の言っていることがわかると言った手前、少しだけ言いにくいが、やっぱり二回目でも嫌なものは嫌だろう。


「えっ!?本当のことですのよ!? ミスラさん!信じてくださいな!」


 ミスラちゃんは信じていないわけじゃないと思うよ。

 単に、そういう問題じゃないってやつだろう。


「……もう良いわ!お主は黙っといてくれ!」


「ガハハハッ!ミスラ様は繊細だな!」


 ミスラの肩に触れようとするダン。

 それに気付いたミスラは咄嗟に魔法を発動させる。


「……っ! 我に触れるでないわッ!!」


 ドゴンという音と共に地面に倒れ伏すダン。

 体からは黒い煙が立ち上っており、ピクリとも動かなくなった。

 奴は信じられないほどタフだから、多分死んではいないだろう。

 今のところ死んだようにしか見えないけど……。


「みんなおかえり……。 ところで僕の部屋に集まるのやめない……?少なくとも(ふん)を触った後は……」


 彼らは排泄物の採集を終えた後は、必ず僕の部屋にシャワーを浴びに来る。

 何故自分の部屋で浴びないのかと聞いたところ、汚れるからだそうだ。

 確かに汚れるから、自分の部屋で浴びるのは嫌だよね。

 わかるよ、わかるけど……その君たちにとっての嫌なことをされている僕は一体どうなるのか!

 僕の気持ちは蔑ろにされていないだろうか!?いないだろうか!?

 どうもそんな気がしてならないのだ。

 本当に勘弁してほしいものである。


「ごめんね、お兄ちゃん。ちょっとシャワー貸してね?」


 申し訳なさそうな表情でこちらの様子を伺うユーリ。

 しかし、こればっかりは僕だって譲れない。

 如何にかわいい弟といえど、甘やかすことはしないのだ。


「ごめんねと思うなら自分の部屋で入ってほしいんだけど……」


「ごめんね、お兄ちゃん。ちょっとシャワー貸してね?」


 あれ、なにかおかしい……。

 僕は今はっきりと自分の部屋で浴びるように言ったはずだ。

 タイムリープでもしているのか。

 このよくわからないタイミングで新たな力に目覚めたとでもいうのだろうか。

 ボイスレコーダーで再生したかのように、一瞬前と全く同じトーンで言葉を発するユーリ。


「いや……自分の部屋で浴びたら良いんじゃないかな?って……」


「ごめんね、お兄ちゃん。ちょっとシャワー貸してね?」


 あれ、なんだこれ。

 僕の頭がおかしくなったのか?

 僕は何をしていたんだっけ?

 ……ああ、さっき起きたばっかりだから混乱しているのか。

 ちょっと夢を見ていただけなのかもしれない。


「うん……浴びて行ってよ……」


「ありがとう!じゃあ借りるね!」


 唐突に話が進んだ。

 RPGとかでよくある特定の選択肢を選ばなければ、永久に同じことを言われ続けるやつなのだろうか。

 なんだか釈然としないが、まあ良いだろう。


「ちょっと待て! 我が先じゃ!お主らの後は絶対に嫌じゃからな!」


「ワタクシも一緒に浴びますわ!」


「ダメじゃ!穢れたお主らと一緒に浴びたら我まで穢れるではないか!」


「まあまあ、そんなこと良いじゃないですの! ユーリさんも行きますわよ!」


「え!?ぼ、僕はおとこ……うわぁっ!」


 ティーナが二人を連れてシャワールームに入っていった。


 ふふふ……まあ、概ね計画通りとも言える。

 押し切られたとも言えるが……。

 確かにシャワーを使わせるのは嫌ではあるが、僕の部屋のシャワーを貸してやるのだ。

 当然対価は要求させてもらう。

 こればっかりは譲れない。僕だって嫌な思いをするのだから。

 君たちもそれぐらい我慢してもらわないと困る。


 ニチャアと歯茎を露出させながら、僕は水晶玉の魔道具を取り出した。



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