第9話「レジェンダリー勇者たち④」
「おい……本当に大丈夫か……?」
「……チッ……!」
唯有は王国の兵士と一対一で試合をすることになったわけだが……
唯有の固有スキル『唯我独尊』によって
対面する兵士のステータスを超えた力で戦えているはず……
――だが、
「そろそろやめないか……?これ以上は……」
「うるせぇ!」
唯有は苦戦していた。
試合の序盤では、木剣同士を合わせた時
単純な力勝負では唯有がリードしていた。
そのことに、兵士も驚いていたのだが……
勇者でなくても
さすがは長年鍛錬を積んできた兵士……
力勝負では勝てないとみるや
洗礼された剣技で唯有の素人の剣を
見切り、受け流し、今では圧倒している。
いくら固有スキルでステータスが強化されているとはいえ
剣もろくに握ったことのない15歳の子供には、兵士相手に太刀打ちできず……
しまいには、手心を加えられている始末だ。
「ストップ」
女神もそれを見かねたのか、試合を止めた。
「……はぁ……はぁ……止めんなよ女神……」
唯有は女神に今にも襲いかかりそうな形相で睨みつけている。
「いえ、違いますよ。止めたのは確認のためです。目の前の兵士のステータスと、唯有くんのステータスの数字をそれぞれ教えてください」
「チッ……そっちの兵士のステータスは【物理攻撃力:127】【物理防御力:152】【素早さ:114】……そして俺のステータスは【物理攻撃力:174】【物理防御力:189】【素早さ:157】だ……」
「なるほど…………」
ステータスではちゃんと唯有のほうが
兵士よりも上なのか……
それでも勝てないっていうのは
戦闘経験とか、剣術の型とかの技術面に差があるからだろうか……
とすると、ステータスはそういった
技術面などは関係しないのか……?
「それでは、次に試していただきたいのは、こちらの兵団長のステータスを対象に固有スキルを使ってみてください」
「…………なるほどね」
……え?
戦っている相手のステータスじゃなくても、スキルは発動できるのか……?
「へぇ……面白いじゃんかコレ……」
「どうやら、兵団長を対象としてスキルが発動したようですね」
……あ、そうか!
唯有の固有スキルの説明には確か『指定した対象の〜〜』って書いてあるから、いけるのか……?
ややこし!
説明文ややこし!
「それでは、試合を再開させてみましょうか」
「オーケー……」
兵士も女神と唯有の会話を聞いて察したのか
木剣で構えをとり始めた……。
兵団長の力を超えているのかもしれない……
兵士も本気の構えのように思える。
「それでは、再開!!」
女神の一声に、唯有は兵士に飛びかかる。
上からの大振り――――素人丸出しの脇の甘さ――――、
兵士はそれを木剣でいなそうと動くが――――、
それを上回るスピードで振り下ろされた唯有の重い一撃が
兵士の肩を容赦なく襲う。
「あがはっ!!」
見ると、兵士の着ていた甲冑が
肩の部分から粘土のように変形しており
素人から見ても、無事ではない。
相当な威力だったのだろう。
唯有が振るった木剣も折れていた。
――だが、
「おぅぐッ!!」
兵士が膝を落とし倒れ込もうとしたところに
唯有は続けて大振りの蹴りを兵士のアゴに命中させた。
生々しい鮮血と骨が破壊される音が響く。
「さっきはよくも舐めた口きいてくれたよな……おかげで俺が弱ぇ奴みたいに見えちまっただろうがよ……」
やりすぎだ……。
完全にキレてる。
躊躇ない悪意に力を持たせてしまったことで、その歯止めが効かなくなる……そんな悪寒がした。
「ふふっ……素晴らしい」
女神は何事もないかのように唯有に微笑みかける。
「いやぁ……お見苦しいところを……試合っていうもんだからつい」
いつもの表面的な笑顔に戻る唯有。
大怪我を負った兵士に王様や兵団長が駆け寄る。
「た、ただちに回復魔法をこの者に!!」
王様は白銀マントの集団に目をやり、その中から2・3名ほどが即座に大怪我を負った兵士の元へ駆けつける。
「それでは次に試したいことなんですが――、」
女神はこんな状況でもお構いなしだった。
「改めて、私のステータスを見てもらえますか?」
「はぁ?だからさっきから見れないって…………あ?」
様子がおかしい……。
さっきまで余裕のある笑みを浮かべていた唯有から笑みが消えた――。
「……あんた……バケモンかよ……」
「どうやら見えたようですね……私のステータスを教えてくれますか?」
女神のステータスが見えたのか?
「【物理攻撃力:9999】【物理防御力:9999】【素早さ:9999】…………」
は…………?
「それ以外の情報は書いていませんか?」
「書いてねーな」
「固有スキルは見れないのですか?」
「見れないな。あくまでステータスだけ見れるらしい」
「名前やレベルも見れませんか?」
「そういえば見れないな。別に見ても意味ないだろ?」
「そうですか」
いやいやいや……
女神のステータスどうなってやがる……
全部『9999』だと……?
しかもこの9999って数字……ゲームでいうところのカンストじゃねーか?
「では、唯有くん。私のステータスを対象として固有スキルを発動してみてください」
…………いや待て。
いやいやいや……それはダメだろ……。
それだけはダメだろ!
「……あ、そうか……フハッ!……その手があったなぁ!!」
ズンッ――――
空気が重く感じる――、
強烈な圧迫感――、
身体が震えだす――、
俺だけじゃない――、
周りにいるクラスメイトたちも同様に
目の前の絶対的な強者を見て戦慄していた。
「あはははっ!!スゲー!!これマジでスゲーよ!!」
「唯有くんのステータスを教えてください……私の推測が正しければ……」
「【物理攻撃力:10046】【物理防御力:10036】【素早さ:10042】……だぜ!」
「素晴らしい……!!ステータスの限界を突破している!!」
カンストを……超えやがった……。
「唯有くん、おめでとうございます。あなたの勇者ランクは『レジェンダリー』です」