第72話「勇者だョ!全員集合①」
「コモン勇者御一行様をお連れいたしました」
「ご苦労。コモン勇者様、これより私が案内いたします」
「はぁ……どうも」
謁見の間まではメイドが案内し、その扉の両側に立っている女神直属部隊の兵士――ソーレと同じ白銀のローブを羽織っている――へと案内が引き継がれるようだ。にしても、この女神直属部隊というのは、なぜフードを被ったままなんだ?
謁見の間というだけあり、入り口だけでも相当凝った装飾がされており、どこか神秘的なものを感じさせてくる。扉には多くの人が通れそうな大きさがあり、こんなデカい扉が今から開いて……入場する……というのは少し照れくさいものがある。
「それでは、こちらに付いてきてください」
「……え?」
大きな扉――ではなく、
なぜか、扉の右側の壁へと兵士は向かっていく。
「うそだろ……?」
壁に同化するかのように普通の大きさのドアが隠されており、兵士はそこから謁見の間へと入っていく。
「あ、あの……兵士さん?ここから入るんですか?」
「……?はい。一般の勇者様はこちらから通せと女神様に言われておりますので」
「へ、へぇ〜〜……」
忘れてた……あのクソ女神はこういう細かいところでイラつかせてくる奴だった。
「ヤマト……我慢です」
「分かってるって……」
「……?どうかしたの?」
「いや……なんでもないよ、ははっ……」
ともかく、兵士が開けたドアから謁見の間へと入る。
(俺と橘は背負った荷物が大きいため、横向きで入らざるおえない……)
謁見の間に入った瞬間、空気が変わったように感じた。神社に入った瞬間に感じる、周りの音が無くなり一切の邪気が取り払われたかのような静けさ。大きな横窓から差し込む光も相まって、聖域とはまさにこの場所のことを言うのだろう……と思わせる。
奥の玉座へと続く道には広々とした美しい赤の絨毯があるのだが、残念なことに俺たちが入ってきた所は絨毯を踏めないようだ。まるで、会場のスタッフ専用入り口みたいな扱い。
「コモン勇者様には、このまま進んでいただき右側に参列していただきます」
……このような扱いに口を出しても仕方がない。素直に兵士に付いていく。
絨毯を跨いだ反対側には見るからに位の高そうな人たち――あれは貴族だろうか?――が参列しており、こちら側には一人しか立っていない。
貴族らしい男たちは何やら小声で何かを言っている。
「あれが噂に聞く勇者様なのか……?」
「こ、子供じゃないか……」
「しかも、あんなみっともない姿……まともな物資を渡せていないのか?」
「いえ、あの者たちは女神様曰く、大した力は持ち合わせていない一般人と変わらぬ者たちらしいですぞ?」
「それは誠か?」
「なるほど……形式的な勇者、ということか……」
「本物の勇者様は最後に入場されるとのこと」
なーんか、色々と言われてる気がする。
玉座のほうを見ると……王様が和やかな表情で座っており、俺たちから見て右手側には見るからに王族であろう人たち――歳は重ねているが気品と性格の良さが溢れ出てくる女性に、これまたおっとりしてそうな好青年の王子?……その横には、綺麗なドレスを着た少女――が立ち並んでいる。
そして、反対側には……女神がいた。その横に、女神直属部隊の二人。どちらもフードは脱いでおり、一人は見るからに堅物そうな――コーヒーの味に口うるさそうな見た目――の灰色の髪をした中年男性に、もう一人は……回復班のリーダーであり、過去に俺の傷を癒してくれたバルトさんが立っていた。
バルトさんもこちらに気付いたようで、満面の笑顔でニコッとしてきたので軽く会釈をする。あんなにガタイがデカいのに、なんて可愛い笑顔なんだろう。
そして――こちら側にたった一人、堂々と腕を組んで立っている男の近くまで兵士に案内される。
「よぉ、おはようさん」
「……本当におっさんは堂々としてるよな」
この国最強の魔法使い――魔導士ヴィルトゥがそこにいた。
いつもこの男は、黒くて金の装飾が入ったローブを着込んでいるのだが――こういう正式な場だからだろうか、光の当たり具合で虹色に光る純白の布に金の装飾が入った特別仕様のローブを着込んでいる。
「それでは、コモン勇者様はこちらに参列してくだ――」
「お前はいいから、さっさと下がれ」
「は……はい!」
「なんか、風格あるなぁ……」
「俺は元から風格ありまくりだ」
「そうですかぃ……」
「坊主は相変わらずとして、ソーレたんとヒヨリは調子どうだ?」
「問題ないよ」
「不思議と怖くはないです!」
「そうかそうか、さすがだ……にしても笑えるよな。まさか勇者様ともあろう者が参列側なんてよぉ」
「……これもどうせ、女神の仕業だろ?」
「ご明察。女神はどうやら、自分お気に入りの勇者たちを有権者たちにお披露目したいらしいぜぇ」
「で?どうしておっさんはこっち側にいるんだ?アンタはどっちかと言えば、反対側だろ?」
「……ん?……まぁ、貴族とは犬猿の仲だからなぁ俺は。横に並んじまうと、アイツら怖がって失禁しちまうかもだから、汚ねぇしこっちに避難してるだけよ」
「なんだそりゃ……」
「ヤマト……本当は……参列することになった勇者たちのことを哀れんで、せめてもの配慮としてお父さんはこちら側に来てくれたんですよ……」
「なっ!?ソーレたん!?」
「……へぇ〜〜、可愛いとこあんじゃ〜ん」
「ぶち殺すぞガキィ……」
「あらあら……随分楽しそうですねぇ……?」
赤い絨毯を平然と我が物顔で歩きながら――女神が声をかけてくる。
「何の用だ?定位置へさっさと引き返せ」
「あらあら、これはこれは……魔導兵団の団長だった人ではないですかぁ……どうしてこのような場所に来れたんですか?」
「なんとっ!女神様は無知であったか!知らないのも可哀想なので仕方ないから教えてやるかぁ。俺は魔導士で位は貴族より上だ。お前が有権者を参列させるよう王に指示をしたんなら、当然俺もここに来るのは当たり前だろ?理解できたかい?」
「ふふっ、これは勉強になりました。そのようなくだらない役職があったとは驚きです」
「はっ!それは、お互い様だろぉ」
「なんだこのレスバ……怖いんだけど……」
「ヤマトも大概、こんなこと言ってそうですけど……」
「ところでソーレ?お久しぶりですねぇ?……一週間ぶりじゃないですか。会いに来ないから心配してたんですよ?」
「……これは大変失礼しました。一度、女神様の元へ向かったことがあるのですが、その時は前線基地へと遠征されていたようでしたので、中央拠点奪還作戦の準備でお忙しいかと思い、会うのを控えておりました」
「……そうでしたか。そんなことは気にせず会いに来れば良かったのに」
「勇者様の護衛もありましたので、頻繁に動くことが出来ず……ご期待に添えず申し訳ありません」
「ふむ……まぁいいでしょう……ところで、もう一人の護衛はどうしました?」
「申し訳ありません。勇者様の護衛で手一杯だったため、ジャックの動向までは把握できておりません」
「……?それでは、橘さん?あなたの護衛に付いていた兵士は今どこにいます?」
「えーっと……あの男の兵士さん……ですよね?確か、二日目までは護衛してくれていたんですけど……なぜかその翌日から姿を見せなくなりまして……私もよく分かってないんです」
「……は?……どういうことですか……?」
「ジャック?……修行をいつも怠けてばかりの、あのジャックか?アイツに勇者の護衛を任せるとは……女神様もとんだ人選ミスをしちまったなぁ……アイツは昔っから任務を気まぐれで放棄するような奴だぜ?今頃どっかにトンズラこいてるかもな」
「……ッ!!………………手繰くんは……何かご存知ですか……?」
「…………え?僕……ですか?なんで僕に質問するんです?」
「……アナタ……橘さんとお揃いの格好をしてますよね?コモン勇者には装備含め、戦闘に必要な物資の提供はされていないはず。それなのに一緒の格好をしている……ということは、共に行動していたのではないですか……?そうだとすれば、橘さんに付いていた護衛にも心当たりがあるかと思いまして……」
「え……っと……すみません、何を言ってるのかさっぱり分かりません。確かに橘さんとはここ数日一緒に余った装備品がないか鍛冶場に行ったりはしましたが……護衛の方なんていませんでしたよ……?」
「……本当ですか?」
「あ、あの……僕にどのような期待をされているか知りませんが、本当に心当たりがないんですよ」
「……………………」
どうやら俺の発言が腑に落ちない様子。女神は俺のことをねっとりと見定めている。
「……まぁいいでしょう。些末なことです。アナタたちが何を企んでいようとも、今後に何ら支障はありません」
「……???……すみません、女神様が言ってること1ミリも理解できません」
「いいえ……分かってるんでしょう?……ソーレも、今日からは中央奪還作戦で共に行動することになりますし、毎日会えますね?」
「はい」
「ふふっ……それではまた……」
デカいケツをこれ見よがしに振るわせながら、元いた場所に戻っていく女神。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
やっぱり女神は――手強いな。
口裏を四人で合わせてはいたし、事前に練習もした。おかげで橘も自然な感じで嘘をつけたと思う。
だが、勘が鋭い……どこまで見破られているのだろうか。
まぁ……仮に色々バレていたとしても――今後に何ら支障はありませんよ、女神さん。
――ギィィ
俺たちが入ってきた普通のドアから、ぞろぞろと人が入ってくる。あれは――
「なーにぃ?そのボロい格好ッ!あんだけデカい口叩いてたのに……本当にそんなんで戦えんのぉ……?」
アンコモン勇者たちのお出ましだ。




