第7話「レジェンダリー勇者たち②」
「それでは、お名前と固有スキルを教えてください」
女神は平常運転の微笑みを浮かべて奇妙な男に問いかける。
「我の名は『鈴木 一平』――――ではない……」
……ん?
「『鈴木 一平』とは仮の姿……』
は……?
「我の真名は別にある……知りたいか?」
知りたくねーよ。
なんなんだコイツ……
「ククッ、沈黙は肯定……ならば教えよう……」
問答無用か。
「我が真名は『クリムゾン・アイズ・ブラック』…………だッ!」
赤か黒かハッキリしてくれ。
しかも、なんなんだよそのポーズは。
そこには最高にキマった顔とポーズをした
クリムゾン・アイズ・ブラックがいた。
「それでは、鈴木くん。固有スキルを教えてください」
無視された!
クリムゾン・アイズ・ブラック無視された!
周りの生徒たちも特に反応が無い……。
まぁ、この鈴木こと
自称クリムゾン・アイズ・ブラックは
現実の世界でもクラスの中で大分浮いた存在であり
もはやこの反応は当たり前だった。
「ククッ……女神すら我の存在を認識できないとは……もはや神をも超えた次元に存在するのだな……我は……」
「早く教えてください」
「よかろう」
「我の封印されし力の一部が、この地に降り立たったことで一つだけ解放されたようだ……その力は……『漆黒の炎』――!」
クリムゾンは物凄く洗礼された、
相当練習したと思われるポーズを取り――
手の平から黒く燃え上がる炎を出してみせた。
にしても、相当腰が曲がっている……
苦しくないのか……そのポーズ……。
「我の漆黒の炎は、あらゆるものを塵と化すまで焼き尽くす――」
「ステータスに書かれてある文面を一言一句正しく読んでください」
女神は微動だにせず、淡々と確認作業を行う。
「……………………」
クリムゾンも思っていた反応と違ったのだろう。
ポーズをやめて、少し残念そうな表情で話し始めた。
「固有スキル『漆黒の炎』……『指定した対象を消滅させる黒炎を飛ばすことができる。ただし、指定した対象から黒炎が燃え移ることはない。』――と、書かれている……」
クリムゾン……
そんな自暴自棄にならなくても……
……てか、スキル結構強いな。
「指定した対象を消滅させる……ふむ……悪くないですね………………実際に試してみましょうか」
女神は後ろの甲冑の兵士たちのほうを向き――
「兵団長、鉄製の剣を一本ご用意いただけますか?」
「分かりました」
他の兵士とは違い、煌びやかな装飾の甲冑に身を包む男が
「誰か、訓練用の鉄剣を持ってこい」と命令し――、
一人の兵士が武器庫と思われる倉庫から
一本の鉄剣をダッシュで持ってきた。
「それでは、剣をそこの地面に置いてください」
女神はクリムゾンの近くの地面に剣を置かせ――、
「では、あなたのスキルでこの剣を燃やしてみてください」
「ククッ、よかろう」
クリムゾンは手のひらから黒炎を再び出現させ
地面に置かれた剣に向ける。
「我が炎に消えろ!!ブラック・ファイアー!!」
いや、名前ダサ。
クリムゾンが放った黒炎は見事、剣に着火した。
剣に黒炎はみるみる燃え広がり
徐々に形を失っていく――
いや、違う――。
確か、あの剣は鉄だったはず……
普通、熱い炎なんかを鉄に当てたら
溶けたりするものだが……
紙を炎で燃やすかのように
鉄剣は徐々に消滅していく……。
気付けば、塵すら残らず
跡形もなく剣は消えた。
元々そこに何もなかったかのような……
溶けた残骸が残ることもなく完全に消滅した。
「おぉ……」
「なんだあの炎は……」
「ありえん……」
女神の後ろにいる兵士たちや
白銀のマントたちからも驚きの声がする。
「これは素晴らしい……」
女神も先ほどの淡白な表情から一変して、この奇妙な黒炎に好奇心を持っている。
「うわ……まじか……」
なんだかボソッと、クリムゾンから声がしたようだが、多分気のせいだろう。
「おほんっ……クククッ見たか……我の力を……」
ほら、いつものクリムゾンだ。
「この黒炎を飛ばすのではなく、視た対象を燃やせるようにスキルを強化すれば、きっと魔王も倒せると思いますよ」
「ほう……視るだけで燃やせる……いいなソレ」
なるほど……
確かに黒炎を飛ばしても
避けられては意味がないもんな。
視るだけで相手を消滅させる黒炎……
いや、強いなクリムゾン……
これは当然――
「鈴木くん、おめでとうございます。あなたの勇者ランクは『レジェンダリー』です」
「ククッ……当然であろう」
「おぉ〜」
「え?これで二人目じゃん」
「もう先生とアイツだけで魔王倒せんじゃね?」
生徒たちもこの評価に
普段は無視しているクリムゾンに対して
様々な反応を見せている。
純粋に凄いと思ってる奴――
悔しそうにしてる奴――
ほっとした表情をする奴――
まぁ、もしかしたら死ぬかもしれない
魔王討伐において……
自分が戦わなくても生き残って
元の世界に帰れるなら、そりゃ安堵するだろう。
俺も正直、誰も『レジェンダリー』のランクがいなかった場合、
俺が魔王を討伐しなければならないと思っていたが……
これなら安心だ。
これで心置きなく、俺はスキルを偽れる――。