第67話「お風呂でバッタリ」
「こんなところで奇遇じゃんか。元気してた?」
「なんだ……?このガキども。坊主の知り合いか?」
「知り合い……というか、俺と同じく召喚された勇者たちだよ」
「ほぇ〜〜……コイツらがねぇ……」
「え、俺たちのことシカト……?」
目の前にはクラスメイトの二人――確かサッカー部の奴らだった気がする――が立っており、少しイラついているように見える。
その少し離れたところには、他のクラスメイトたちも散り散りになりながらもこちらの様子を伺っている。グループで固まる奴らもいれば、孤立しながら腕を組んで様子を見ていたりと多種多様だった。
「あぁ、ごめんごめん。確かに奇遇だね。えーっと……」
何か会話をしようと思ったが、同じクラスメイトといっても名前はうろ覚えで話したこともないし話しかけられたこともない人間と何を話せば良いのかパッと思いつかない。
確か、コイツらはレア以上の勇者ではなかったはず。ということはアンコモンか。確か、ジャックから聞き出した女神の話だと、アンコモンは魔王討伐では起用せず、かと言って危険因子でも無いため、飼い殺しにされてるはず。
「つか、ここの風呂空いてんじゃん」
「せっかくだし入ろうぜ」
「だな」
(多分)サッカー部の二人は遠慮することなく俺の隣のほうに入って来る。
「あぁ?おい、誰の許可を――」
「ちょい待ち!少し聞きたいことがあるかもだから……落ち着いてくれ……」
こういう行動はヴィルトゥの場合、怒るだろうなぁと思ったので瞬時に止められた。
「体調は大丈夫なのか?」
「話すくらい大丈夫だから……」
「…………まぁ好きにしろ」
「なに?そのおじさんと仲良いの?」
「随分楽しそうにしてんじゃん」
「ははっ、そうだね」
「いやいや、なに笑ってんだよ」
「え……?」
なんだ……?妙に噛みついてくるな……。
「お前って最低ランクだよな?確か……待遇もチョー酷いんじゃないの?」
「…………あー、そうそう、めちゃくちゃ酷いんだよねぇ」
待遇……あ、ちょっと気になるし会話のネタになるかも。
「それなのにさぁ、お前――」
「待遇ってそっちはどれくらい凄いの!?いいなぁ……俺なんて兵士たちが使う狭い宿舎で寝るハメになってさぁ〜」
「え……?」
「兵士の宿舎って、どれくらい酷いん?」
「兵士が八人もギチギチに入れられるタコ部屋だから歩くスペースも狭いんだよねぇ……」
「うわマジか」
「最低ランクの扱いってそんな酷いのかよ」
厳密に言えば寮母さんがいつも綺麗にしてくれているので言うほど酷くはないし俺は嫌いじゃない。が、あえて誇張して説明する。なぜか俺に対して当たりが強いコイツらに快く情報を喋ってもらうためにもこれくらいのマッサージは必要だ。
「やっぱり俺よりも二人は待遇がいいんだねぇ……いいなぁ……それで?どんな待遇受けてるか教えてよ!」
「俺たちも酷いもんだぜ?なぁ?」
「あぁ、男女別で宿泊施設みたいなところに割り振られてさ、一人ずつに部屋が用意されたんだけど、まぁ狭くてよ」
「俺よりもめちゃくちゃいいじゃん!!ちゃんと一人用の部屋が割り振られてるんでしょ?」
「まぁ……お前と比べたらそうか」
「それでそれで?実際のところ……どんくらい大きいの?」
「えぇ〜……まぁ、教室の半分くらい……じゃねぇか?なぁ?」
「そんくらいじゃね?」
教室の半分って……結構あるな。
「飯とかなに食ってんの?」
「兵士と同じ食堂で食べさせてもらってる感じだね。スープとかパンみたいな」
「へぇ〜そりゃ酷いな。給食より酷いんじゃね?」
「二人はいつもどんなもの食べてるの?」
「宿泊施設にはメイドが数人いてさ、ご飯作ってくれんだよ。肉とか果物とか色々あったぜ」
「えぇ〜!!めっちゃいいじゃん!!」
「それにしてもスープとパンって……なんか可哀想になってきたわ」
「わかるぅ」
「ははっ」
…………やばい、他に聞きたいことが特にない。
それに、せっかく湯に浸かってリラックスしたいのに他人に気を遣うのも疲労のピーク的に限界だ。この辺で切り上げるか。
「話せて良かったよ!ありがとう!俺はまだここでゆっくりしてくから、また機会があったら話そうよ。じゃあね!」
そう言うと、目を瞑り……改めて湯船に全身を浸けてリラックスモードに入る。
「ふぅ〜…………」
「「………………え?」」
それにしても、ちゃんと自分の部屋があって飯も豪華で良いなぁ。それでも、満足できないんだから人間というのはなんと欲深いのだろう。といっても、現実世界と比較すると当たり前なのかもしれない。
だが、現実世界では味わえない体験もこの世界にはある。
星空は映画一本分の感動があるほどに綺麗だったし、布団もふかふか。その辺で野糞しなくても良い便所だってあるし、飯も旨かった。そして、こんな大きなお風呂……素晴らしい。
「おい……お前なめてんの?」
「……え?」
「さっきからさぁ、周りの人たちが噂してんだよ。『あそこに勇者がいる』ってな」
「話をよーく聞いてみるとさ……『勇者ヤマトが世界を救ってくれる』みたいなことばっか話してるわけ」
「確かお前の下の名前って大和だったよな?……お前なにしたの?」
「最低ランクに選ばれた腹いせに変な噂、撒いてんじゃねぇのか?」
「あー、なるほど……それで気になって話しかけてきた、ってことか。あれは違うんだよ、この隣のおっさんが勝手に騒ぎ立てただけで……」
「なんだそりゃ」
「つまりあれか?最低ランクのくせに一般人に『僕は勇者でぇす』って自慢げに話したってことかよ」
「よくもまぁ言えるよなぁ。俺たちアンコモンですら、とてもじゃないが自分たちが勇者だなんて恥ずかしくて言えないぜ?」
「あ、いや……そういうわけでは……ともかく、気分を害したなら謝るよ。ごめんね」
「俺たちに謝って済む問題じゃねぇだろ」
「俺たちの代わりに頑張ってくれてる唯有とか岡守に申し訳ないと思わねぇの?」
「つか、唯有にこのことがバレたら……お前タダじゃ済まねぇぞ」
「はぁ……」
面倒くせぇ。正直、俺はお風呂で癒されたいのよ。疲れてんの。お前たちが何を話しているか、もう頭に入ってこないのよ。
「おい、聞いて――」
「黙れガキども。俺に殺される前にさっさと失せろ」
あくまで殺す気はないだろうが……隣にいたヴィルトゥが魔力全開で凄む。
「はぁ――!?」
「な、なんだこのジジイ!!」
先ほどまで隣にいたサッカー部たちは瞬時に湯船から出ていく。
「あ、あのぉ……おっさん……近くでそれやめて……具合悪くなる……」
「おぉ……すまんすまん」
周りも騒がしくなり、ぞろぞろと外野が集まってくる。
ヴィルトゥが魔力を全開にすると、その魔力の大きさから衝撃波?みたいなものが周りに広がるので、こうなっても仕方がないのか?
「ほら、変な騒ぎになったじゃねぇか……」
「あらら……おーい、民衆どもぉ!問題ねぇからさっさと風呂入っとけー」
問題が起きたわけではないと知ってか、外野はどこかに散っていった。
――クラスメイトたちを除いて。
「おいジジイ!俺たちは勇者だぞ!」
「誰に向かって脅してんのか分かってんのか!?」
「ッ!?おいバカよせ!!」
「なんだぁ……?勇者と名乗るのは恥ずかしかったんじゃなかったのかぁ?」
いやいやいや、なんかヴィルトゥの周りから藍色の光が湯船に広がっていくんですけど……まさか――
「は……?」
「な、なんだこのジジイ……」
「俺たちはお前らの都合でこの世界に連れてこられたんだぞ!?そんな俺たちになんて口をききやがる!」
「知るか。文句なら女神に言え」
「うぜぇなコイツ……なぁ、コイツなら俺たちの力を試してもいいんじゃねぇか?」
「……!!……いいねぇ……死にはしねぇだろ」
は……?何をするつもりだ……?
「ジジイ……俺たちのゴールポストになってくれよ」
二人の足元には、なぜか……サッカーボールが突如として出現した。
「俺たちの能力は『超人サッカー』」
「言っとくが……破壊力すげーぜ」
そう言うと、一人はサッカーボールに乗って――
「いくぜ!!」
その辺をスケートのように滑り始めた。グルッと円を描いて進み、勢いはどんどん上がっていく。
「お、その技いくのか!んじゃ俺は――」
もう一人はサッカーボールを宙高く打ち上げる。
「いくぜ!!」
そして、勢いよく自らも宙にグルグルと回転しながら打ち上げたボールへと向かっていく。その跳躍力はとても人間にできる高さではなく、さらには回転すると同時に右足から……なんと、炎が燃え広がっていく。
とんでもない事態になってきたにも関わらず、ヴィルトゥは背中を向けたまま――今も湯船にのんびりと浸かっている。
「『スキー場殺人事件』っ!!」
「『メテオアサルト』っ!!」
謎の必殺技名を叫ぶと同時に今まで貯めてきた全エネルギーがボールに集中し、一直線にヴィルトゥの頭に向かって解き放たれる。
「ぬるいな」
解き放たれた二つのボールは、巨大なつららに貫かれ、氷漬けにされてしまった。それも、まばたきをする一秒にも満たない時間でだ。
「なっ……!?」
「は、はぁぁぁ!?」
サッカー部たちは、ボールを貫いた巨大なつららがどこに伸びているかを見て――
「な……なんだこれ……」
「うそ……だろ……?」
「おっさん……やっぱ俺と戦った時、全然本気じゃなかったのな……速過ぎる……あの一瞬でこんなものが出せるのかよ……」
「おもしれぇだろぉ〜」
湯船から巨大な氷で出来た竜の頭がニョキっと生え、その口から氷のつららがボールを貫通するように伸びていた。
今更、氷の竜を出したことや巨大なつららを伸ばしたことなどに驚きはしない。最も恐ろしいのは、これほど繊細で巨大なものを創り上げる『速度』――
「相手の能力が単純な遠距離なら、何も警戒する必要はないからなぁ……そういう時は速攻で片付けるのが一番だ」
「いやいや速過ぎだろ……こんなん見せられたら自信なくすわぁ……」
「別にお前と戦った時、さほど手は抜いとらんぞ。お前の場合、初手で何もしてこなかったことや勇者の未知数な能力などで警戒せざるおえなかったからな。あくまで手の内が読めた雑魚にはこれくらいで十分って話だ」
「ほんとかよ……」
「だが、いずれはこの速度にも対応できるようにならんと、とてもとても魔王となんて……はっ!」
「マジか……このスピードがマストかよ……どんな対策を取るべきか……」
「一体……何者なんだよ……こんなんありえねぇ……この世界の奴らは弱いから俺たちを召喚したんじゃないのか……?」
「て、手繰っ!!お前が調子に乗ってる理由が分かったぞ!そいつに気に入られたから威張っていられんだろ!」
「いや……別に威張ってない……」
「おいジジイ!!俺たちに手を出したからには覚えておけよ!俺たちより強い勇者なんて幾らでもいるからな!」
「そうだ……唯有や岡守……それとあの厨二病……あいつらならきっと……勝てる……よな?」
「お前らまだいたのか。あと三秒以内に消えないと、今度はお前らの自慢な足を貫くぞ?」
氷の竜から、またも一瞬で氷のつららが伸び――サッカー部たちの手前で突き刺さる。
「「……ッ!?」」
二人はダッシュで逃げていった。「うわ痛ッ!!」途中で一人こけた。皆さんもお風呂場などの滑りやすいところで走るのは止めましょう。
「つか、どーすんだよ……また人が集まってきたじゃん……」
「おぉーい!民衆ども!気にするなぁ!バカ共にお灸を据えてやっただけだぁ!かいさーん!!」
「あと早くコイツを消してくれよ……湯船の温度が下がっちゃうだろ……」
「おぉ、すまんすまん」
「…………消えるのも一瞬かよ……」
気付けば、遠くから見物していた他のクラスメイトたちもどこかに消えていた。




