第65話「魔力切れのリスク」
「大丈夫ですか……ヤマト……」
「……少しマシになってきた……」
「俺の魔力を少しだが分けてやったが、他人に自分の魔力を送るのは相当燃費が悪くてな、少ししか回復してやれん」
「いや、ほんとにありがとう……」
俺はおっさん臭のするベッドに横たわりながら、椅子に座ったソーレとヴィルトゥに看護してもらっていた。
どれだけ魔力が回復したか興味本位でステータスを確認してみる。
―――――――――――
<手繰 大和:Lv12>
【 生命力 】111/134
【 魔力量 】3/146
【物理攻撃力】84
【物理防御力】109
【魔法攻撃力】183
【魔法防御力】188
【 素早さ 】41
【固有スキル:コントローラー使い】
触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。
【カスタムスキル1:空きスロット】
???
―――――――――――
ジャックとの戦闘を経て、レベルは『1』上がっていた。
新しく分かったことは二つ。
一つ目は、レベルが上がるタイミング。
魔力の残数を確認するため、定期的にステータスをチェックするようにしていたが、ジャックを鎮静化した時点で経験値が入ったのだろう……レベルが上がった。
二つ目は、思ったよりもレベルが上がらなかったこと。
まともに戦闘したらジャックが勝っていた戦い――ジャックは俺よりも格上だと思っていた。
だが、蓋を開けると……本当に大したことない経験値しかもらえなかったのだろうか。レベルが1しか上がっていない。
本当はジャックのほうが弱かったのか、もしくは楽に勝ち過ぎてしまったからなのか……
いや、それよりも一番懸念しておかないといけないことは――
――レベルが上がる毎に得られる経験値量が少なくなる。
あまり考えたくはないが――『レベル』というものが存在している時点で、なんとなく察してはいた。
ゲームのようにレベルが上がれば上がるほど、レベル上げがし辛くなるルールなのだとしたら……
今後のヴィルトゥとの修行でレベル上げをする過程で要観察だな……。
それにしても――
【 魔力量 】3/146
「本当に他人に魔力を送るのは燃費が悪いんだな……たった『3』しか魔力を回復できてねぇ……」
「おいおい、わがまま言うな。これは魔力欠乏症の人間を助けるための応急処置だ。あとは寝て回復したほうが効率いいだろ」
「いや、なんか……想像していた以上に回復してなくてビビっただけだ……今後は魔力を大事に使わないとヤバそうだ」
「当たり前だ。というか……魔力欠乏症になるほど魔力を使うとは……普通は無理なんだがな」
「無理……?」
「本来、魔力ってもんは空になるまで使うことは出来ん。魔力は生命力そのもので、生命を維持するにも僅かだが使われているもんだ。体力もそうだろ?走り続ければ必ずどこかで息が上がって足を止めるのが普通だ」
「……確かに、魔力が一桁の数字になってから気分が少しずつ悪くなっていく気はしたが……」
「その状態で魔力が空になるまで能力を使えていたのか……?」
「あぁ」
「ふむ……それはマズいな」
「……え?」
「本来、魔力は空になる前に疲弊がピークに達して、強制的に魔法などは使えなくなり、まともに動けなくなるもんだ。だが、お前はそこまでの疲弊を感じず、動くことができ……魔力が空になるまで能力が使えた」
「それって別にいいことじゃないか……?魔力をギリギリまで使っても多少の疲労で済んで、能力も使えるんだから……」
「いいや、悪い。本来備わっているはずのストッパーが機能してないんだぞ?魔力欠乏症になった人間は最悪、生命維持ができなくなり死に至る」
「は……?」
「魔力欠乏症は、過去に戦争などの極限状態で稀に発生していたことだが……そのリスクが常に付き纏うのはマズい。魔力管理を怠った時点で時間切れで戦闘不能だ」
「……最悪じゃねーか……魔力が完全に切れたら、逃げるしか無いと思っていたが……まさか逃げることすらできなくなるとは……保険のために魔力を残すとしたら……使える魔力にかなり制限がかかる……うぁああ……どうしよう……」
「あ、ヤマトが久しぶりに情けない顔になりました」
「まぁ、今後は無理しないことだな」
「………………あ!――そういえば魔力を回復できる食べ物について何か知らないか?前にソーレに聞いたんだ。魔力を回復できるものがあるって」
「あぁ……あるにはあるが……」
「た、頼む!教えてくれ!それがあればいざという時――」
「……………………」
やけに珍しく、ヴィルトゥが黙って考え事をしている。というより、相当複雑そうな顔をしている。
「…………仕方ない。全てはソーレたんのためだ……俺も命を賭けるしかないな……」
「え……?命を賭ける……?」
「お、お父さん……?そんな無理しないと手に入らないものなの……?」
「あぁ……アレは言うなれば魔法使いにとっての最終兵器みたいなもんだ。口に含むだけで魔力を大幅に回復して戦闘を継続できる我が国だけが保有する宝樹に実る奇跡……」
「そ、そんな凄いものがあるのか……」
「代々、この国の魔導士になった者のみが秘密に管理することが義務付けられるものでな……知っているのは王族と現魔導士の俺だけだ」
思わず唾を飲み込み、ニヤけてしまう。
この世界において、魔力を回復する方法は限られている。
その中で、俺だけがその方法を知れた勇者……
おそらく女神も知らないことなんじゃないか……?
だとすれば、他の勇者や――女神すらも出し抜ける一手になり得る。
「嬉しそうに目をキラキラさせやがって……」
「……あ、悪い……でも、それを手に入れるために命を賭けるって……本当に大丈夫なのか……?」
「……おそらく、な」
こんな深刻そうな顔をしてるってことは……相当危険なのだろう……
宝樹に実る奇跡……つまりなんらかの果実……おそらく自らの生命力などを代償にしないと手に入らないのかもしれない。
「お父さん……さすがにそれは……」
「いいや、大丈夫だ。俺も相当歳を食っちまったが……まぁまだいけるだろう……」
「すまねぇ……そこまでしてくれて……」
「へっ……いいのさ。言っただろう?ソーレたんのためならば俺は命を賭ける。それにお前とも約束したからな。必ずお前が魔王を討伐できるまで強くしてやると。途中で魔力切れになって死なせたとあっちゃ、魔導士の名が廃る」
「おっさん……」
「お前が次の作戦に行く時までに可能な限り用意しておいてやる。だが、本当に希少なものだから、本当にいざという時にだけ使えよ?」
「あぁ、分かってる。任せてくれ」
………………あれ?
でも、なんかこの流れ……あまりよろしくない結末が待ってそうな……
「ところで、その貴重な果実ってどうやって手に入れるんだ……?」
「ところで、魔力が空になる今まで何をしていたんだ……?」
「質問を質問で返すなよ……」
「トラブルが発生したから助けてくれ……ソーレたんが俺を頼るなんて相当なんだろう……?そろそろ説明してくれてもいいんじゃないか?」
はぐらかされた……?
それだけ話したくないことなのか……?
王族と魔導士しか知らないほどの秘匿情報……当たり前と言えば当たり前か……?
だが、確かにジャックのことなどを早く説明しておかなければいけないのも事実。
ひとまず魔力回復アイテムのことはヴィルトゥに全て任せ、今まで何があったのかを説明することにした。
……………………
…………
……
「……そうか……あの青二才がそんなことを……」
正直、ジャックとの一連の話をした後、ブチ切れるものかと思っていた。
先にソーレが殺そうとしたとはいえ、ジャックはソーレを襲おうとした。
ソーレの敵は即殺す、みたいな男が――怒りではなく、哀しい顔を見せていたのは意外だった。
「ジャックの父親はな……ふぐっ……」
「え……?」
「お父さん……?」
な、泣いてる……?
そうか……おっさんにとって……ジャックの父親は……
「――アイツは……どうしようもないクズだったぁ……」
「「は……?」」
「毎日、酒を飲んでは夜な夜な女と遊びに遊んで……気付いたらガキが産まれたってのに他の女と遊ぶような……そんなクズ野郎だったぁ……」
「「えぇ……」」
「ジャックを産んだ女は美人だったが遊び人でなぁ……ジャックが産まれてすぐに孤児院に預ける始末でなぁ……」
「「えぇぇ……」」
「だがなぁ……ジャックはそんなことを一切気にもせず、クズな父親を尊敬してたんだよぉ……」
「「えぇぇぇ……」」
「あのクズは、正真正銘のクズだったが……火魔法は俺と引けを取らないほどの達人でなぁ……よく俺の遊び相手になってくれたもんだぁ……」
「どこからつっこめばいいかな……?」
「私にも分かりませんよ……」
「まぁ……そんなクズ親父と俺の関係なんて、ジャックは知る由もないことだがなぁ……ジャックが唯一知ってたことは……『北』との戦争があった時……俺が前線に行くまでの間、たった一人でクズ親父が前線を守り切った……って話なんだが……」
「「……………………」」
「当時の『北』の魔法士たちも良いのが揃っていてなぁ、それを一人で凌ぎ切ったんだから……そりゃ英雄に……いや……英霊になっちまったのさ……」
「そんなことがあったのか……」
「クズにはクズのカッコいいところがあったんですね……」
「言い方ぁ……」
「その話だけがジャックの知る父親像なんだよ……だからなぁ、アイツは子供の頃から……」
「「子供の頃から……?」」
「クズだったんだぁ……」
「「えぇぇぇぇ……」」
「クズな両親の悪いところだけを形にしたような奴でなぁ……才能はあるのに真面目に修練をせず、遊んでばかりのダメェ〜な奴だったんだぁ……」
「「まぁ、でしょうね……」」
「父親の良い逸話だけを知ってるせいで妙にプライドも高くてなぁ……志は高そうなんだが行動が伴ってない……そんな奴に育っちまったぁ……」
「周りがもっとなんか言ってやれよ……」
「いえ、ジャックはそんな指摘には耳を貸さない生粋の自己中ですよ……」
「はぁ……こうなるくらいだったらいっそ……半殺しにしときゃ良かったなぁ……」
「こえぇ……」
「半殺しになるまで修行をつけてやっていれば、という意味ですよ……多分……」
「すまんなぁ……手を煩わせて……」
「いや、いいよ……つか、別におっさんのせいじゃないし……」
「うん……だから気にしないで……」
「ごめんなぁ……」
鼻をズズッと強くすすった後、ヴィルトゥはいつものドスの効いた眼光に戻る。
「ともかく、今後ジャックがソーレたんや坊主に危害を加えようとしたら、俺がキッチリ処分しとくから安心してくれ」
「こえぇよ……まぁ、殺さない程度でよろしく……」
「ありがとね……」
「…………それにしても、なるほど。だからか……」
「ん……?」
ヴィルトゥが真っ直ぐに俺を見る。
「俺と戦った時よりも……また一段と成長したな」
「え……?」
「お前が纏っていた空気に、迷いが一切ない。幸か不幸か……今回の一件で何かを掴んだな?」
「…………まぁ、な」
「そして、ソーレたんに感謝しろよ……?」
「ん……?」
「人を殺める……ってのはそう簡単なことじゃない。いや、殺すこと自体は簡単なのかもしれない。それだけの力をお前は手にしてしまったからな。だが、殺人をするってことは……自分すらも殺める行為に繋がる」
「……………………」
「一回でも人を殺めるとな……どこかが必ずぶっ壊れるんだよ。自分が殺した相手の声が夜な夜な聞こえたり、殺しを正当化するためにさらに非道なことも平気でやれるようになったり……人が人として生きていくための重要な何かが欠落する……」
「……あんたも……そうなのか?」
「俺か……?…………そうだな、俺の場合は時代が時代だった……って言い訳しかできないほどの激動な時代だった。数百、数千、数万を殺し、ありとあらゆる闇を見て、屠ってきた……だが、俺には『王』という希望があったから……まだマシな方なのかもな」
「希望……」
「だが、お前たちは違う。いや、戦争であることに違いはないが……それでも、未来の自分を暗くするような行動だけはしないでくれ」
ヴィルトゥは俺だけではなく、きっとソーレにも伝えたかったのだろう。
いつもは愛娘を甘やかすだけの男が、この時だけは――厳格な父親としてソーレにも目を向けていた。
「「はい!」」
改めて俺たちは、今後の戦いに向けての決意を固めた。




