第64話「尾行……?」
「ちょ、ちょっと待って……それはおかしい。ではどうやってジャックを……いや、それよりも……私を信用していないのですか……?」
ソーレは困惑と疑いの眼差しをこちらに向けてくる。当然か。
「落ち着け。俺はソーレを信用しているし、嘘偽りのない真実を話している。俺はまだ、人間を操ることができないままだ」
「…………では、先ほどジャックの肉体を支配していた能力はどう説明するんです?」
「いや、あれはジャックを操っていたんじゃなくて――ジャックが身につけていた衣服や装備品を操っていたんだ」
「???……………………は?」
「ジャックの身につけていたもの全てを『人の形をした物』と認識することでジャックの動きを制限する拘束具にした」
「…………???……ちょっと、言ってる意味が分からないです……」
「ほら、覚えてないか?俺とソーレが試合をした時――俺は甲冑を操っていただろ?」
「た、確かに操っていましたが……甲冑と衣服は……全くの別物では……?」
「俺も最初はそう思ったんだが……できちゃったんだよ……」
「なんですかそれ……」
「まぁ、今振り返ってみると……納得ができなくはない。甲冑は全てが繋がっているというわけではなく頭部や上半身、下半身など細かいところで分かれていた。それら全ての物を『人の形をした物』として一括りに認識することで、まるで人が動いているかのように動かせた――とすれば、ジャックが身につけていたもの――白銀のマントから軽装備、その下に着ていた衣服や靴、パンツに至る全てを一括りにして『人の形をした物』と認識し操る……これがジャックを操れたカラクリだ」
「えぇ……」
「その目、やめてくんない……?」
「そんな曖昧な能力を……実戦でいきなり使ったんですか……?」
「そんな無謀なことは流石にしないって。だからジャックと戦う前に検証する時間が欲しかった」
「…………あぁ、だから10分ほどの間隔を空けて、先にヤマトが砂浜へ向かったんですね……え?でもどうやって検証したんですか?」
「当然、自分が着ている服で試した」
「……ふふっ」
「あ!想像して笑ったな!?――言っとくが服は着たまま試したからな……全裸でやってないからな……?」
「……あ、脱いでなかったんですね」
「……………………」
「まぁ、着ていたとしても十分おかしいですけど……なるほど……だからジャックの頭が無駄に動いていたんですね」
「頭には何も付けてなかったからな」
「……気付こうと思えば気付けましたね……頭、いや首が動けた時点で肉体ではなく身に纏っていた物を操ることにも冷静になれば気付けたはず……やはり相当博打だったのでは?」
「なるべく冷静にさせず、あたかも俺が肉体を操作するように見せかける……くらいのことはしたが……まぁ地理的な有利もあったし、バレても特に問題はなかったかな」
「地理的な有利……?」
「ジャックは火魔法が使える。だが、ヴィルトゥのように炎の形を自在に変形させるコントロールは出来ず、ただ放出するだけ。だったら、海で戦えば十分に鎮圧できると思ったんだよ」
「それは確かに……だからバルトさんたちにジャックが使える魔法を詳しく聞いていたんですね」
「才能に溺れて修練をサボる癖も聞けて良かった……仮にジャックが他の兵士にも隠している能力があったら……とも思ったが、その可能性は低いだろうと見積もれるし」
「ですが……やはり全体的に博打が過ぎるのでは……?ジャックが計画通りに動かなければ……今頃どんな目にあっていたか……」
「耳が痛いな……だが仕方ないだろ。時間がなかったんだから。元々ジャックは将来的に敵になると思っていた。だから、ヴィルトゥとの修行で力を付けたら鎮圧する予定だった……んだけど……」
「……タチバナを助けるために思わず体が動いてしまった、と」
「……そんな大層なもんじゃない……俺はあの時、橘を助けるために動いたんじゃない……」
「……?」
「最初は……そう、橘を助けてやりたい、と思ってはいたんだ……だけど、段々……目の前の悪意を……ぐちゃぐちゃにぶち壊したくなって……不思議なことに……なんでも出来る気がした……」
「ヤマト……?」
「そう……なんでも出来る気がしたんだ……なにもかもが自分の思い通りになるような……全能感?……そしたら、アイツを苦しめるアイデアがどんどん湧いてきて……そう、あと少しで……俺は……」
「ッ!?……ヤマト!!」
――バチンッ!!
「――ぐぇ!?――えッ!?……な、なにすんの……!?」
「い、いえ…………客観的に見て非常にイタいな……と思いまして」
「い、イタい!?……痛いのは俺の頬なんですけど……」
「と、ともかく……途中から彼女を助けることよりも私情に駆られて動いていた、ということですね?」
「あ、あぁ……そうなる……かな……」
「……まぁ、理由がどうであれヤマトが彼女を助けた、という事実は変わらないと思います……ただ……」
「ただ……?」
「彼女には相当警戒されてるようですね……」
「?……どういう意味だ?」
「気付いてませんか……?彼女、近くにいますよ?」
「……え?」
「おそらく、私たちのことが気になって……後をつけてきたんでしょうね。足跡が残ってます」
「よく分かったな……」
「これでも隠密部隊を志望していた兵士ですので。でも……さすがにこの足跡はヤマトでも分かりますよ」
「…………これは」
「街から砂浜へと向かう足跡は薄く分かりずらいですが……砂浜から街へと帰る足跡は、所々くっきりとした足跡があります。おそらく走って戻ろうとしたのでしょう」
「なぜ走って……?そもそもジャックはいないわけだし、コソコソ隠れる必要はなくないか?」
「…………それ本気で言ってます?」
「……?」
「ヤマトは確かに彼女の窮地を助けました……が、その後がいけなかった……男に襲われて傷心している少女に対してヤマトは能力を無理矢理使うよう命令していましたし……」
「………………あ」
「おそらく、先ほどのジャックに対する水責めなども見られてるでしょうから……」
「あ………………」
「怖くて逃げてしまうのは当然じゃないですか……」
「……悪いことしたな……それで、近くにいるんだろ?……どうする?」
「あまり運動が得意そうな子ではなかったので、おそらく息があがって……どこかに隠れているのでしょう。足跡を辿れば場所は特定できますが……ここは無視してそのまま進みましょう。これ以上怖がらせる訳にもいきませんし、彼女には一人で考える時間が必要だと思います」
「……そうだな」
「あと……次に彼女に会ったら必ず謝ること」
「分かってるよ…………そんで、次はソーレの番だろ?能力教えてくれよ」
「ここではダメです。タチバナに聞かれるかもしれません」
「…………お前、本当は能力話したくないだろ」
「そんなことないですよ。ヤマトにだけ……後で全てを教えてあげます」
「…………はいはい」
この先のどこかに隠れているであろう橘に聞かれても問題ない……たわいもない話をしながら――俺たちはヴィルトゥのいる薬屋へと歩を進めた。
……………………
…………
……
「なんとか……間に合ったか……」
「……?――今、ドアを開けますね」
ソーレは腰に下げている道具袋からキラキラと宝石が散りばめられた金色の鍵を取り出す。
「……え、なにそれ……家の鍵なの……?」
「…………それ以上なにか言ったら――」
「ごめんなさい………………あのおっさん、なんて目立つもんを娘に持たせてんだよ……」
俺たちはヴィルトゥとソーレの家である『世界最強の薬屋』へと入る。
今朝、ここで味わった恐怖を思い出し悪寒が走る。
「お父さーん?」
ッガタ――ドドンッ――ガガッ――
ソーレの声が店の中に響くと同時に奥の部屋から、けたたましい物音がすると――
「…………え?――なんで?」
ひょこっとヴィルトゥが顔をのぞかせた。
「ちょっとトラブルが発生して……助けて欲しいの」
「……ッ!?――な、何があったァ!?」
瞬時にヴィルトゥの全身が白く発光し――臨戦体制に入った。
こういう所は見習うべきだな――と思う反面……
「急ぎじゃないの。とりあえずこんな狭い空間で魔法全開はやめて……息苦しいから」
「え……?そうなの……?」
弱々しく発光が収まっていく。
「でも、外に一人……道の角のほうにいるが……もしかして……狙われているのか?」
「あ、その子は違うの。敵じゃない」
「やっぱ陽魔法って凄いな、一発で橘の存在に気付きやがった」
どうやら橘は、俺達をその後もつけていたようで……というか――
「あの子って意外と……行動力あるんですね。もっとおとなしい子かと思ってました」
「俺もそう思ってたんだが……好奇心ってやつかな?――でも、流石にアレはないよな……」
「ですね……」
――素人の俺でも気付くほど、バレバレな尾行をしていた。
「気付かないフリをするので精一杯でした……」
「途中で物音たてるわ……その時に声出して驚いたりするわ……」
「距離も……割と近かったですよね……」
「だな……」
「おいおい……二人でなに楽しそうに話してるんだ、俺も混ぜてくれ」
「……あ、悪い……と、その前に……もう限界……っぽい……」
全身から力が抜け――その場で倒れてしまった。
「……ッ!?――ヤマト!?」
「お、おいおい……突然どうした……!?」
「魔力が完全に切れた……はぁはぁ……うぇ……気持ち悪ぃ……魔力がゼロになるとこんな気分になんのか……」
「魔力が切れた……?」
「ジャックを拘束するために魔力を使い続けててな……本当にギリギリだった……」
「確か坊主の能力は操作対象一体につき、一分操作する毎に魔力を1消費する……だっけか?……ん?ジャック……?拘束……?」
「話は後。今はヤマトを安静にさせなくちゃ――お父さん、ヤマトを私の寝室へ運んで!」
「いいや、ダメだ。俺の寝室に運ぶ。ソーレたんの神聖な部屋に男を入れるわけにはいかん」
「もうどちらでも構いませんので……助けてください……」
ヴィルトゥの魔法でふわふわと宙に浮かべられながら運ばれていった。




