第63話「ゴミ処理」
「さーて……これからどうすっかな」
「ですね……」
正直、もう宿舎に戻って寝たい。
今日は色んなことがありすぎてヘトヘトだ。
『世界最強』を名乗る魔導士、ヴィルトゥと死闘して右手は爆散して小指失うわ、両足はもげて付け直されるわ――
ソーレと魔法の修行したけど1ミリも魔力は出ないわ――
ようやく風呂入って飯食って寝れる――と思ったら、俺と同じコモン勇者の橘に護衛としてついていたジャックが俺の予想を遥かに上回るほどの早計な奴で、こうして対処しなきゃならなくなって――
「えーっと、その……へへ、さっきの話の流れからすると……もしかして俺……助か……ります?」
「は?――助からねぇよ?――殺しはしないってだけでお前をほっとくわけねぇだろ」
「え……?」
「このゴミの処理……本当にどうしましょう」
「んー……とりあえず国外追放とか?」
「え…………?」
「国外追放――となると、この大陸とは別の大陸に船で渡らせる必要があります……ですが、そもそもこの国は他の国とは国交が開かれていません。もしもこのゴミを密入国……不法投棄しようものなら、後々の国際問題になるかもしれません」
「へぇ、この国って国交開いてないんだ。あんな優しくてしっかりしてそうな国王なのに」
「国王は他国と交流を深めたいようですが……この大陸は狙われているんですよ。資源は豊富ですし凶悪な魔物の脅威にさらされない平和な大陸。どこの国も喉から手が出るほど欲しいんです」
「え、じゃあ魔王が仮に首都までやってきて、完全に侵略されたら本当に逃げ場ないじゃん」
「その通りです……でも、冗談でも魔王に侵略されるって言わないで」
「はい……ごめんなさい……まぁつまり、海を渡った先にある他の国は非協力的で――あわよくば魔王に占領された大陸を『魔王討伐』と称して奪いたくてたまらないってわけだ」
「おそらくそうでしょうね……まぁ、周辺全ての国がまとめて攻めてきても、うちのお父さん一人で迎撃される程度なので、魔王討伐なんてそもそも無理だと思いますけど」
「マジか……やっぱ、あのじいさんとんでもねぇな――となると、マジでこのゴミどうすりゃいいんだ?」
「あ、あの……本当に勘弁してくれないっすか……?――今後二度と……絶対に……あなたたちには手を出しませんから」
「汚ねぇ口から出まかせ言ってんじゃねーぞ!唇を糸で縫ってやろうか!?」
「……喉、潰しておきます?」
「ひっ……!!」
「どうせ殺されないことをいいことに――女神や他の兵士とかに、今回のことを報告して俺たちを悪者にしたてあげよう、とか――『あなたたちには手を出しませんから』って言ってたが、俺たちの周辺は対象外だから……みたいな謎ルールで邪魔しに再登場する、とか――ろくでもないこと考えてんだろ?」
「……………………」
「図星って顔してますね」
「コイツに反省するって考えは無いのか……?――なぁ、もうコイツ殺したほうが早くね?」
「それはダメ。絶対。殺すのは簡単で楽ですが、楽な選択をすれば必ずしっぺ返しがきます」
「まぁ、そうだよなぁ。死体処理なんか万全にしたとしても――この世界の捜索レベルが分からんからなぁ……俺が元いた世界だと、人殺しなんてしたら、どんなに証拠を隠蔽しようにもあらゆる手段で特定されるが、この世界には魔法があるし……仮に犯人探しに特化した魔法とかあったら人殺しで指名手配されて詰むな」
「さっきよりも冷静に状況判断できてるじゃないですか」
「お前に言われたかねーよ」
「ちなみに、そういった犯人探しのできる魔法は存在するみたいですよ。あくまで噂程度で知り得た情報ですが」
「あーやっぱり?――ふーむ……殺しは無しでゴミを処理する方法……か。難易度たけぇなオイ」
「……さっきからゴミゴミうるせぇぞ」
「ん?」
「へへっ、そうさ!お前たちは俺を殺せない!――だが、俺はお前を殺せる後ろ盾があるし、ソーレちゃんは俺に真っ向からは勝てない!――復讐してやるよ……解放されたらお前らには俺が味わった屈辱の全てを味合わせてや――」
――トプンッ
「何秒沈めます?」
「んー、とりあえず50秒」
……………………
…………
……
「――ずび、ばぜんでじだ……」
「俺の認識が間違ってたわ。コイツ正真正銘のバカだわ。バカの天元突破だ」
「あ、ようやく気付きました?」
「はぁ……どうしよっかなぁほんと……」
「……思ったんですが、ヤマトの能力でジャックを操れば良いのでは?」
「……ッ!?」
「……………………ほう?――ソーレ君、詳しく話を聞かせてくれたまえ」
「彼が私たちに復讐できないように人格ごと支配するんです。もし悪さをしようとしても、自動で止まる――みたいな」
「人格支配か……面白そうだな」
「そ、そんなことが可能なのかッ!?」
「その考えでいくと……人格を破壊――なんてことも可能かもな」
「おぉ、それは良い考えです!」
「ちょ、ちょっ待っ――」
「周りから見たらジャックは死んでないが中身の人格は死ぬ……控えめに言ってナイスアイデアじゃないかっ!!さすがだソーレ君!!」
「もっと褒めてください」
「ま、まま、ふざけんなっ!!」
「んー?どした?」
「俺の人格が死ぬ……だと?」
「あぁ、俺がお前の肉体を操っていつでも殺せるように――お前の精神そのものを操り、破壊する」
「な、な……」
「ちなみに……すでにお前は俺の操作対象になっているから――いつでもお前の人格を消せるぜ?」
「…………うそだ……うそ……うそうそ…………そうだ、嘘!!――ハッタリだ!そんなことが可能なら最初っからそうしてるはず――」
「俺のこの能力は、魔法と一緒で……解釈次第で今まで出来なかったことができるらしい」
「……え?」
「俺だって、相手の人格ごと操ったりする――なんて非人道的なこと、思いつきもしなかったんだが……ソーレのおかげで、その解釈を得た――」
「それ、遠回しに私が非人道的と言ってません?」
「――おかげで、お前の人格を支配し跡形もなく破壊することが可能になったぜ?」
「……そんな……めちゃくちゃなこと」
「めちゃくちゃだよなぁ――でも、勇者の力ってのは俺たちの想像を遥かに超えた代物らしいぜ。実は、今お前の肉体を操れているのも、ついさっき覚えたばかりなんだ」
「は……?」
「女神からすでに教えてもらってると思うが――勇者には『カスタムスキル』っていう、能力を強化する仕組みがあってだな、これを使うと今まで出来なかったことができるようになる。お前も『俺の能力が覚醒した』って叫んでただろ?アレだよアレ」
「な……」
「俺は『カスタムスキル』を活用して『人を操作できる能力』を得た。今まで物質しか操れなかったのに人間まで操れるようになったんだぜ?――だが、俺が想像していたのは肉体を操るってところまでで……人格を支配するってところまではイメージしてなかったんだよ」
「……?…………??」
「………………んーっと、もっと分かりやすく言うとだな……お前は火の魔法が使えるだろ?火魔法は『温度」に干渉できる性質を持っているらしいが、その温度を上げるんじゃなくて下げるって解釈をすると――凍らせる魔法、つまり氷魔法が使えたりする。それと一緒だ」
「……は?――そ、そんなこと……火魔法で氷が……か、可能なのか!?」
「可能だ。俺もヴィルトゥに直接見せてもらった」
「ヴィ、ヴィルトゥに……直接!?――な、なんでお前がアイツと――」
「今朝、ヤマトはお父さんと戦ってるんですよ」
「…………はぁ!?」
「……その時におった傷が……この欠損した右手だ」
「……うそ……だろ」
「……話が逸れたな――まぁ、つまり――解釈次第で勇者の能力も出来ることが増やせる――そして今の俺はお前の人格を破壊できる――ここまで理解できたか?」
「ッ!?――や、やめてくれ……やめてくれ頼む!!――今度はマジだ!!完全に降伏する!!だから――」
「その言葉が本心かどうか……俺たちには判別できないんだが?」
「頼む、なんでもする!!俺が悪かった!!――そ、そうだ!!俺もお前の仲間になる!!味方は多いほうがいいだろ!?お、俺も魔王討伐に参加させてくれ!!ソーレちゃんが魔王にトドメを刺すんだったよな?俺も手伝わせてくれ!!お、俺だって無能な女神より、実際に俺を倒してみせたお前についたほうが良いって分かってる!!だから――」
「なぁ、ソーレ。本当に厄介な敵って誰だか分かるか?」
「――へ?」
「そうですね……無能な味方……かな」
「だよなぁ……というわけでジャック……お前の手助けなんていらない」
「え……ええ?」
「お前に一度だけチャンスをやる。今後一切、俺たちの前に姿をあらわすな。女神とも関わらず、女神直属部隊から抜けろ。国外追放は無理だから――首都から離れて生活しろ」
「え?――は?」
「首都から離す……ヤマト、それは良い考えかもしれません。ジャックは脱走兵扱いにして、女神に一切報告もさせずに首都から遠く離れた西の村などで暮らしてもらいましょう」
「ちょ、ちょ――」
「脱走兵か、ナイスアイデアだ」
「ま、待ってくれ!そんなの無理だ!そんなことしたら俺の出世コースが――」
「諦めてください。というか、まだそんなこと考えてたんですか?」
「いや、普通に出世なんて無理だろ……お前は女神の命令だったとはいえ、勇者に危害を加えたんだぞ?――そんなことをしでかした兵士が今まで通り兵士でいられるわけないだろ」
「……へ?」
「むしろ、女神からクビを言い渡されるだろうな……全責任はジャックにあり私は一切関与していません……とか言われてトカゲの尻尾切りされるぞ」
「……あ」
「理解したか。そう、お前はもう詰んでるんだよ。もし俺たちが今回の出来事を周りに知らせたら、出世コースどころか罪人扱いだ」
「ちなみに、私にも危害を加えようとしましたよね?――そのことをお父さんに報告したら、間違いなく殺されますよ?」
「……いや、あれはソーレちゃんが俺を殺そうとしたから……」
「なにか言いました?」
「……あ、いえ、なんでもない……です――で、でも、あんな権力にしがみついているだけの老いぼれなんかに俺が負けるわけ――」
「ちなみに改めて言っとくが、この右手の指……ヴィルトゥにやられました」
「……………………」
「今は治ってるが、実は両足も切断されました」
「は……?」
「俺は今日、あのじいさんと戦ったが……正直、手も足もでなかった……俺に負けたお前が勝てるわけねーだろ」
「ぐくっ………………え?……じゃあ、俺はもう……本当に……終わり……?」
「話を戻すぞ、すでに詰んでるジャック君。お前を救える最後のチャンスが一つだけある」
「……え?」
「俺とソーレは今回の件を周りに黙っておく。そうすれば、お前は罪人ではなく『ただの脱走兵』となり、遠く離れた場所でも暮らしていけるだろう。もちろん、期限付きだ。俺とソーレが魔王を討伐したら、俺は元の世界に帰るから――そうなったら、また首都に戻って兵士にでもなればいい」
「…………俺にはもう……その選択しかないのか……」
「こればかりは仕方ないだろ。ちなみに今回のこと、ヴィルトゥには報告する」
「……なんでだ?」
「ソーレを守るためだ。もしもお前がソーレに危害を加えようとしたら、確実にヴィルトゥはお前を殺す。あと、変な気を起こさないように、もう一度だけ言っとくが……マジでヴィルトゥはバケモンだ。お前なんて本当に相手にならん。せっかく俺が殺さずに生かしてやろうとしてるのに、ヴィルトゥに殺されたら意味ないから、一応警告しとくぞ」
「わ、分かった……」
「――ただし、もしも今後――俺たちの前にあらわれたり、邪魔をしてきたり、女神に接触したり――改めて俺たちがお前を敵だと判断した場合――お前の人格を壊す」
「うっ……」
「ちなみに、これは遠隔でも発動可能だ。そして自動で発動するようにもしてる。さらに、俺が死んだとしても発動する」
「……は、はぁ!?」
「仮に俺がお前に暗殺されたとしても、それは発動するし――俺が死んだり元の世界に戻ったとしても――約束を破った瞬間に発動するようにしておいた」
「ヤマト……それはさすがに……」
「いや、これくらいしなきゃダメだ。でないとコイツはまた同じことをする」
「そ、そんなの……あんまりだ……それじゃまるで……呪いじゃないか……」
「おいおい、約束を破らなければ別になんの害もないだろ。まさかお前……なんかやろうとしてたのか?」
「い、いいいやいや、そんなまさか!!普通にそんなことされて……呪いだと思うだろ!!」
「まぁ確かに。でも、俺たちに敵対せず魔王が討伐されるまで遠方の地でひっそり暮らすだけで――罪人扱いを免れるんだぜ?安いもんだろ」
「でも……脱走兵って……」
「あーのーなー、そんなこと言える立場じゃないんだってお前。自分がどんだけ悪いことしたか分からねぇのか?」
「……………………」
「お前につけた呪いは、その戒めだ。今までの自らの行動を顧みて反省しろ」
「…………くそ……俺の何が間違ってたんだよ……こんなはずじゃ……俺が……こんなところで……」
「ダメだこりゃ」
「もうその辺にしましょうヤマト。ジャック、首都に入った瞬間……お父さんがアナタを殺しに向かいます。死にたくなければ魔王討伐まで帰ってこないこと。いいですね?」
「……わ、分かった」
「本当に分かりましたか?首都に入った瞬間、悪事も全部バラしますからね。社会的にも殺すのでお忘れなきように」
「うっ……」
「はぁ……本当に手間がかかる……それでヤマト、この後はどうしますか?」
「んー、ひとまず俺たちが街に戻るまではジャックは動かさないでおこうかと思う」
「そ、そんな……話が違うだろ!」
「まぁ落ち着け。俺たちはお前を完全に信用しちゃいない。俺たちは街に戻って、ヴィルトゥに今回のことを話す。それが終わったら、また動けるようにしてやるよ。ただし、お前につけた呪いはいつでも発動することを忘れるな。これはあくまで一時的な解放だ。いいな?」
「……そうか」
「よし、ソーレ。街に戻るぞ」
「はい」
……………………
…………
……
「ジャックは本当に信じますかね?」
「んー、まぁ途中からは本気で信じてそうだったし……仮に約束を破ってもヴィルトゥに報告した時点で俺たちの勝ちだ」
真っ暗な夜道を光石の入ったランプが小さく照らす。
「それにしても盛りすぎでは?――死んでも能力が発動する……なんて」
「あーやっぱり?俺も正直やりすぎだったと思うけど……アイツ……本気で信じてそうだったな……」
「まさか……あそこまでバカとは思いませんでした……」
「でも、逆を言えばバカで良かったよ。ハッタリだと気付かれたら……どうしようかと……」
「そうですね……バカで本当に良かった……」
即興ではあったが、どうにかジャックを殺さず――封殺することができた……かもしれない。
「ところで、どこまでがハッタリだったんですか?」
「え?」
「ヤマトの能力のことです。本当に人格すら操れるようになったんですか?」
「んーっと……」
真実を明かすのはさすがにマズイか……?
…………いや、ソーレは味方だ。
それに、能力をお互いに把握しておかないと――
「俺の能力の全てを話す代わりにお前の覚えている魔法も全部教えてくれないか?」
「え……それはどうして?」
「これから協力して戦ってくれるんだろ?――その場合、お互い何が出来るのか知っておかないと大事故が起きかねない。戦闘では特にな」
「……なるほど、分かりました。ではそちらから」
「よし、じゃあいくぞ――」
「――俺は人格を操れない。そもそも人間すら操れない。今まで通り、俺の能力は――物質を操ることしかできない」
「……………………え?」




