第51話「カスタムスキルと弱点」
さて……改めて整理しようか。
俺の現在のレベルは『11』
カスタムスキルはレベルが10の倍数になるごとに一つだけ獲得することができる。
レベルは最大で100まで上げられるらしいので、最大で10個までカスタムスキルは手に入る。
カスタムスキルは固有スキルに関連したものしか付けられない制限はあるものの、関連するものであれば自由に能力を決められるらしい。
改めてスキル周りを確認してみる……、
【固有スキル:コントローラー使い】
触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。
【カスタムスキル1:空きスロット】
???
いくつか疑問が生まれる。
どうやってカスタムスキルは付けられるのか。
ステータスを確認したいと頭で念じれば、ステータスが脳内で確認できるように――、
カスタムスキルも『◯◯のカスタムスキルが欲しい!』と念じれば得られるものなのだろうか?
そもそも都合良く、即座に反映されるものなのか?
仮に、カスタムスキルを付けた三日後じゃないと使えません……みたいな条件があったら、いざという時ヤバい。
正直、今すぐ試したくてしょうがない。
今すぐに『人を操る』カスタムスキルを手に入れて安心したい。
――だが、俺は……グッと我慢する。
数日後の拠点奪還作戦に駆り出された際、人を操る能力があっても生き残れない可能性が高い……。
相手はおそらく万を超える怪物の軍勢。
怪物を仮に操れたとしても、万を超える軍勢に対しては無力に等しいだろう。
戦争系のゲームしかやったことのない戦争未経験の俺でも……質より量が圧倒的に強いと理解できる。
それに俺の能力は、操作対象の支配権を維持するだけでも、一対象につき一分間で魔力を『1』消費する。
今回のレベルアップで魔力量が――、
【 魔力量 】72/133
上限が133まで増えたのは嬉しいが……怪物を仮に十体でも操作しようものなら、13分で戦闘不能だろう。
人を操る能力は、喉から手が出るほど欲しい。
今後のためにも絶対に手に入れておきたい能力だからだ。
だが今は……『万を超える軍勢をも圧倒できる能力』が欲しい。
ヒントはすでにヴィルトゥとの特訓で得られた気がする……漠然とだが……。
しかし、拠点奪還作戦がどういった事態になるかは未知数なため、今すぐカスタムスキルを付けるというのも気が引ける……
しかししかし……即座にカスタムスキルが反映されるかどうか……
やはり……誰か別の勇者で実験するしかないな……
確か、今日からランクがレア以上の勇者は訓練が始まるはず……
どうにか、その中からカスタムスキルを身につけた奴を見つけて、話を聞き出してみようか……
レア以上で俺でも会話できそうな候補は二人いる。
レジェンダリー勇者の岡守先生とクリムゾン・アイズ・ブラックだ。
あの二人なら、日常会話のついでにカスタムスキルの体験談が聞けるかも……
女神の目を掻い潜る必要はあるが……
難易度たけぇ……
「さっきから坊主は何をしてるんだ……?」
「多分、考え事してるんだと思う」
「……頭を抱えたり、顔をくしゃくしゃにしたり……忙しい奴だな……」
「これが平常運転だよ」
いや……待てよ……?
もっと経験値を稼いで、レベルを20まで上げられたら……カスタムスキルの枠がもう一つ増える。
そうすれば……
いやいや、そうじゃないだろ。
カスタムスキル無しでも、創意工夫で……万を超える軍勢ともやり合える戦い方を身につける。
これが今やれる俺の最善だ。
カスタムスキルは未知数な可能性を秘めていると同時に、不確定要素が多い……これを期待して戦略を練るのは間違ってる。
今あるもので対策を練らないと、必ずどこかで足元をすくわれる気がする。
「よしっ!!――修行だ!!」
「……突然起き上がって叫ぶ……実は坊主って頭おかしくて危ない奴じゃないよな?」
「否定できないかな……」
「……二人ともさすがに酷くないか?」
「ソーレたんの料理で元気になるのも分かるが……それで?――何を考えていたか話してみろ」
「そうだな……――」
とりあえず、レベルが上がったことなどは伏せ……今ある能力だけで怪物の軍勢と戦えるようになりたいことを伝えた。
「……現状だと不可能だな」
「……やっぱり?」
「まぁ、分かってるとは思うが……念のため、さっきの戦闘で分かったお前の弱点を整理していくぞ」
ヴィルトゥは魔法で、林のほうから長めの木の棒を手元に引き寄せ、立ち上がると……砂浜に絵を描きながら説明を始めた。
俺とソーレもその絵を見るように周りに立ち並ぶ。
「まず、お前の最大の弱点は『操作できる武器が無いとまともに戦闘できないこと』だ。先ほどの特訓では、俺が召喚したマドハンドや氷矢、焔蛇に触れることで辛うじて武器を手に入れて戦うことができていたが……操作できる対象が周りに無い場合、お前は無力に等しい」
「うぐっ……!」
「私との試合では、事前に甲冑を操作できてても……背後を取られて負けてましたよね」
「はぐっ……!!」
「さすがはソーレたん。まぁ、俺が手加減抜きで坊主と次に戦う場合……武器を与える時間も与えず、見えない風魔法の斬撃で瞬殺する手を打つな」
「……分かってはいたが、マジで弱いな……俺」
「そんなに落ち込まなくても……」
「演技はやめろ……お前のことだ、すでに解決策は分かってるんだろ?」
「……まぁな。『最初から武器を持った状態で戦闘に入る』だろ」
「正解だ。つまり……お前が今すぐやるべきことは、武器の調達だ」
「武器の調達かぁ……問題はそこなんだよなぁ……実はですね――」
俺はコモン勇者の待遇をヴィルトゥに説明する。
「……なるほどな。コモン勇者ってのは武器すらまともに支給されない可能性がある……のか」
「どうにかなりませんかね……?」
「そりゃあ俺が鍛冶職人とかに言えば、武器の一つや二つくらい作ってくれるだろうが……」
「ほ、ホントか!?」
「問題は『どんな武器が欲しいか』だ。出来れば、焔蛇を操作していた時のように攻守と移動ができる武器が好ましい」
「いや、どんな武器だよ…………でも、確かに……」
焔蛇を操作していた時――俺はどんな敵が相手でも戦える自信があった。
もしも、焔蛇のように攻守のバランスが取れて、なおかつ移動ができる武器が手に入ったら――
――怪物の軍勢とも、まともに戦えるかもしれない。
「まぁ、ひとまず武器に関しては良いアイデアが思いついたら……だな。では、次の弱点について話そうか」
「うっす」
「確かお前……戦闘中に『魔力が切れる』的なことを言ってたよな?――つまり、お前の能力は魔力を消費する……という認識で合ってるか?」
「え……?――俺、そんなこと言ってた?」
「ガッツリ言ってたぞ」
「……確かに、俺の能力は魔力を消費する」
「魔力消費の具体的なルールは?」
「操作対象一体につき、一分操作する毎に魔力を1消費する」
「……随分、具体的だな……それに『魔力を1消費』って……なぜ数値化されている?――基準が分からんな……その数値が多いのか少ないのかイマイチ分からん」
「魔力量は最大で9999まで上限があるらしく、現在の俺の魔力量の最大値は133だ。つまり、俺は最大で133分間、一つの対象を操作できるってわけだ」
「どうしてそんなことが分かる?」
「……逆におっさんは分からないのか?」
「……お前、俺のこと煽ってんのか?」
「いやいや、純粋な疑問だ。ステータスを確認できないのかってハナシだ」
「すて〜たす……?――なんだそりゃ?」
「……やっぱり、ステータスを確認できるのは勇者だけか……」
「何を言ってるかよく分からんが……要は、勇者に備わった特別な力で自身の魔力量が数値化して把握できてるってことか……まぁ、そんなことしなくても魔力量の把握くらい容易いがな」
「なに張り合ってんだよ……」
「ともかくだ……お前の能力が魔力を消費するものである以上、それは必ず弱点となる。魔力を全て失った瞬間、お前は戦闘不能になるからな」
「うぐっ……これも……どうにかなりませんかね……?」
「勇者の能力は俺ですら分からんことが多い……」
「そうか……」
「――だが、魔力が関係しているならハナシは別だ。俺でも教えられることがあるかもしれん」
「……本当かっ!?」
「それに、魔法を覚えたい……と言っていたな?――現状、把握している魔法の知識を全て話してみろ」
「うっす!――まずは――」
魔法について現状把握している知識と――自分の適正が『陰魔法』の一種類のみであることをヴィルトゥに伝える。
「ほう……お前にまさかソーレたんと同じ陰魔法の適正があるとはな……」
「本当は、陽魔法が良かったんですけどね……」
「なぜだ?」
「だって、肉体強化や回復魔法が使えるし……」
「確かに陽魔法は汎用性が高く戦闘向きの魔法が多い。だが、習得難易度は他の適正と比べて段違いに高いぞ。例えば、肉体強化は強化する部位ごとに魔力を集中させる必要があり、人体の構造を理解した上での緻密な魔力コントロールが必須だ。それに全身を強化しようと思ったら、相当な魔力を消費する。燃費はめちゃくちゃ悪いぞ」
「え……?」
「回復魔法だってそうだ。表面の傷を治す程度なら、相手の自己治癒能力の強化を行えば済むが……骨折、内臓の破損、千切れた部位を接着させる、といった重症の治療はさすがに自己治癒では治せん。この場合、自身の魔力を相手の生命エネルギーへと変換させた上で与える必要があるし、人体の構造を理解した上で、視力の強化を行い内部構造を正確に把握した上で、適切な箇所に生命エネルギーを与えなければ逆に悪化させる危険性すらあるからな」
「……そんな難しかったの?――回復魔法って……」
「そういえば、昨日ソーレたんを治療した三人組がいたろ?アイツらは三人でようやく一人前だ。それぞれが役割分担をして治療をすることで、足りない部分を補い合ってる。そんな未熟者たちではあるが、あれでも最低十年は修練を積んでるぞ」
「マジか……」
つか、それを一人でやってのけるヴィルトゥは……やっぱバケモンだ……
「それに比べて陰魔法は、使い勝手は悪くない。気配を消しての不意打ち、痛みを消して無理やり戦闘を続行、相手から生命エネルギーを奪い戦力を削ぐ……使い方次第でジャイアントキリングも狙えるな」
「おぉ……!」
「ただ……一つ問題がある……」
「……ん?」
「俺は陰魔法が使えん」
「え……?おっさん、陰魔法の適正ないのか?」
「無いな。というか、俺は陽魔法の適正があるから陰魔法の適正は持てない」
「……どういうことだ?」
「まぁ俺も原理はよく分かってないが、諸説として――陰魔法と陽魔法は正反対の性質を持つためか……両方を持った魔法士は存在しないらしい。ただ、例外として……唯一全ての魔法適正を持っていたのが大昔に召喚された伝説の勇者様らしいぞ」
「……出た……白馬の勇者……」
「まぁ、俺でもある程度は陰魔法の知識はあるし、教えられなくは無いが……」
「限界がある……ってことか……」
「大丈夫です。私が教えます」
「……え?」
「ソーレたん……本当に良いのかい?」
「うん……大丈夫……」
「ソーレ……」
「ただし、条件があります」
「ん……?」
「『陰魔法は世界最強』……この言葉を大声で百回唱えてください……」
「……はい?」
「陽魔法を羨ましがるヤマトには正直うんざりしていました。まるで陰魔法がハズレみたいな言い方をされていたので、考えを改めていただきたいです」
「ええ……?」
ヴィルトゥがそっと、俺の耳元で囁く。
「ソーレたんは陰魔法に誇りを持っている。失われつつある陰魔法の血脈を両親から引き継いでいるからな……陰魔法をバカにされると実はめちゃくちゃ怒るんだよ……」
「……それ先に言ってくれよ……」
「さぁ、早く」
「……分かりました」
ソーレの地雷ポイントがよく分からん……。




