第50話「一息つきましょう」
「ふむ……まぁ、ソーレたんさえ無事なら良いか……だが、なぜだ?――『全部は無理』とは……つまり魔王は倒せないと?」
「いや……というより、魔王をそもそも倒す必要があるかどうかが引っ掛かってるんだよな」
「なに……?――どういうことだ?」
「それは――」
俺が続きを話そうとした瞬間、ヴィルトゥは何かを察知したような動きをする。
「……坊主、一旦この話は終いだ。まもなくソーレたんが戻ってくる」
「え……?どうして分かるんだ?」
「魔法で聴覚や気配察知を強化しているからな」
「そんなこともできるのか?……強化ってことは、陽魔法だよな?」
「そうだ。肉体強化は全身を強化する以外にも、一部に特化した強化も可能だ。だが当然、魔力の消費量はその分増えるがな」
「……やっぱ陽魔法が当たりだったか……」
「ふむ……その様子だと、ある程度は魔法について調べてきているようだな――だが、なぜ頭を抱える?」
「いやぁ……生まれ持った才能って残酷だな、と思っただけ……」
しばらくすると、俺でも林の方からカサカサと草木を踏みしめる音が聞こえ――
ソーレが色々と荷物を持って戻ってきた。
「二人並んでおしゃべりですか……随分、仲良くなったようですね」
「はははっ!ソーレたん、それは無い無い!先程の特訓のダメ出しをしてやってたのさ!」
「マジでこのおっさんムカつくぜ!ぐちぐちぐちぐち言いやがってよぉ」
「…………ふーん」
ヴィルトゥの嘘に便乗して、話を合わせてみたが――ソーレの反応は何かを見透かしてるように見える……。
「はい、お父さん。早くこれ着て」
「おぉ、ありがとう!!――さすがソーレたんだ!」
ヴィルトゥは手渡された道具袋から下着や黒いローブなどを取り出し、その場で着替え始めた。
「おっさん……せめて林のほうで服着てくれよ……」
「これくらい別に良いだろ」
「ソーレ……お前、相当苦労してるんだな……」
「分かってくれますか……」
「……え?」
「そういえば、ヤマトは着替えなくて大丈夫ですか?――お父さんのでよければ、一応着替えも持ってきましたが」
「え、マジか……気が利くなぁ……あ、でもちょっと待って?――俺の靴、どっかいったか知ってる?」
「え?」
「せっかく寮母さんから貰ったのに、さすがに靴だけでも見つけないと……」
「靴なら……お父さんが治療の際に……」
「……うそん」
よく見ると、治療してもらった付近に――何か革の切れ端のようなものが散らばっていた。
「そん……な……」
「おいおい……坊主、そんなに落ち込まなくても……」
「緊急事態とはいえ……ヤマト、私も一緒に寮母さんに謝りますから……」
「寮母さん……ごめんよ……」
俺は裸足のままだとさすがに街中も歩けないので、素直にソーレが持ってきてくれた換えの服と靴を借りることにした。
「坊主……お前こそ林で着替えてこいよ。ソーレたんに粗末なもん見せんじゃねぇ」
「俺は下着を履いてるから良いの。あんたはフルチンだったじゃねぇか」
「どっちもサイテーです」
とりあえず、俺とヴィルトゥは着替え終えたわけだが……
「この服……なんかおっさん臭いな……」
「お父さんのですから……」
「……さすがの俺でも傷付くぞ?」
「でも、着心地は悪くないな……普通のやつより良い素材使ってるのか?」
「ほう、違いが分かるようだな。そいつの見た目は一般の兵士が着ている服と同じに見えるが、『アラクネーゼ』という魔物の糸が編み込まれててな――」
「へぇ……なんか凄そうだな。この靴も履きやすいんだけど……これも特別な――」
「それはただの革靴だ」
「……あっそ」
「二人とも着替え終えたようですし、少し遅いですが朝食にしましょうか」
ソーレは道具袋から大きな布を取り出し、それを砂浜に敷くと持ってきていた大きなカゴから食べ物を取り出していく。
俺やヴィルトゥも敷物に座り、ソーレから食べ物と水が入った皮袋を受け取る。
「はい、これはヤマトの分で、これはお父さんの分」
「サンキュー」
「久しぶりのソーレたんの手料理……」
手渡されたのはバケットサンドで、硬めのパンの間にチーズや野菜、ハムのようなものが挟まっている。
朝食を食べずに死闘をした後だったからな……お腹が減って仕方がない……
俺は思いっきり頬張る。
「うっまぁ!!」
「だろだろ!?――ソーレたんの手料理は王よりもすげぇからな!」
「……さすがに言い過ぎ」
あっという間に平らげてしまった……
「……おかわりはありませんか……?」
「まだまだありますよ」
追加のバケットサンドを頬張る。
「……あぁ!!ズルいぞ坊主!!――少しは遠慮というものを――」
「……………………」
無心に目の前のバケットサンドを頬張り続ける。
「こいつ……『デスハムスター』みたいに無言で頬張り続けてるな……」
「ふふっ……」
……………………
…………
……
「もう……お腹いっぱい……」
気付けばソーレお手製のバケットサンドを5つは食べていて、さすがにもう入りそうにない……
「「ごちそうさまでした」」
「どういたしまして」
お腹も膨れたので、ひとまず横になって空をぼーっと見つめる。
さて……何から考えようか……
ソーレが来る前にヴィルトゥと話した内容はある程度、整理はできたが……
考えれば考えるほど、疑問が生まれる。
特に、魔王と女神……そして一年前に召喚されたという勇者たち。
様々な仮説も生まれる。
ケース1:魔王と女神が実は仲間で、何かしらの理由で俺たち勇者を使って何者かに復讐をしようと画策している。
魔王が何者かに復讐をする目的があり、女神は操られてるか魔王の信奉者になってしまって、勇者たちの固有スキルを使って何者かに復讐する計画を立てる。だが、俺や橘の能力は邪魔だから暗殺しようとしている。
一年前に召喚された勇者もそれに巻き込まれて全滅した可能性がある。
ケース2:魔王と女神は敵であり、一年前の勇者は普通に死んでて、女神は魔王を倒すために俺たちを召喚した。
これは今まで通りの流れ。だが、魔王は『とある男』に復讐をする目的がある。その男が女神の仲間と考えると辻褄は合う。ということは……その『とある男』を突き止める必要があるか……。だが、そうなると女神が別人のようになってるのが気になる。一年前の勇者が殺されたことによって人格が変わったか……あるいは『とある男』は女神よりも上の存在で、上からの指示でなりふりかまってられなくなってるか……。
色々と考えてはみるものの、どれもありえそうだが……どうもしっくりこない違和感もある。
まだ、情報が足りてないのかもしれない。
だが……いつだって最悪のケースには備えておくもの。
一番ヤバイケースは……
ケース3:魔王も女神も敵であり、一年前の勇者は実は全員生きていて敵として今後登場する。『とある男』という謎の存在も敵として登場し、さらには他のクラスメイトも女神の言いなりとなり俺の敵となって、国民全員が情報操作で俺を敵として認識するという――異世界VS俺……という意味不明な状況になること。
この最悪に備えるために、色々と準備はしておきたいところだ……。
この後、できればヴィルトゥと夕刻まで魔法について教わったり、特訓しておきたいな……
そういえば、魔力量は足りてるだろうか……
魔力がなかったら、実戦訓練はできないからな……
――ステータスを確認。
―――――――――――
<手繰 大和:Lv11>
【 生命力 】129/129
【 魔力量 】72/133
【物理攻撃力】82
【物理防御力】104
【魔法攻撃力】167
【魔法防御力】179
【 素早さ 】39
【固有スキル:コントローラー使い】
触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。
【カスタムスキル1:空きスロット】
???
―――――――――――
……あれ?
レベルめっちゃ上がってね……?




