第44話「VS世界最強の魔導士②」
「マドハンドのせいで隠れて見えないが……ソーレたんから『痛み消し』を受けたか。愛娘に感謝しろよクソガキ!そして仲良くソーレたんと話す男は必ず消す!」
「さっきからソーレたんソーレたんうるせぇぞ気持ち悪ぃ!」
「はははっ……殺す」
俺は目の前のマドハンド右手の親指の付け根あたりに掴まる。
左手だけでコントローラーを操作し――、
「ほう……向かってくるか」
ズザザザザザザッ――――
マドハンドに掴まり、ヴィルトゥへと一気に距離を詰める。
「先ほどまでは距離を取って逃げ腰だった癖に近付いてくるか!!何か策があるのかァ!?」
マドハンドの視点をTPSではなくFPS視点に切り替え、ヴィルトゥとの距離感を測る。
まだ遠い……せめて、あと十メートル――
――ヴィルトゥの周りに藍色の光が大量に出現し、それが一瞬で氷のつららへと変化する。
「串刺しの刑だぜ!!」
氷のつららの周りに一瞬だけ緑色の光が光ったかと思うと――
大量にマドハンド目掛けて飛んでくる。
この体制じゃガードできない――
ドドドドドドドドドドスッ――――
「ほぉ……まだ崩れないか」
ギリギリだっつの……FPS視点の画面にはマドハンドの体力バーが表示されているが……マジでミリだ。あと一発もらってたらその場で崩壊していた。
残り3メートル、2、1――――、
コントローラーを握る左手の指先で左ももに刺さった氷のつららの一本に触れる。
――『マドハンド』から『氷のつらら』へ操作対象を変更。
マドハンドにぶら下がりながらもヴィルトゥと左ももに刺さった氷のつららが一直線上になるように身を乗り出す。
イメージしろ……氷のつららを一発の弾丸として捉え、俺は銃だ。
狙いはもちろん――、
「――ッ!?」
氷のつららは左ももから一瞬で消え、ヴィルトゥの眉間にヒットし砕ける。
だが――
「はははっ!お前……容赦ねぇなぁ。躊躇なく頭を狙ってくるとは」
「そんくらいじゃどうせ死なないんだろ?」
「いや……悪くないぞ」
――ヴィルトゥの頭を多少のけぞらせるくらいしか出来なかった。
「まさか……俺に傷をつけるとは……良い攻撃だ。『肉体強化』無しだったらこんなもんじゃ済まなかったな」
ヴィルトゥの眉間から一滴の血が垂れる。
あまり気にしていなかったが、ヴィルトゥは戦いが始まる前から白い光を全身に纏っていた。
おそらくアレが『肉体強化』……
陽魔法は強化する性質があるんだっけか……やっぱ羨ましいな陽魔法……
俺はマドハンドから降り、両手でコントローラーを握りしめる。
「良い目だ。さっきまで虚勢を張った内心逃げ腰のクソガキから……戦う者の目になっている。やはりソーレたんは世界最高の娘だ」
ヴィルトゥは眉間の傷に軽く手で触れると、一瞬で傷が消えた。まるで手品だ。
「娘離れしろよクソジジイ。そんなんだからあんな塩対応されるんだろ」
「調子に乗るなよクソガキ」
ヴィルトゥの周りに再び氷のつららが大量に出現する。
――操作対象をマドハンドへ。
マドハンドを自分の位置より少し前に移動させる。
「凌いでみろ」
「来いよ」
氷のつららに緑色の光が一瞬光る――
マドハンドへ氷のつららが触れる瞬間、
ババババババババババキンッ――!!
「おいおい嘘だろ……?ははっ、なんだその動き」
マドハンドはデコピンで氷のつららを全て弾いた。
――ジャストガード成功。
だが、これはちょっと……
「マドハンドが出せるスピードじゃなかったぞ。指があんなに気持ち悪く高速で動くとは……」
ジャストガードってリアルでやるとあんなに気持ち悪いんだ。
「では、次は凌げるかな?」
ヴィルトゥはさらに追加で氷のつららを出現させ――緑色が光る。
ババババババババキンッ――!!
マドハンドで弾いた後、左右から一本ずつ俺に直接襲いかかる氷のつららの軌道から外れるように俺は倒れ込む。
「ほう……よく避けた……なるほど、片目だけ開けてタイミングを読んだか」
俺は左目だけを閉じ、マドハンドをTPS視点で見つつ、左右に一本ずつ飛んでいった氷のつららを見逃さなかった。
そして、右目は開きタイミングを調整。
だが、両目に別々の視点を持つとさすがに画面酔いする……。
「直線で飛ばすのは早いが、軌道を曲げて飛ばすと遅かったな」
「正解だ……よし、飛び道具はこの辺にしてこっからが本番だ」
……は?
ヴィルトゥの身体から赤い光が煙のように放出されていく。
煙は徐々に形を成していき、ウネウネと生き物のように動き出す。
さらには巨大な炎が纏わり付き――、
「うそ……だろ……?」
ものの数秒で目の前に――
――炎の大蛇が出現した。
俺なんて一飲みで平らげてしまうような……あまりにも大きく……あまりにも長い……
ヴィルトゥを守るように塒を巻いて待機し、獲物である俺を静かに見つめてくる。
……ッ!!
空気が熱い。
十数メートルは離れているはずなのに、大蛇の熱気がここまで伝わってくる。
喉が渇く……唇がパサつく……空気中の水分が急速に失われていく。
あんなのに襲われたら一瞬で燃えカスだ。
「こいつの名は……『焔蛇』ってとこか。我ながら良い形してるな」
「アンタ……そいつに包まれて熱くないのか?」
「熱いわけないだろ。コイツは俺の魔法で出したんだぞ?いわば俺の身体の一部みてーなもんだ」
「へぇ……そりゃ良い一物をお持ちで……」
「さて……じゃあまずは邪魔者から先に始末するか」
「は……?」
一瞬だった。
焔蛇の首がフッ――と消えたと思ったら、目の前に立っていたマドハンドが爆散した。
「…………冗談だろ?」
「これでお前は丸裸だ。さぁ……どう凌ぐ?」




