第42話「ヴィルトゥ=オーソ」
「ほんっ――――――っとうに申し訳ありませんでしたァ!!!!」
人生初めての土下座――、
人生初めての本気の謝罪――、
俺ってこんなに早く動けるんだ……と謎の関心。
「女神様の言いつけで娘さんと試合をすることになり、私も女性とは戦いたくないと言ったのですが女神様には聞き届けていただけず――さらには娘さんも女神様の命令で私を殺すように命じておりまして、私も生き残ろうと必死で、あのようなことになってしまいまして――本当に申し訳ありませんでした!!!!」
俺ってこんなに口が動くんだ……と謎の関心。
「俺は『外に出かけよう』と言ったよな……?意味、分かるか……?黙って付いてこい……」
「……はい」
ダメかぁ…………。
勇者を殺すとか言ってた人に聞く耳なんて付いてませんよね。
「あのクソ野郎が……ソーレたん……さっきの話は本当なのかい?」
「言いたくない」
「……そうか」
俺は黙っておじさんに付いていくことにした。
どんどん城下町から離れていってる気がする……
嫌な予感が……物凄く嫌な予感がする……
死刑台に連れて行かれる罪人は……こんな気持ちなんだろうか……
「おい……クソガキ」
「ひゃい!」
「休日に旅行に行くとしたら『海』と『森』どっちが良い?」
「え……?」
「3秒で答えろ」
なぜ今そんなことを……あ、ダメだ時間がない!
「海です……」
「理由は?」
「え……?えーっと、なんか波の音って落ち着くんですよね……」
「……そうか」
え……?マジでなんの質問なの?
…………あ、そうか。
そういうことか……ははっ……
ミスったわ。せめて『森』にすりゃ良かった……
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
ソーレが近寄ってきて小声で話しかけてきた。
「誰のせいだと思ってんの!」
「あなたのせいだと思いますが」
「あ、そうか……うん、そうだよね……俺がお前を殺しかけたんだもんね、うん……てオイ」
こいつ……楽しんでないか……?
「俺、君のお父様に殺されそうになってんだけど、護衛として守ってくれよ!娘なんだろ!?なんとか説得してくれよぉ!」
「無理ですね。お父さんは一度決めたことは曲げませんから」
「勇者の俺が死んだら困るだろ……?」
「え……?別に困りませんけど」
「あ、そうか……うん、そうだよね……女神からの命令で俺を始末しろと言われてるから、ここで俺が死んだほうが好都合だもんね、うん……てオイ」
「さっきからなにソーレたんと仲良く話してんだクソガキ……今、殺してやろうか……?」
「ひゃい!申し訳ありません!!」
「ふふっ……」
なーにニヤついてんだこの女ァ……!
なんか……だんだん腹立ってきたぞ……
なんだよこの理不尽な状況……俺は別にソーレを殺そうとしてなかっ……いや、してたわ。
もう……ワケわかんなくなってきちゃった……
「気をつけてくださいね……お父さんは強いですよ……」
「知ってるよ……圧だけでヤバいって分かる……」
「お父さんがなんて言われてるか知ってますか?」
「……なんだよ」
「『大陸最強の魔導士』です」
「大陸最強……?それに……魔導士……って確か……」
「ええ、この国で一番強いってことです」
「ソーレたん、それは間違いだよ。俺は大陸最強じゃない……『世界最強』だ。俺より強い奴と他国で出会ったことがないからな」
「自称でしょ?」
「いやいや、本当だって」
なーに普通に会話してんのこの人たち……
俺、今から殺されるんですよ?
「ほら、見えてきたぞ」
緊張感からか、おじさんばかり見てたからか、周りが全然見えてなかった。
すでに城下町から外に出ており、草原を歩かされ、ちょっとした森林を抜けた先には――
「ご希望通り、海へやってきたぞ」
――海の地平線が広がっていた。
本当に綺麗だ……透き通った青い海……だだっ広くてゴミ一つない砂浜……旅行でここに来れたならきっとのんびりバカンスを楽しんでただろう。
ははっ……旅行だったら良かったのに。
「ここなら思う存分暴れられるな……さぁクソガキ……殺し合いを始めようか」
おじさんの全身から白い光がギンギラギンに放出されている。
「考え直してもらうことは……できませんかね?」
「無理だな。まぁせめてもの情けにお前の大好きな海で殺してやる。墓も建ててやる。大好きな波の音がずーっと聴けるようにしてやるからよ」
「そうですか……」
ほらね……
やっぱ海じゃなくて『森』って答えとくんだったよ……
なんもねーじゃんここ……
「ソーレたんは離れてなさい……」
「分かった」
おじさんと俺は一定の距離を保ち、向き合う。
「ほう……ビビってた割には……死ぬ覚悟でも決まったか?悪くない目だ」
「せめて時間制限とか設けてくれないですかね……?三分間生き残ったらOK……みたいな」
「無しだ」
「ですよね」
「言っとくが……俺は本気で強いぞ?……分かってんのか?」
「多分、俺の予想の遥か上の強さでしょうね……とても敵う気がしません」
「それならなぜ挑む?のこのこ人目のつかない場所まで付いてきて……まさか俺が許すとでも?そんな甘い期待をしてたか?」
「期待してました。でも考えるの面倒になりました」
「……なんだそりゃ」
「逃げることも考えました。でも逃げられませんよね。多分あんたは逃げたらその場で殺してた」
「正解だ」
「ならもう、なるようになれって思いまして……」
「やけくそか?」
「ええ、やけくそです。それに――」
俺はなぜかソーレを見た。
「こんな場所で死ぬようじゃ……この先、絶対生き残れない。魔王も倒せない。目的も果たせない」
俺はコントローラーを片手に顕現させる。
「かかってこいよ自称世界最強……勇者の力……見せてやるよ」
「……面白い!」
なんで俺……こんなこと言ってんだろ……
「そういえば名乗り忘れてたな……せっかくの殺し合いだ……お互い名乗ろうや……今からお前を殺す奴の名前くらい知っておきたいだろ?」
腹をくくれ……交渉の余地なし……これは遊びじゃない……このクソジジイ……マジだ……マジで俺を殺そうとしてる……
こういう局面が来ることはソーレと戦った時から覚悟してただろうが……震えるな……少しでも虚勢を張れ……!
「世界最強の魔導士『ヴィルトゥ=オーソ』……お前をうっかり殺しちゃう男の名だ」
「コモン勇者『ヤマト=テグリ』……この場を生き残って、いずれ魔王を倒す男の名だ」




