第41話「犯人探し」
「勇者を殺す……って、マジですか……?」
「ああ……こうなっちゃったら、もう……仕方ないよな」
目に一切の光が無い……本気でこの人は娘を殺しかけた勇者を殺すつもりだ。
「それで……?協力してくれるか?坊主……」
勇者が一般人を殺しかける……だと?
それは確かにやりすぎだ。
異世界に召喚されて、特別な力を得て調子に乗ったのだろうか……
なんて酷い奴だ……
でも、さすがにそんなバカなことする奴がいるか……?
いや、でもやりそうな奴らに心当たりがありすぎる……
クラスの不良グループの奴らは……状況次第ではやりそうだし……
「大事な娘さんなんでしょう……そんな一般人を勇者が殺しかけた、なんて……同じ勇者として見過ごせません。是非、協力させてください」
「おお!本当か!?……でも良いのか?……同じ勇者を売ることになるんだぞ?……坊主、そこまでして魔法を教わりたいのか?」
「確かに……魔法を教わりたい、という気持ちはありますが……なんの罪もない人が殺されかけたなんて知って、何もしないのは違うと思います」
「……ほほう、なるほどな……その結果、勇者が一人死のうとも構わないと?」
「…………出来れば、殺す以外の解決法などありませんかね……?」
「例えば?」
「そうですね……指を1本切り落とすとか……?」
「そんなの回復魔法ですぐに治るだろ」
「ん〜〜〜……正直、魔王討伐に向けて戦力が欠けるのは避けたいんですよね。まだ魔王がどれほどの力を持っているか不明ですし」
「ほう……だから殺すのは待て……と?」
「それもありますが……あくまで個人的な考えで……殺すのは純粋にもったいないかな、と」
「……?……どういうことだ?」
「いや、だって……殺したらそこで終了じゃないですか。その後は痛みも何も感じないですよね?……だったら殺さずに気が済むまで痛め続けて娘さんが味わった苦しみ以上のものを味わってもらったほうが良いのかなと……」
「…………坊主、お前それ本気で言ってるのか……?」
「え……?」
「さっきの発言……お前から全く感情の揺らぎを感じなかった。嘘を感じない。それがさも当たり前だと日頃から思っている。しかも、そういうことを言う奴は調子に乗ってるか強がってるか……ともかく虚勢を張ってるような雰囲気を出すんだが……それすらもお前からは感じなかった。なんなんだお前……何者なんだ?」
「…………さすがに泣きますよ?」
「……本気でショックだったのか……すまんな……忘れてくれ……」
このおじさんは……あれだ。勘違いが凄い。
いや、俺も人のこと言えないかもだが、妄想が過ぎる。
だが、ここまで自信を持って相手が嘘を付いているかなどが分かるってことは……
魔法で相手の感情などを読み取る術があって
それである程度、嘘をついてるかなどが見破れるってことか……?
嘘発見器的な?
だとしたら、このおじさん……相当ヤバいぞ。
「とりあえず、坊主の言いたいことは分かった。殺すかどうかは魔王を討伐してからにしてやる。だが、どの勇者が娘を襲ったか……犯人は知っておきたい。その犯人を特定できたら魔法を坊主に教えてやろう」
「……分かりました。犯人探しが条件ですね」
このおっかないおじさんは見た目的に……推定年齢60歳は超えてそうだ……
この異世界における結婚や出産の平均年齢は不明だが、普通に考えてこのおじさんの娘さんは30~40歳ほどのはず……
「犯人を探す上での情報を教えてくれませんか?」
「ああ、もちろんだ」
勇者がいる場所はランクによって違うはず。
アンコモンの奴らは分からないが……レア以上は今日から訓練もあるし、待遇も良いはずだから城に住んでるはずだ。
だとすれば……
「娘さんが働いている場所は城内ですか?」
「働いている……そうだな、城内だな」
「なるほど……」
ということは、レア以上のランクのはず……
がっつり不良グループ全員がいるランク帯だな……
城内にいる女性は……
俺が出会ってきた中だと寮母さんや昨日のビュッフェの時にいたメイドさんたち……
だが、メイドさんは全員若かったよな……
とても30歳を超えてるようには見えなかった……
となると、メイドさんたちをまとめてる役職の女性あたりか……?
予想されるのは、メイド長が横暴な勇者に注意をして、それに怒った勇者が危害を加えた……ってとこか。
「ある程度、目星が絞れたかもしれません……」
「おお!本当か!やるな坊主!」
「いえいえ、それほどでも。それで、娘さんのお名前を教えていただけますか?城内での情報収集で必要になりますので」
「確かにな!俺の娘の名は――、
ソーレ=オーソだ」
……………………
ほえ?
「どうした坊主……?……な、凄い汗だぞ!?……体調でも悪いのか?……治してやろうか?……あ、もしかして暑いのか?」
「そ、そそそうですね……温かい紅茶を飲んだからかもしれましぇん……」
「今、冷やしてやるからな!」
おじさんが指先をちょちょいとするだけで、部屋全体からピシピシと音が鳴り、霜が降り始め……冷たく……寒くなってきた……いや、寒過ぎる……
「あ、ああの……念の為お聞きしたいんですが……その娘さんの見た目の特徴とか年齢とか……教えていただけますでしょうか?」
「おう、分かった。見た目は褐色肌に青色の瞳で黒い髪をしていて……年齢は18歳だな…………っておい……本当に大丈夫か?……ガクガク震えてるぞ……?」
「あ、あああいえいえ、ちょっと部屋が寒過ぎるかなぁと思いまして、ははっ」
「これは悪かった!冷やしすぎたみたいだな。部屋中、霜だらけだ」
おじさん……勇者……殺す……娘……名前……ソーレ……昨日の試合……殺しかけた……犯人は……おじさんに殺される対象は……
「そ、そそそれでは、僕はこれで!!早速、犯人を見つけて参ります!!」
「お、おう……分かった……だが無理はするなよ?体調が回復してからで大丈夫だからな……?」
早くここから離れなければ……
マズい……本気でマズい……
「あ!!見送りは結構です!!仕事中なのにお邪魔しました!!」
「そ、そうか……?」
外にいるソーレにこの父親を会わせてしまうのは本気でヤバい……
バタンッ――――!!
勢いよく店の扉が開く。
「大丈夫ですか!?」
どうしてだよォォオオ!!!!
なぜ今、店に入ってきたんだソーレェ!!!!
「そ、ソーレ……たん……」
おじさんが俺を追い越しソーレに迫る。
「そ、そそそソーレたんじゃないかぁ!?どうしたのどうしたのぉ〜!?なんでここに!?ええ〜〜〜もしかしてもしかして……帰ってきてくれたのかい!?ようやく考え直してくれたのかい!?」
「…………そちらの勇者様に何かした……?」
「え、ええ……!?この坊主に俺が……?…………あ、違う違う!!この坊主が部屋が暑いって言うから冷やしてあげてただけだって!!危害は一切加えてないさ!!」
「……本当に……?」
「もちろんだ!……それで、ソーレたん……ここに帰ってきてくれたのかい……?」
「違う……私は勇者様の護衛なの……私がこんな……恥ずかしいところに帰ってくるわけない……店の外まで氷が広がってきたから見にきただけ」
「ソーレたんがこのガキの護衛!?……あのクソ野郎……そんな命令をソーレたんに……」
「お、おい……そろそろ行くぞぉ……?次の予定ができちまったからな……行こう行こう」
「……あれ?顔色が悪いですね……体調でも悪いのですか……?」
「そそんなことないさすこぶる元気だよははっ」
「おい坊主……気安くソーレたんに話しかけるな……」
「ひぃっ!!」
「やめて!そういうところも嫌なの!」
「そんな……」
早く……早く……
「ところで、ソーレたん……もう身体の怪我は大丈夫かい?」
「……うん……バルトさんたちに治してもらった……」
「あの3バカか……後で褒美でもやっとくか……」
この場から――、
「ソーレたんを殺しかけたって勇者は……必ずパパが殺してやるからな……安心してくれ」
「だからやめてよ、そういうの……昨日、城門の前で騒いでたでしょ……恥ずかしかったんだから……」
「ごめん、ごめんて……」
離れ――、
「それで……魔法を教えてもらえることになったんですか?」
「あ、ああうん……えーと……城に戻りながら話そうか……」
「この坊主がソーレたんを襲った勇者を見つけてくれるらしくてな!その犯人を教えてくれたら俺が直々に魔法を教えてやるって約束してやったのさ!」
「え……?」
ソーレはポカンとした表情で俺を見ている。
「私を襲った犯人が分かれば、お父さんがこちらの勇者様に魔法を教えてくれる……ってこと?」
「こらこら、パパと呼びなさいといつも言ってるだろう」
「質問に答えて」
「んん……まぁ、そりゃ約束したしな……犯人が分かれば坊主に魔法は教える……話した感じ、面白そうな素材だし勇者の能力にも興味があるからな……徹底的にシゴいてやるさ」
「ふーん……」
…………おいおい…………
嘘だろ…………?
やめろ、やめろやめろ……!!
それだけは、やめ――、
「私を襲ったの、目の前にいるこの人だよ」
ソーレが俺を指差した。
表情は……いじわるそうにニヤっとしている……
――瞬間、
背筋がゾワっとする――、
空気が重い――、
強烈な圧迫感――、
身体が震えだす――、
この感覚……
前にどこかで……
…………そうだ、これは……
唯有が固有スキルで女神のカンストしたステータスを上回った時に感じた――あの――
「今からおじさんと外に出かけないかな……?…………クソガキ」
勇者としてこの世界に召喚されて2日目。
ごめん、父さん母さん……
俺は今日、殺されます。




