第38話「初日の締めくくり」
「うぉ!!美味しい……!!」
「だろ?王様の料理はプロにも引けをとらないぜ!」
俺はリリーさんの誘惑から少しでも逃れようと目の前の料理に集中する……が、これは本当に美味い……
「凄い出汁がきいてますね……しかも色んな魚が入ってる……」
「『大漁鍋』だからな。漁師たちが売れ残った魚や雑魚を鍋に全てぶち込んで、余すことなく食すことで海の神様に感謝し、次の大漁を祈願する意味合いで作られた漁師飯らしいが……王様はそこに独自の解釈を加え、ここまでの美味にまで押し上げた……」
「はぇ〜……凄いですね……」
さらに俺は、皿に盛られた揚げ物を口にする――、
サクッ――バリッ――ボリッ――
心地よい音と適度な塩っ気がさらに満足度を高めてくれる……スナック感覚でいけるぞ……
「これも美味しい……!」
「それは魚の皮や骨を揚げたものなんだが、王様曰く『兵士にとっては貴重な栄養素を含んでいる』らしくてな。しっかり食べといたほうが良いぞ!」
「栄養面までこだわってくれる……さすが王様っすよね!」
「二人ともうるさぁ〜い……どんな評論家よ」
リリーさんは何やら不機嫌そうだ……
しかし、リリーさんのペースにさせてしまっては良くないことが起こりそうだ……
全く関係ない話題を振って、この場の主導権を握るしかないッ!
「ところで、女神直属部隊のジャックって方はどんな人物なんですかね?……できればもっと知っておきたいというか……」
「なぜジャックのことを知りたがる……?」
バルトさんから当然の質問がとんでくる。
「皆さんのように優しい方が多い女神直属部隊の中では相当異色な存在だなぁと思いまして……純粋な興味からですかね」
「ふむ……なるほどな……確かにジャックは俺たちの中では浮いた存在だな」
「ですね……ジャックを一言で表すなら『野心家』って感じかな……」
「野心家ですか……」
「アイツはよく……『俺はこの国、最強の魔導士になる!』って言ってるんだが……使える魔法は火属性のみだし、修行もあまりしてない……まぁ、口先な野郎さ」
「こらこら……言い過ぎだぞ?」
「私もジャックくんには良いイメージないかなぁ〜……よく私のこと口説こうとしてくるしぃ〜……まぁ、あと10歳若かったら考えてあげても良かったけどぉ〜……」
「え……?」
「あ………………ううん!違うの!そういう意味じゃなくてね!違うよヤマトくん!安心して!」
何を安心しろと言うんだ……
なんとなくだが、リリーさんが何を目的に動いているかが分かった気がする。
「使える魔法が火属性のみ……って言ってましたが、火魔法ってそんなに弱いんですか……?」
「いいや、強いぞ!攻撃に特化した魔法が中遠距離で使えるからなぁ……あれは厄介だ」
「極めると炎の竜とか出せますもんね……」
「あれは……思い出しただけでも身震いするわ……」
何かを思い出したんだろうか……
アベルさんとリリーさんが青ざめている……
「だがジャックは……まだ未熟でな、炎を放出する簡単な魔法しか使えない。才能はあるのに勿体ないよ本当に」
「でも、修行とかめちゃくちゃ頑張ったら最強の……魔導士?……ってやつになれたりするんじゃないですか?」
「難しいだろうなぁ……『魔導士』というのは俺たちのような魔法が使えるだけの『魔法士』とは次元が違う」
「魔導士って称号は、魔法を極め……国から認められた者にのみ与えられるんだよ」
「それにぃ〜、歴代の魔導士は一種類の魔法適正だけじゃなくって、最低でも三種類は使える人ばかりだったそうよぉ?」
「なるほど……それだと確かにジャックって方には厳しいかもですね……」
「一応、魔導士になれる方法は無くはないんだけどさ……その条件がなぁ……」
「条件……?」
「シンプルに現役の魔導士を正式な決闘で倒すか……引退するのを待って、魔導士を決める大会にて優勝するか……国にもたらした功績が現役の魔導士を上回るか……とかなんだが……」
「無理よねぇ〜……」
「無理っすよねぇ〜……」
「それは皆さんでも……ですか?」
「俺たちでも無理だな……なんせ現役の魔導士があの人じゃ……」
「そうなのよねぇ〜」
「うっ……思い出しただけで吐き気が……」
相当なトラウマを抱えているのだろうか……
回復班の三人ともが青ざめている。
「にしてもヤマトくんは、魔法に興味があるのか……?」
「あ……いえいえ!僕が元いた世界では魔法なんて存在しなかったもので、純粋に興味があっただけですよ」
隣のソーレは様子を伺うように俺を見ている気がする。
魔法に関して調べてるってことは、なるべく人には話したくはない。
まぁ、どうせソーレから後で女神に俺の行動内容などは伝わるかもしれないが……
だが、今日この三人と接触できたのは本当に運が良い。
知りたい情報も得られた。
その後もリリーさんの誘惑を上手くかわしつつ、ご飯も食べ終えたので――、
「それじゃ、また会ったら一緒にご飯でも食べよう!」
「怪我したら気軽に声かけてくれよな、全部治してやるからよ」
「えぇ〜もう戻っちゃうのぉ〜もう少し――」
「今日はもうヘトヘトで……すみません……眠気が凄くて……」
「そぅお〜?また会いましょうね……次会った時にどうなってるか……楽しみにしてるわぁ」
「ははっ、それではまた!」
回復班の人たちと別れ――俺は自室へと戻った。
……………………
…………
……
「あのさ、なんでいるの……?」
ソーレは黙って俺の部屋に入ってくる。
「もう寝る時間でしょうが!自分の部屋へお帰りッ!」
「私は護衛ですので」
「さすがにやりすぎだろ!風呂も入って飯も食べた!後は寝るだけ!分かる!?俺は寝たいの!」
「では、私もここで寝ます」
「それは無茶があるでしょ……」
「ベッドは沢山ありますよ?」
「そういう問題じゃない」
コイツは……どこまでが鋭くて、どこまでが鈍いのかよく分からん……。
「普通に考えて今日出会ったばかりの男女が同じ部屋で寝るのはおかしいでしょうが。いくら護衛だからって、そこはハッキリさせよう」
「ですが……」
「寝てる時も護衛をつけるなら、普通は男の護衛を付けるもんだろ?でも女神はそうしなかった。なら、夜の時間くらいは護衛は必要ないって意味だろ」
「う…………」
「頼むから寝る時くらいは一人の時間にさせてくれ……プライベートが無いってのは辛いもんだぞ?」
「…………分かりました。では明日の朝一でお迎えにあがります」
「あいよ……そんじゃおやすみ」
「……おやすみなさい」
ソーレは静かに部屋から出て行った……。
ようやく一人になれた……
正直、今日色んなことが起こりすぎて疲れがヤバイ……今すぐ寝たい……
だが、まだ一つだけやり残したことがある……
ソーレにも秘密にしておきたい内容だ……
窓から誰も覗いていないことを確認した後、俺は棚に置いていた石ころたちを――
……………………
…………
……
「ふぅ……なるほどね……よーく分かった」
俺はその後、力尽きるようにベッドで寝落ちした。




