第37話「とんだ策士」
俺とソーレ、回復班の三人とで一緒に夕食を食べるという話になり、下駄箱に入れていた靴を取って食堂へと続く廊下を歩いていたのだが――、
「ねぇ……どうして二人がヤマトくんの側にいるのぉ……?」
――俺を取り囲むようにバルトさんとアベルさんが一緒に歩いてくれていた。
「俺たちはヤマトくんの護衛だ!」
「約束したんだよ……俺たちがヤマトくんを守るってな」
「あの……護衛は私の役目なんですが……」
どうやらリリーさんから俺を守ってくれてるらしい……この二人の反応を見るに、見た目がエッ――危険ってわけではなく……もっと別の何かがあるのだろう……。
「意味わかんなぁ〜い…………もぅ……」
リリーさんは不満そうな声をあげるが、俺は念の為……顔を合わせないようにしておく。
廊下を出ると、美味しそうな匂いがさらに濃くなり……お腹が自然と鳴ってしまう。
食堂はかなりの広さで、多くのテーブルが置かれており、すでに兵士たちで賑わっていた。ファンタジーな酒場を大規模にしたような感じだ。先ほどの大浴場とは違って光石の数は少なめだが、薄暗さが酒場なイメージを押し出し、非常に開放的な空間となっている。
食堂ではさすがに靴を履かないといけないようなので、靴を履き直しバルトさんに付いていく。
「ヤマトくん、料理はあっちの厨房で直接受け取って好きな席で食べる流れだから覚えておくといい。おい、リリー。五人分の席を確保しておいてくれ。料理は俺が持っていくから」
「えぇ〜……私も一緒に……」
「ダメだ……」
リリーさんを少しでも俺に近づけたくないらしい……バルトさんありがとう……。
厨房には列ができており、俺たちもそこに並ぶ。『本日のメニュー』と書かれたボードがあるが……
「ほう……今日のメニューは『大漁鍋』に『魚の皮と骨の揚げ物』か」
「毎日のように魚料理ですけど、飽きないんすよねぇ〜」
「へぇ、魚料理か……にしても食糧難なのにしっかりした料理って出るんだな」
「海が近いですからね……穀物や野菜などは制限されていますが、魚はとれますので」
「なるほどぉ〜」
列の最初にある木製のトレイを持ち、厨房にいる人が順番に料理をトレイに乗せてくれている。
俺たちの番になり、料理が出され――、
「おやおや……?あなたは勇者様ではないですかな?」
「え……?」
料理をトレイに乗せてくれる人が声をかけてきた。
……………………あれ、この人って――、
「え、えええ!?お、王様ですか!?」
「はい……あ、この見た目だから分かりにくいですよね、ほほほっ!」
料理を出しているのは王様だった。
他の料理人と同じ白いコックコートを着ていたため気付けなかった……
「王様はこうやって俺たちのために料理を作ってくれてるんだぞ」
「しかも、これがめちゃくちゃ美味いんだ!」
「そう言ってくれると嬉しいよ、ほほほっ!」
「ええ〜〜〜〜……」
王様ってもっとこう……威厳があって……え、王様って、こんな気さくに兵士と話し合ったりするもんだっけ……?
「ささ、勇者様!たーくさん食べて栄養付けてくださいね!」
明らかに周りと比べて大盛りな料理を王様がトレイに乗せてくれた……
「あ、ありがとうございます……美味しくいただきます……」
意外すぎる王様との再会に……面食らってしまった……。
料理を受け取った後は、木製のコップに水を入れて……リリーさんが確保してくれている席へと向かった。
食堂の片隅にある丸テーブルを確保してくれていたらしく、本来は四人用なのだろうが、簡易な木の椅子を他から持ってきて無理やり五人用の席にしたようだ。
さて……俺はどこに座ろ――
「はい、ヤマトくんはここに座ってぇ〜」
「え……?」
リリーさんに無理やり席に座らされ……隣にリリーさんが座った……
「待てリリー!それはダメだぞ!」
「えぇ〜どうしてぇ〜?」
「護衛として見過ごせん!」
「あの……護衛は私の役目……」
…………結局、俺の隣にはソーレとバルトさんが座ることになった。
「もぉ〜う……仕方ないんだからぁ〜」
「油断も隙もないな……」
リリーさんとアベルさんも向かいの席に座る――、
「よいしょ……っと」
俺は戦慄した――、
リリーさんの二つのおっ――兵器がテーブルにこれでもかと乗せられ……物凄いことになっている……
「ふぅ〜……軽くなったぁ〜……」
そして、リリーさんは明らかに俺の様子を窺っている…………
しまった……思わぬ衝撃で見てしまった……ッ!
リリーさんの口角が上がっている……
俺がおっ――兵器を見ていることを喜んでいる……だと!?
思わぬアクシデント……くっ!視線を逸さなければッ!!
なんてことだ……まさか向かい側に座ることが『思わぬ伏兵』となっていたとは……
…………いや、待て……?
……まさか、
この状況になるように誘導されていた……?
ここは食堂の片隅……リリーさんの背は壁で、リリーさん以外が視界に入らないような位置取りだ……
食堂にいる他の兵士などが視界に入らないように、俺をあえてこの位置に座らせたとでもいうのか……!?
なんという策士だ……このままだと俺は食事中のほとんどを……
おっぱいミスディレクションされてしまうッ!!
「しょうもない考え事してないで早く食べたらどうですか……?……料理冷めちゃいますよ」
ソーレの俺を見る目も冷え切っていた気がした。




